お似合いになりたくて

時計の針が12時を指した。
明日のために早く寝なければならないことはよくわかっていた。
なんといっても肌あれは怖い。
「睡眠不足は美容の大敵だよ。」と言われて、下手をすればデート中止なんてことも・・・・。    
ロザリアは一人で首をぶんぶんと振って、いやな考えを振り払った。
もう2時間も鏡の前をうろうろしている。
それもこれも明日のデートに着ていく服が決まらないのだ。

デートに誘われてからの5日間、ロザリアはひたすら洋服のことを考えた。
女王補佐官になってから初めてのデート。
宇宙の移動やらなんやらかんやらで忙しい毎日が過ぎ、実に2カ月ぶりのデートなのだ。
「久しぶりにかわいいアンタに会えるのを楽しみにしてるよ。」
なんて、ウインクとともに言われた日には…。
(オリヴィエにふさわしい、最高のデートスタイルにしなくては!)
ロザリアでなくてもそう思うだろう。


デートに誘われてすぐ、まずはアンジェに聞いた。
「そりゃー、近頃はやりのコレ!コレしかないわ!」
見せられたのは、勝負下着特集だった。
軽く一発頭をはたいてやると、アンジェは捨てられた子犬のような目でロザリアを見た。
「ロザリアはいいな~。大好きなオリヴィエとデートでしょ~~。わたしなんてさ、フラれたばっかなんだよ~~。」
机に「のの字」を書いている。
(そ、そうでしたわ。女王になる直前にジュリアスにフラれたんでしたっけ。) 
ロザリアの背中に冷や汗が伝う。
「わ、わたくしだって、まだオリヴィエとはなんにもないんですもの。・・・ただ、わたくしが好きなだけで・・・。」
今度はロザリアが「のの字」を書いた。
アンジェがその手をええ~いと振りはらう。
「絶対、両想いに決まってる!!ロザリア~~、わたしを棄てないでね~~。」
失恋を思い出したのか、アンジェがさめざめと泣き始めた。
その背中をトントンと叩いてやりながら、相談は無理、と悟ったのだった。

次に友達のゼフェルを訪ねた。
「服なんかなんだっていーじゃねーか。っていうか、なんも着てないほうが喜ぶんじゃねぇ?」
思わず近くにあった丸めた設計図でゼフェルの頭をはたいてしまった。
「いて!ホントのことだろー。あんなツラしてオリヴィエだって何考えてるかわかんねー…むぐむぐ。」
最後まで言う前にロザリアはガムテープで丁寧に口を閉じてやった。
ゼフェルが苦労してテープをはがしている間に、ゼフェルの隠してあった雑誌を見た。
隠し場所はとっくに判っている。
「ば、バカやろー。見るんじゃねー。」
めちゃくちゃ動揺して飛びかかるゼフェルを片手で押えて、ページをめくる。
「わたくしには無理ですわ…。」
ため息とともに雑誌を閉じる。
「ナース服もセーラー服も持っていませんもの…。」
そのページは「コスプレ特集」だった。

(持ってたら着るのかよ!) 
ゼフェルは心の中で突っ込んだ。
「ゼフェルはこういう服がお好みなんですのね。オリヴィエはどうなのかしら?」
「そりゃー、男ならみんな好きなんじゃねぇの。制服系はよー。」 
言ってから、ロザリアの真剣な視線に気づく。
「この雑誌、処分させていただきますわ。良俗に反していますもの。」
そう言いながらしっかり抱え込んでいる。
「はあ?!」  
ゼフェルの叫びは無視された。

(もう少しマシな方はいらっしゃらないのかしら。)
イライラと廊下を歩いていると、オスカーに会った。
「よう、麗しの補佐官殿じゃないか。 花のかんばせが曇っているぜ。俺がその憂いを払ってやりたいが…どうかな?」
肩を抱こうとする前にすねを蹴りつける。
「いて。補佐官殿はきれいな顔をして厳しいな。だからこそ、燃えるってものだぜ?それともわかっててやってるのか?」
今度は本気で蹴りつけたると、さすがのオスカーにも効いたようだ。
「ひどいな。悩みがあるなら相談に乗るって言っているんだぜ。」
「でしたら、おふざけにならないでくださいまし。・・・・ところで本当に相談に乗ってくださるの?」
(一応、オスカーにも聞いてみようかしら? なにも着ないほうがいい、なんて言ったら悶絶する蹴りをお見舞いして差し上げますわ。)
ロザリアの微笑みにオスカーは「もちろんさ。」と言って、執務室に招き入れた。

