…甘々なおまけ

「あ、ロザリア様。 すごく可愛いペンですね。」
目ざとくペンに気が付いた女官に、ロザリアは手を止めると、にっこりとほほ笑んだ。
「そうでしょう? クリップの部分にクマちゃんが付いているんですのよ。」
ちらりとペンを回して見せると、確かにクリップの部分に金のテディベアが付いている。
瞳部分にはめ込まれたスワロフスキーがきらりと光って、まるでクマがにっこりと笑っているようだ。

「本当ですね! グリップにもラインストーンがいっぱいだし。
 …もしかして、また、陛下とお揃いなんですか?」
女官の口調は、どことなく同情しているように聞こえた。
きっと、『陛下に趣味の合わないものを押し付けられてロザリア様もお可哀想ですね。』とでも、言いたいのだろう。
キラキラでラブリーなクマのペンは、才色兼備の女王補佐官には似合わないから。
今までのロザリアなら、そこであいまいな笑みを浮かべて、誤魔化していたはずだ。
けれど。

「先日、セレスティアに出かけた時に、メゾンプラネットで見つけたんですの。
 とても可愛くて、すぐに購入してしまいましたわ。」
「え、ロザリア様が…ですか?」
驚いている女官に、
「ええ。 わたくしが気に入って購入したんですの。」
ロザリアはとても楽しそうに目を細めた。
その視線の先にはペーパーウエイト。
…ずっと引き出しの奥にしまわれたままだった、二羽のウサギが並んだものだ。
耳に結ばれたチェックのリボンや紙をはさむ部分にあしらわれた人参が可愛い。
女官もロザリアの視線を追うように、ペーパーウエイトを見て…すぐにニッコリとほほ笑んだ。

「とてもかわいいですね! 実は私も…。」
ポケットから取り出した端末についていたのは、小さなマカロンが3つも繋がったストラップ。
キラキラのビーズもたくさんぶらさっがている。
「可愛いモノ、好きなんです。 ヒミツにしてましたけど。」
「まあ。 同じですのね。」

二人で目を合わせて、ふふ、と笑い合った。
『好き』という呪文のおかげだろうか。
この間までのよそよそしさが嘘のように無くなっている。
きっとこれも魔法の効果に違いない。

「そうそう。 可愛いって大事だよね。」
すると、開いていたドアからひょっこりと顔を出したオリヴィエが軽くウインクをしながら、ロザリア達へと近づいてきた。
ヒラヒラと舞うシフォンのストールと華やかな香り。
オリヴィエは軽くロザリアの肩を抱いた。

「ま、女の子ってさ、存在だけで十分可愛いんだけど。」
「オスカーが言いそうなことですわね。」
「ヤダ! あの男と一緒にしないでよね~。」
「一緒じゃないですよね、ロザリア様?」
「…。」
頬を染めて黙り込んだロザリアに、オリヴィエがキャハハと笑う。
二人に気を使ったのか、さりげなく女官が席を外すと、オリヴィエは手にしていた袋から、一枚のドレスを取り出した。

「仮縫いまでできたんだ。 ちょっと着てみてよ。」
「今ですの?」
「ダメ? このドレスを着たあんたを早く見たいと思って結構頑張ったのにさ。」
肩をすくめて言われれば、ロザリアも黙るしかない。
オリヴィエが出来るだけ自分の手で作りたい、と、プライベートな時間のほとんどを費やして、ドレスに取り掛かってくれていたことは知っている。
それにロザリア自身も早く憧れのドレスを着てみたかった。
「わかりましたわ。」
ロザリアはオリヴィエの手からドレスを受け取ると、奥の間へと着替えに向かった。

「どうかしら?」
くるりと体を回転させると、ふわふわのチュールスカートも一緒になって踊る。
ロイヤルブルーの上半身部分はすっきりとしていて、背中の編上げのおかげか、見事なボディラインを少しも損なっていない。
だんだんとパステルへと変わるグラデーションのカラーもただ甘いだけではなく、清楚感がある。
ところどころに縫い付けられたシフォンのバラも彼女という華をさらに引き立てるように咲いていて。
キレイで凛としているけれど、どこかロマンティック。
まるでロザリアそのもののドレス。

自画自賛と言えばそれまでだが、オリヴィエもドレスの仕上がりに満足できた。
…あまりにも似合いすぎて、この彼女を誰にも見せたくない、とまで思ってしまうほどに。
でも、そんなささいな嫉妬心をロザリアの輝く笑顔は溶かしてしまう。
ロザリアは考えてもいないだろうけれど。
いつも本当の意味で振り回されているのはオリヴィエの方に違いない。
だから、少しくらいのおふざけは許してもらってもいいはず。


「ホントに可愛いんだから。」
オリヴィエが耳元で囁く声にロザリアがまた赤くなる。
「ん~、ホントに可愛い。 もう可愛くてしょうがない。」
ふっと耳に息を吹きかけると、ロザリアの身体がビクッと震える。
緊張する肩も、ほんのりと染まる首筋も・・・可愛くてたまらない。
カールした横髪を指に巻いて、「可愛い。」と、囁き続けた。

「おやめになって。 怒りますわよ。」
睨み付けられても、怖いどころか、かえって可愛いと思ってしまうのだから…オリヴィエ自身もかなりの重症だと自覚せざるを得ない。
そして、可愛いと思えば思うほど、苛めたくなってしまうのも、困った性格だ。

「だって、ホントに可愛いんだもん。 私もね、可愛いモノが大好きなんだよ? あんたと同じ。」
「・・・オリヴィエは全然可愛くないですわ!」
「ん? ホント? じゃ、キライってこと?」
オリヴィエはすっと顔を近づけると、ロザリアの頬に触れるだけのキスを落とした。

「ちゃんと言わないと、これでおあずけだよ。」
楽しそうに細められた暗青色の瞳に、ロザリアはさらに赤くなってそっぽを向く。
いつもこうやって、ロザリアばかりがドキドキしているようで悔しい。

「…やっぱり可愛くないですわ!!!! でも・・・。」
「でも?」
「…好き。」
「よくできました。」
オリヴィエはくすっと笑うと、今度は唇に甘いキスを落としたのだった。


FIN
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