運命のヒト

初めて足を踏み入れた聖地は、爽やかな日差しがキラキラと輝く天国のような場所だった。
全ての花が盛りとばかりに咲き誇り、草をなでる風さえも鮮やかな色を持っているような気がする。
眩しい光に手をかざしたチャーリーは立ち止まって考えた。
「うーん、わりと聖地っていうトコは日差しがきついんやな。日傘とか仕入れたら、売れるんちゃうやろか・・・?」
日焼け止めとかもええよなあ、とぶつぶつ独り言を言いながら歩いて行くと、ひときわ豪奢な建物が目に入る。
チャーリーはひょいひょいと階段を駆け上がると、重そうな扉を開けた。

かた苦しい雰囲気の女官たちに連れてこられたのは、謁見の間。
もうすぐ女王がこの部屋にやってくる。
初めて見る女王とは一体どんな存在なんだろう。
至高の女性、唯一無二のお方。とんでもない美人…だったりするのかもしれない。
チャーリーが期待に胸を膨らませていると、奥のカーテンが揺れて一人の女性が姿を現した。

すらりとした姿に沿った優美なラインの蒼いドレス。
ベールにおおわれたその姿は気品にあふれて、周りの光すらかすんでいるように思える。
耳元で天使のラッパが聞こえたような気がして、チャーリーは目を見開いた。
「ごきげんよう。よく来て下さいましたわね。」
天上の音楽のような声にチャーリーは思わず直立不動になる。
「はい!女王陛下にはご機嫌麗しく、あの、麗しくて・・・いて。」
似合わない言葉に舌をかんだチャーリーに目の前の女性は柔らかく微笑んだ。
途端にチャーリーの心臓が異常なほど波打って、まるでぜんまいを巻いたばかりのブリキのおもちゃのように口から飛び出しそうになる。
「ああ~~。なんや緊張しまくりですわ。ちょっと待ってください。」
あわてて深呼吸を繰り返すチャーリーに女性はますます楽しそうに微笑むと言った。
「わたくしは女王補佐官ロザリア。女王に謁見する前に、わたくしからいくつかお話しさせていただきますわ。」
どんどん大きくなる鼓動にチャーリーはロザリアの言葉が全く聞こえない。
そのあとの女王の話も半分上の空で聞くと、いつの間にか宮殿の外に出ていた。

「あんな女性がこの世におったなんて・・・。」
数回瞬きを繰り返したチャーリーはもう一度、補佐官と名乗ったロザリアの姿を思い出した。
完璧なスタイル、音楽のような声、女神のような微笑み。
今まで見たどんな女性よりも美しい。
「やる気が出てきたでー!」
チャーリーはうきうきとスキップをすると、これから始まる日々に拳を突き出したのだった。


「はあ・・・。」
口から出たため息は一体何回目だろう。
女王試験のために聖地へとやってきたチャーリーは庭園に店を構えた。
かわいい女王候補の合間に守護聖や聖地の人々も顔を出す。
それなのに。
お目当てのロザリアは一度も現れなかった。
さらに、店に来る人々にさりげなく聞いたロザリアのうわさ。
「お固い」「真面目」「高飛車」・・・。「笑顔を見たことがない」なんていうのもあった。
どうやら彼女はいささか有能すぎる補佐官、と人々の目に映っているらしい。
「なんやー、あの笑顔を見たんは俺だけなんかいな。」
そう思うと、面映ゆいような気がしてチャーリーは立ち上がる。
いそいそと段ボールの中をあさったチャーリーは、一抱えもある荷物を唐草模様の風呂敷に包むと宮殿へと向かった。