「ふん、そんなことか。」
オスカーはさもどうでもよさそうに言った。
「それならなにも着ないのが一番・・・」 
言いかけてロザリアの般若のオーラに気付く。
「じゃない。ロザリアが一番好きな服にしたらいい。アイツとあわせようなんて考えないことだな。そもそもアイツより目立つ服なんて考えもつかないぜ。」
それからオスカーは一冊の雑誌を取り出した。
「補佐官殿にはこれを進呈しよう。男心がわかると思うぜ。アイツはちょっと微妙だがな。」
ロザリアの手に渡ったのはメンズ情報誌だった。

(オリヴィエがこんなことを考えているとはとても思えないのですけど…)
オスカーがくれた雑誌には「カラダの鍛え方」だの「女の子を喜ばせるデート」だの「自信をつける方法」だのが載っている。
ロザリアは2冊の雑誌を隅から隅まで読んだが、ますます混乱してくるような気がしていた。

「ごきげんよう、ランディ。あら、マルセルもいらしたのね。」
突然のロザリアの乱入に二人は目を丸くした。
何か面倒事を押し付けられると思っているのか。
(失礼ですわ。) 
ロザリアの瞳がきらりと光る。 二人はとっても嫌な予感がした。
ロザリアの話を聞いた二人はほっと胸をなでおろした。

今までの無理難題とも思えた要求に比べれば、ずーっと簡単だ。
「なあんだ、そんなこと。」
マルセルの声にロザリアは仁王立ちで答える。
「まあ、そんなにおっしゃるのでしたら、ぜひ聞かせていただきますわ。」
「ぼくはね、かわいい感じがいいと思うな。だってロザリアはそんなにかわいいんだもん。きっと似合うと思うよ!」
「まあ、マルセルったら…。」
頬を染めるロザリアにランディも勢いよく続ける。
「そうだよ! 俺もそう思うな。 こんなのはどう?」
ランディが見せたのはアイドル雑誌だった。 
30人はいるだろう女の子たちはみんな白いトップスにチェックのスカートだ。

「これは なんですの?」
「今、大人気のアイドルグループなんだ!俺はこの子がいいな、と思うんだけどね!」
ランディが一人の少女を指差す。碧色の瞳が愛らしい。
(陛下ですわ…。)(陛下だよね…。) 
ロザリアとマルセルは無言で頷いた。
「でも、これではまるで普段着ですわ。」
その言葉にランディが立ち上がる。
「何言ってるんだ、これはこの子たちの舞台衣装なんだよ!特別なんだ!」
「そうだよ。いつもの服と違うほうがいろんなロザリアが見られて、きっとオリヴィエ様も喜ぶと思うな?」
にっこりとマルセルが言うと本当にそう思えてくる。
「そうかしら・・・。」「うん!」 
押し問答が続き、「この本、貸してあげるから研究してね!」と、マルセルがロザリアに本を渡した。
「それ、オレのなんだけど…。」
「じゃあね、ロザリア、頑張ってね!」 
マルセルはにっこりロザリアを送りだした。

(あとは、ジュリアスとクラヴィスとルヴァ、それとリュミエールね。なんだかあまり参考にならなそうですわ。)
そんなことを考えながら、書類を持ってクラヴィスの元へ向かう。
もちろん、洋服のことを聞くつもりはなかった。
「クラヴィス、こちらにサインをお願いしますわ。」 
ロザリアが声をかけると、クラヴィスはのぞいていた水晶球から顔を上げ、手招きをしてきた。
(な、何かしら? )
クラヴィスは候補のころから今一つ理解できない人物だ。恐る恐る近づく。
「いつもと違う装いが男を惹きつけることもある・・・。」
ロザリアの耳元でそんなことを言うではないか。
ロザリアは驚いて飛び上がった。
「な、なぜ、そのことをご存じですの?!」
「ふ・・・。お前を見ていればわかる・・・。」 
クラヴィスはおもしろそうな声音で言ってくる。
ロザリアは退出のあいさつもせずに部屋を飛び出した。

そのあと、なぜか廊下で出くわしたリュミエールにも
「あなたならば、どんな衣装でも美しいと思いますよ。」 と言われ、
ルヴァなどは、わざわざ補佐官室にやって来て
「あ~、その件で私に質問しないでくださいね~。そういうことには疎いんですから~。」と言うのだ。
ロザリアは首をかしげながら、「ご助言ありがとうございます。」と頭を下げた。


