希様より:
意固地なしは誰? (オスカー×ロザリア)
「きゃああっ!」
主星のとある場所、観光地として有名なその場所に立つホテルの一室、
其処に唐突に響くその悲鳴。
「如何した、ロザリア」
その声に応える様に、駆け込んで来た、その声。
緋色の髪も鮮やかな長身の男の目の前には、部屋のベッドの上、
其処に開いたトランクの傍に涙目で座る女性の姿が在った。
「こここ、これは一体、如何言う事ですのッ!?」
「如何した、ロザリア」
「如何したも何も有りませんわ!!」
紫色の巻き毛を振り乱し、ロザリアと呼ばれた女性は
緋色の髪の男をキッと睨み付け、
「オスカー、貴方の仕業ですのね!?」
手に持った"それ"を、オスカーと呼んだ男の前に突き付ける。
突き付けられたそれを見て、オスカーと呼ばれた男は「……ほう」
と小さく声を漏らした。
それは、水着だった。
パステルピンクの、それを握った手と同化して見える程のそれは、
持ち主の豊満な肢体を隠すには明らかに布面積が少ない――
所謂『紐ビキニ』と呼ばれる水着だった。
「私はお気に入りのワンピースを入れていましたのに……貴方が入れ替えましたの!?」
「おいおい、幾ら何でもそれは飛んだ誤解と言う物だぜ?」
胸元で掌をひらひらと振りながら、オスカーが答える。
「俺がレディのトランクを漁る様な無粋な男だと思ったのか?」
「それは……そうは思いませんけれど」
オスカーの言葉に、シュンとなるロザリア。
「ですが私、こんなモノを買った、入れた覚えなんて……それに……」
「……それに?」
「……こんな大胆なモノ、私には到底着られませんわ……」
「なら、着なければ良い」
沈む肩に、オスカーは柔らかく手を添え、彼女の傍に座り込む。
ロザリアは弾かれる様に顔を上げながら、
「ですが……アンジェが此処のビーチが有名だからと……私、此処で泳ぐ事を楽しみに
していましたのに……」
「此処の観光はビーチ一つだけじゃないだろう? 他を楽しめば良いだけの話だ」
「……」
「明日からは――今日からでも名所を回って行こう。レンタカーのリザーブもしてある。俺がエスコートしてやるから」
「…………分かりましたわ。出来ない事を嘆いても仕方有りませんものね」
数瞬の沈黙の後、ロザリアは若干唇を尖らせつつ、呟く様に答える。
ついと逸らしたロザリアの視線からは、若干痛みを堪える様なオスカーの表情は見えなかった。
それからの数日、二人は観光地でのひと時をエンジョイしていた。
その地でこそ恋人同士等に見えるが、聖地に戻れば女王補佐官と炎の守護聖と言う重責に在る二人で有る。
「偶には恋人らしい時間を過ごしなさい」と言う親友兼上司の言葉に甘えた二人の蜜月も、
気が付けば帰途の前夜となっていたのだった。
ホテルでの最後のバスタイムを終え、部屋に上がって来たオスカーは、其処で『信じられない光景』を見た。
「な……っ」
思わず零れ掛けた自分の声を、オスカーはパシンと小さく音を立てて自分の口を手で塞いだ。
部屋の隅に在った姿見の傍に、求めた姿は在った。
だが、その姿が――
(こいつは想像以上だな……)
彼女――ロザリアは、姿見を目の前に、着替えをしていたのだ。
数日前、涙目で自分に怒りを見せた、『紐ビキニ』姿に。
姿見の視界外なのか、彼女がオスカーの気配に気付く様子はない。
無防備に晒した後姿は、髪を結い上げていた事、室内の暖色の照明も相俟って、ビキニの紐に気付けなければ、
全裸と間違っても良い有様だった。
小柄ながらも、官能的な艶めかしい肢体。
ポージングをしているのか、時折ゆらゆらと揺れる腰付きは、まるで『誘っている』かの様にも見える。
(参ったぜ……)
緩く足の付け根に集まる『熱』を感じながらも、オスカーは気配を消してロザリアの背後に近付き、
動きを封じる様に抱きすくめる。
「きゃ、きゃあっ! オスカー!?」
突然抱きすくめられ、もがく小さな身体を封じる様にオスカーがふっ、と耳に吹き込めば、
腕の中の身体がびくりと震え、「ぁっ」と小さく艶めいた声が漏れる。
「そんなセクシーな格好をして……誘っているのか?」
「そんな、こと、は……っ」
「これは確か此処に来た初日、「こんなの着られない」なんて言っていた奴じゃ無かったか?」
「だって……せっかく、だから、きてみたい、と……っ」
オスカーのウィスパーボイスに、ロザリアの身体は憐れなほどにビクビクと震える。
「……ふ。まあどちらでも良いさ。男として、これ程の『据え膳』を放って置かない手は無い。有難く頂くとするぜ」
「や、え、あっ、オスカー!?」
オスカーはロザリアをベッドに押し倒しながら、自分のトランクの奥に突っ込んだワンピースの水着の
事は、墓場まで持って行こうと心に決めていた。
(君はこの水着を着られないと嘆いていたけれど)
(水着を着なくても注目を集めてしまう君を独り占めしたいと思う俺の方が)
(きっと何倍も意固地なしなのかも知れないな)
《FIN》