「こんにちはー。ごめんください~!」
突然の来訪者に一瞬目を見開いたロザリアはすぐにツンとした顔に戻ると、腰に手を当ててチャーリーにじろりと視線を向けた。
「何の御用ですの?わたくしは何も頼んでいませんけれど。」
時々チャーリーが配達と称して宮殿に出入りしているのはロザリアも承知していた。
女王がこれ幸いとばかりにとんでもないモノを注文しているのも見逃してきたのだ。
しかし、自分は何も頼んでいない。これから頼むつもりもない。
ロザリアの胡散臭げな視線にひるむこともなく、チャーリーは風呂敷を広げると、中身をテーブルに並べ始めた。
こまごまとした小物の後、最後に取りだしたのはカセットコンロ。
どんっと大きな音を立ててテーブルに乗ったコンロをロザリアは目を丸くして見つめた。

「実は今日、俺の誕生日なんです。」
「まあ、おめでとうございます。」
深々とお辞儀をしたロザリアにチャーリーも大げさなほどの礼で返す。
なんとなく笑顔になったロザリアはきょとんとした瞳でチャーリーを見つめた。
途端にドキドキと音を立てる自分の心臓にチャーリーは(静かにせえよ)と、手をあてる。
「せやけど、俺、まだ、聖地に知り合いって、ほとんどおらんのですわ。最初にいろいろ親切にしてもろうたし、お礼も兼ねて、俺と飯を食うてくれませんか?」
ロザリアを見れば、相変わらずきょとんとした顔をしているが、どうやら拒絶ではないらしい。
チャーリーが小物の中から鉄板を取り出してコンロにセットをすると、ロザリアは興味しんしんという顔でチャーリーに尋ねた。
「なにをするつもりなんですの?」
「たこやきですわ~。食うたこと、ありますか?」

首を横に振る可愛らしい姿に、チャーリーは満足げにピックを取り上げた。
「すぐに準備しますよって、待っといてください!」
張り切って腕まくりをしたチャーリーは鼻歌交じりにボールに粉を溶くと、ぐるぐると混ぜて行く。
しばらくその動きを見つめていたロザリアは、はっと気づいたように、頭のベールを取ると、クローゼットからエプロンを取り出した。
「わたくしにもお手伝いをさせてくださいませ。」
「そないなことさせられませんよ!ロザリア様は座っといてください。」
チャーリーの言葉が聞こえているのかいないのか、ロザリアはネギを手に取ると、珍しげに眺めている。
「待っているだけなんて、わたくしの性にあいませんの。これはどうしたらよろしいの?」
ツンと顎を上げてそんなことを言うロザリアにチャーリーは苦笑してネギを刻んで見せた。
「お上手ですのね。」
驚いたロザリアに自慢げにVサインをすると、ロザリアはムキになって懸命にネギを刻み始める。
「負けず嫌いなとこもええよな。」
つぶやいたチャーリーにロザリアが振り向くと、チャーリーは素知らぬ顔でタコを切っていた。

話しながら準備をしていると、あっという間に材料がそろう。
チャーリーはコンロに油を引くと、生地を流しいれた。
「まあ!」
好奇心いっぱいなロザリアの前でくるくると生地を丸めると、あっという間にたこ焼きができ上がった。
まん丸の綺麗なたこ焼きが優雅な薔薇の白磁に盛られたところは、なんとなくお笑いのネタくさい。
チャーリーは2本のつまようじをたこ焼きに挿すと、ロザリアに皿を手渡した。
「さあ、食べてみてください。めちゃ熱いんで気ぃつけて下さいね。」
恐る恐るつまようじの刺さった1個を手にしたロザリアは、ふうふうとたこ焼きに一生懸命息を吹きかけて冷ましている。
「おいしい!」
見たことのないような満面の笑顔にまた、チャーリーの胸が大きく鳴る。
「どんどん焼いてきまっせー。」
「次はわたくしに焼かせてくださいな。」
「できますのん?」
「まあ!わたくしを誰だと思ってらっしゃるの?!」
自然な笑顔を見せるロザリアと、チャーリーは初めて一日を過ごしたのだった。