そしてたっぷり4日間考えた。それでも決まらない。
クローゼットからすべて引っ張り出して並べた。
(ああ、デートまであと8時間23分だわ。どうしましょう)
早く寝なければ、2時間前には起きて支度を始めたい。
ロザリアの焦りはピークになった。
(制服ぽくて、派手でなくてもよくて、可愛らしくて、特別な衣装で、いつもと違うもの・・・。もう、これしかないわ。)
なんだかもうすでに頭が働かなくなっていた。
ロザリアは服を枕元に準備すると、あわてて眠りに就いた。


2時間前にセットした目ざましは、なぜか1時間前になりだした。
ロザリアは青くなって大急ぎで準備を始めるためにベットから飛び降りた。
(ああ、髪を巻いている時間がありませんわ。)
仕方なくカチューシャで髪をとめる。
以前アンジェにもらったのだが、なんだか似合わないような気がしてしまいこんでいた。
(こういうときに役に立つのね。) 
レザーのリボンがついた白いカチューシャはロザリアの青紫の髪によく似合った。

ロザリアが約束の公園まで走っていくのを、たくさんの人が驚いた様子で見ていた。
彼女から出る威圧の風であたりの木々の葉が落ちるくらい急いでいたのだ。
もしかしたら、彼女が女王補佐官だと気付いている人はほとんどいなかったかもしれない。
それくらい、いつものロザリアとは様子が違っていたのだ。


一方、約束の時間より早くオリヴィエは公園の噴水前に着いていた。
噴水を背にしてたたずむ姿はまさに一幅の絵画のようで、肩にかけたジャケットが風になびいている。
オリヴィエは腕時計を見た。
約束の時間はもうすぐなのに、ロザリアはあらわれない。
いつも時間より早く来るのに、とオリヴィエはいぶかしく思った。

「オリヴィエ様、申し訳ありません!」 
後ろからロザリアの声がして驚く。
「様、はもういらないんだよ。オリヴィエって呼んで。」 
オリヴィエが声のしたほうに振り向くと、確かにそこにロザリアがいた。
いつもの楚々とした補佐官姿とは違って、白いサマーセーターにチェックのスカート。
大きめのだぶっとしたタートルニットは袖も長めで、少し手のひらを隠している。
チェックのミニスカートからすらりと伸びた脚は健康的で短めの白いソックスもかわいらしい。
カチューシャで止めただけで自然にカールした髪は、まるでリセのスタイルだ。
そのロザリアの瞳が驚きでまん丸になっている。
オリヴィエはにっこり笑って声をかけた。

「どうしたのさ。目がこぼれおちそうだよ。お姫さま。」 
すっと手をロザリアの頬にあてる。
その手の温度にあてられたようにロザリアはようやく口をパクパクとさせた。
「ど、ど、どうなさったんですの?いつもと全然違いますわ!」
もっと他にいろいろ言いたいのに言葉が出てこない。

今日のオリヴィエはほとんどすっぴんだった。
長めの髪もすっきりと一つにまとめ、うすいフレームの眼鏡が知的な印象だ。
白いシャツからラフにぶら下がるネクタイ、肩にかけたジャケット。
まるで、ちょっと素敵な生徒会長みたいだ。
ロザリアの胸がキュンと音を立てる。

「ほら、今日のアンタにぴったりだろう?優等生に悪いコトを教える先輩、てとこかな?」
オリヴィエはウインクをすると、ロザリアの手の取った。
「抜け出して、遊びに行こうか?」 
覗き込んで言うオリヴィエに囚われて、ロザリアは息もできないくらいだった。


(大成功、だね。)
ロザリアをデートに誘った5日前から、何だか様子がおかしかった。
最初に陛下の部屋から出てきたロザリアに声をかけようとしたが、なんだか疲れているようでためらってしまった。
だから「は~い、陛下。」と陛下を尋ねてみると、陛下は真っ赤な鼻をぐずぐずいわせてティシュで拭いていた。

「あら、オリヴィエ。」 
心なしか視線が冷たい。
「ロザリアに変なコトしたら承知しないわよ! わたしからはこれをプレゼントすることにしたけど、見ちゃダメよ。」
目の前にずいっと突き付けられた雑誌には、派手な下着が並んでいた。
「どういうこと?」 
(これをプレゼントするってことは、手を出してほしいのかな?)
女心は分からない。
「とにかく、ロザリアを大切にね。」 
しっしっと追い出されてしまった。

次にゼフェルの部屋の前で見かけたときは何やらゼフェルの叫び声が聞こえた後、きょろきょろと雑誌を読みながら歩いていった。
そのあきらかにロザリアらしくない行動で、ここでも声をかけそびれてしまった。
そして、オスカーに連れられて仲良く執務室に入っていくのを見てしまった。
オスカーはいかにも「かわいい赤ずきんちゃんを前にしたオオカミ」のようでイライラしたが、すぐに出てきたロザリアに安心した。
しかし、またもや何か雑誌を読みながら歩いていて、オリヴィエには気付かない。

「ロザリアとなに話してたのさ。」
オスカーを追求してもうまくかわされる。
「補佐官殿を大切にしろよ。」 と意味深に言われてしまった。
ランディの執務室から出てきたロザリアはまた雑誌を読みながら歩いている。
いい加減、誰かが噂しそうだがそんな気配もない。みんなこっそりロザリアの味方のようだ。
(こうなったら、アイツらから聞きだすしかないね。)
オリヴィエはにやりと笑った。

「ランディーちゃん、マルセルちゃん、ロザリアと何話してたのかな~。」
オリヴィエの笑顔に二人は後ずさった。
「ぼ、ぼくたち、何も話してません!」「俺もなにもしゃべってません!」
とってもわかりやすく嘘をつく二人にオリヴィエはますますにっこりほほ笑んだ。
「ふ~~~~ん、ワタシに隠しゴトするんだ~~~。」 
ランディとマルセルは天を仰いだ。

「しゃべったらロザリアに殺されます!許してください!」
ランディの必死の懇願が通じたのか、オリヴィエは黙った。
そして、ポケットからカードを取り出すとこう言った。
「じゃ、ポーカーしようよ。負けた人が洗いざらいしゃべるってコトで。」 
二人は青ざめる。つまり、どちらかがロザリアの鉄拳を受けなければならないということだった。

「はい、ワタシが一番だね。」
きれいにエースが並んだフォーカード。
マルセルはツーペア。ランディはブタだった。マルセルが思わず涙ぐむ。
「それじゃあ、ランディーちゃんにお話ししてもらおうかな~~?」
にじり寄るオリヴィエにランディが押し切られるのは時間の問題だった。
(まさか、クラヴィス達まで出てくるとは予想外だったけどネ。)
そのあとも聖殿中をうろうろしているロザリアを何度も見かけ、そのたびにウラをとるのは本当に大変だった。
クラヴィスに「おまえは幸せ者だな…。」 と言われたことを思い出す。

(ホントにそうだよね。) 
オリヴィエは隣で紅茶を飲むロザリアを見つめた。
視線に気づいて真っ赤になるロザリア。二人は聖地を抜け出して町に来ていたのだ。
「あの、オリヴィエ様、今日は、どうして・・・」
話しだしたロザリアの唇に人差し指を当てる。 
「オリヴィエ、でしょ。」
ロザリアは耳まで真っ赤になって、「オリヴィエ・・・」とつぶやいた。

「今日はね、ワタシがアンタに合わせたかったんだ。お似合いになれたかな?」
テラスになった席はさわやかな風が吹いていて、本当に気持ちが良かった。
「まるでさ、放課後にお茶しに来たみたいだよね。アンタとそういうこと、してみたかったんだ。」
「わたくしも。 もし、聖地でない場所で出会っていたら、こうしていたかもしれませんわね。」 
テーブルをはさんで二人は微笑みあった。
「どこにいても、なにを着ていても、アンタはアンタだよ。ワタシに合わせようとしないで。」
オリヴィエはロザリアの両手を包みながら話す。
「無理しないでほしいんだ。ずっと一緒にいたいから。無理や我慢は美容にもよくないからね。」 
わかった?と言うように軽く睨む。
「ずっと、一緒にいてよろしいんですの?わたくしで、ほんとうに?」
オリヴィエはこれ以上はないほどきれいな笑顔で答える。
そして、「じゃ、あっちのお店見に行こうか?」と、立ち上がった。
ロザリアの椅子を引いて立たせる姿は確かに素敵な恋人だった。

「でも、どうしてわたくしの服がわかったんですの?」
手をつなぎながらロザリアが尋ねる。
「それはね・・・、これ、あげるよ。幸運を呼ぶカード。」
オリヴィエの手から渡されたのは5枚のエース。
「あら、なぜハートのエースが2枚もありますの?」ロザリアが不思議そうに尋ねる。
「さあ、愛を呼ぶカードなんじゃない?」 とオリヴィエは笑った。


FIN
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