「さあ、今日も焼きますわよ?」
すっかりたこ焼きの楽しさに目覚めたロザリアが三角巾をぎゅっと締めると、コンロに火をつけた。
最初の日に結局上手く丸めることができなかったロザリアは、毎週のようにチャーリーを呼び出しては練習を重ねていた。
その噂が広まり、いつしか土の曜日の午後はたこ焼きの日になっている。
「次はオレだからな。」
「ずるいよ、ゼフェル~。僕だってやりたいんだからー。」
「女王が先に決まってるでしょ!」
わいわいとコンロの周りを取り囲む守護聖と女王のやりとりにもすっかり慣れたチャーリーは手早く粉を合わせるとロザリアに手渡した。
一度焼き始めると、次々と焼き手も変わっていく。
「今日が最後かもしれないね。」
マルセルの言葉にチャーリーは思わず手をとめた。
新宇宙の発展は目覚ましく、ゴールまで間もないのは誰の目にも明らかだ。
一瞬しんみりした空気をチャーリーの声が吹き飛ばした。
「さあ、次は誰が焼くんでっか!今日は激辛スパイスも用意してまっせー!」
「じゃあ、オレだ!」
「待ってよ~。」

楽しい空気に切り替わったことに安心して、チャーリーがそっとその場を離れると、「ねえ。」と、呼びとめられた。
びっくりして振り返った先には、にこにこした笑顔のリモージュが立っている。
「びっくりしたー。もう、なんですのん。」
リモージュはくすくすと笑うと、少し真剣な表情になって言った。
「ロザリアってね。激ニブなのよ。」
「激ニブ?」
「そうなの。きっとあなたの気持にも全然気づいてないと思うわ。」
自分の想いを気付かれていたことに苦笑しながら、チャーリーは考えるように顎に手を当てる。
「ロザリアだってきっと、あなたのこと気になっているはずよ。最近とっても明るくなったってみんな言っているもの。」

このところ庭園で耳にする補佐官のうわさ。
「綺麗」「角がとれた」「笑っていた」・・・・。
実のところ、あんまりロザリアの良さを知られたくないという気持ちもあることにはある。
それでも、ロザリアが楽しそうにしているのを見るのは、やっぱり嬉しかった。

リモージュのわくわくしたような緑の瞳にチャーリーはにやっと笑みを見せた。
「陛下。俺って、結構ロマンチストなんですわ。」
リモージュの首が不思議そうに傾いた。
「ロザリア様を一目見たときにビビッと来たんです。俺の運命のヒトやーって。
だから、これが今生の別れのはずないんです。絶対また会えるんや。それが、運命ってヤツですやろ?」
リモージュの口がぽかんとあいて、そのうちくすくすと笑いだした。
「ホントね。あなたってとってもロマンチストだわ。じゃ、わたしからもロザリアには言わない。あなたたちの運命を信じてみるから。」
指きりの代わりに軽くウインクしたチャーリーの肩をリモージュがポン、と優しく叩いた。

試験終了の前、チャーリーはロザリアの元へむかった。
チャーリーがロザリアの前に置いたのは大きな風呂敷包み。
「これはなんですの?」
胡散臭い模様の風呂敷包みはとても重そうで、中からは金属がガチャガチャとぶつかる音がする。
「たこ焼きセットですわー。俺の秘伝の粉のレシピも入ってまっせ。」
確かに風呂敷の結び目からノートらしきものものぞいている。
「これを預かっとってください。」
不思議そうな顔をしたロザリアにチャーリーは笑顔を見せた。
「絶対また会いにきますよって、そんときにまた、一緒にたこ焼き作ってくれませんか?」
試験が終われば、違う時の流れが待っている。
もう2度と会うことすらない、と思うのが普通だ。
「わたくしが預かってよろしいんですの?」
「ロザリア様に預かっとってほしいんです。俺の大切なもんやから。」
チャーリーの強い意志に負けたようにロザリアは頷いた。
「では、預かっておきますわ。もし、取りに来られないときは、わたくしのモノにしますわよ。」
「ええですよ。練習しとってください。まだまだ、俺には敵いませんよってなー。」
「まあ!」
当たり前のようにポンポンと飛び出すリズムの良い会話も、いつの間にできるようになったのだろう。
ロザリアはなぜかクローゼットの一番手前にその大きな風呂敷包みを入れたのだった。

やがて、試験が終わり、教官と協力者はそれぞれの場所へと帰って行った。
皆を送り出したロザリアはなんとなく、心に穴があいたような気がして、補佐官室のソファへ座りこむ。
なぜかしら?宇宙も平和になって何の問題もないはずなのに。
ため息交じりにベールをかきあげると、向かいのソファの下で何かがきらりと光っている。
かがみこんで拾い上げたロザリアの瞳に映ったのは、1本のピック。
「たこ焼きの・・・。」
器用にくるくるとチャーリーの手の先で丸くなっていくたこ焼き。
ロザリアはなんだか胸がチクリと痛くなったような気がして、そのピックを風呂敷にしまい込んだのだった。


「好きな食べ物はなんですか?」
インタビュアーに聞かれたチャーリーは笑顔を見せて、「たこ焼きやなあ。」と答えた。
主星の中でも1等地に建つ高層ビルの最上階が今のチャーリーの場所だ。
財閥の総帥として、経済誌の表紙を飾るのも初めてではなかった。
「週に何回くらい食べるんですか?」
「う~ん。好きやねんけど、もう3年くらい食うてませんのや。」
ロザリアにたこ焼きセットを預けてもうすぐ3年になる。
その間に会う機会もあったが、皇帝の侵略やラ・ガの脅威のせいか二人でゆっくり過ごすことはできなかった。
ラ・ガの事件で会ったときもロザリアは相変わらず綺麗で、かわいくて、全く変わらない姿だった。
ただ、自分だけが年をとっていく。こうして、いつか先に死んでしまうのだろうか。彼女を残して。
「どうして、食べないんですか?」
インタビュアーは好奇心に満ちた瞳を向けてくる。
「それは・・・。秘密ですわ。男って少しくらい秘密があった方がカッコええですやん。」
冗談めかしたチャーリーの言葉にインタビュアーも苦笑して質問を切り上げる。
エトワールと呼ばれる少女がチャーリーの前に訪れたのはそれからすぐのことだった。


まだ着慣れない執務服にそでを通すと、チャーリーは聖殿に向かった。
聖獣の宇宙の守護聖になってからあわただしく日が過ぎている。
まだがらんとした聖殿は神鳥の宇宙の聖殿とは全く違っていて、本当にここが彼女の世界に通じているのか、チャーリーには実感がなかった。
「ん??なんや?この匂いは・・・?!」
足を踏み入れた時から漂う、どこか懐かしい、香ばしいようなにおい。
自然と早足になったチャーリーはにおいの元である自分の部屋の執務室のドアを思いっきり開けた。
「あら?どなたかしら?」
三角巾をした青紫の頭はドアが開いても振り向こうとしない。
「どなた、って、あんた。ここ、俺の部屋なんやけど。」
「そうでしたわね。」
そっけない返事にチャーリーは首をかしげた。
この間任官式であった時は、嬉しそうな顔をしていたような気がしたのに。

「なにしてますのん?」
やっと、ロザリアがチャーリーの顔をまともに見た。
吸い込まれそうな青い瞳。初めて会った時と変わらない、彼女がそこにいた。
「たこやきですわ。・・・見てお分かりになりませんの?」
「いや、たこやきかな~とは思っとったんですけど、なんでかな~って、そっちの方が気になりましてん。」
ロザリアの返事はない。
すでに丸くなっているたこ焼きをピックでまわしながら、さらに焼き色をつけている。
その堂に入った手つきにチャーリーは顎に手を当てて、うんうんと頷いた。
「なんや、エライ上達しはりましたんですなあ。もしかして、練習しとったんですか?」
そんなはずはないと、本当に冗談のつもりだった。
それなのにロザリアは「ええ。」と頷いて、焼き上がったたこ焼きを上手にピックで刺すと、皿に乗せていく。

「練習しましたわ。いつか、あなたに見せようと思っていましたの。」
綺麗な焼き色のまん丸なたこ焼き。
今の言葉は、どう解釈したらいいのだろう。
たこ焼きとロザリアと、交互に見比べて、チャーリーは自分の心臓がどんどん大きな音を立ててくるのに気づいた。
「もしかして、それは。」
言いかけたチャーリーの言葉をロザリアがぴしゃっと遮った。
「熱いうちに食べるようにいつもおっしゃっていましたわ。ご自分は守らないおつもりですの?」
「はい!すぐにいただきます!」
きょろきょろとあたりを見たが、フォークもピックも見当たらない。
まさかロザリアが握っているのを借りるわけにもいかず、チャーリーは素手でたこ焼きをつかむと、思い切って一口で口の中へほおりこんだ。

熱い。めちゃくちゃ熱いのは、まあ、予想通りだ。
けれど。
「なんですのん?!これは?!」
思わず飲みこんでから、チャーリーは叫び声を上げた。
甘い。すっごく甘い。ありえないほどに、そのたこ焼きは甘かった。
「チョコレート入りですの。ですから、たこ焼きというのは間違いですわね。チョコレート焼き、かしら?」
くすくすと笑っているロザリアは、まるで花のように綺麗で、チャーリーは目を白黒させた後、その笑顔に見とれてしまった。

「今日が何の日か、ご存じ?」
「はい?」
「バレンタインデーですのよ。」
くすくす笑いがぴたりとやんで、はにかんだ笑顔に変わる。
「チョコレート。あなたが一番お好きなモノと合わせてみたんですの。」
「俺に?・・・ひょっとして、義理でっか?」
聞かなければよかったのかもしれない。
でも、ずっと会いたかったロザリアと、ずっと食べたかったたこ焼きと。
二つを目の前にして、冷静でいられたら、逆に自分らしくないような気もする。
「義理がよろしければ、こちらもありますわ。」
ロザリアがウォン商会で一番の売り上げの真っ赤なパッケージの板チョコレートを取りだした。
チャーリーはそのチョコレートをぽいっとテーブルに置く。

「こっちがええ。俺、これやったら、いくらでも食べれますわ!」
皿の上のチョコレート焼きをチャーリーは手づかみで次々と口に入れると、頬が膨らんでも、まだぎゅうぎゅうと押し込んでいった。
「そんなに一度に口に入れたらいけませんわ。」
案の定むせて、グラスを手にしたロザリアが心配そうにチャーリーを覗き込んだ。
「めっちゃうれしい。俺、あんたが好きや。好きで好きで、たまらんかった。これからやって、ずっと、好きやー!」
チャーリーの両腕がロザリアを抱きしめる。
「もう離さへん。あんたは俺の運命のヒトや。初めて会った時から、そう思ってた。」
背中にそっとロザリアの手が回されたのがわかって、チャーリーは息を飲んだ。
「わたくしも、いつの間にか、あなたのことばかり考えていましたの。好きなのはたこ焼じゃなかったんですわ。」
耳元で聞こえた、天上の音。
「あなたが、好きなんですの。」
腕の中から漂う薔薇の香りに、チャーリーは最高の幸せを感じていた。

「せやけど。」
抱きしめたまま、チャーリーはため息交じりに首を振った。
「これに、ネギは入れたらあかんのと違いますか?チョコレートと全然合うてませんわ。」
「なんですって!」
「食べてみたんですか~~~? 絶対、ないほうがええですって。ちょっと貸してください。」
「まあ!」
チャーリーはロザリアの頭からさっと三角巾を取ると、自分の額にねじり鉢巻きのようにくくりつけた。

「あんたは俺の大切なヒトやから。そこで、見とって欲しいんや。」
俺だけを、ずっと。
あんたの笑顔のためなら、俺は何でもできるから。
「さあ、焼きまっせー!」
勢いよく腕をまくったチャーリーが見事なチョコレート焼きを作り上げるのを、ロザリアはじっとそばで見つめていたのだった。


FIN
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