オレンジ色の夕日が沈みかけ、どこかざわざわとした夕方の喧騒が始まる少し前の時間。
ロザリアは、補佐官室の鏡の前で、大きなため息をついていた。
「そんなこと…ないですわよね…?」
自分で自分に問いかけても、もちろん答えなどあるはずがない。
それでも、問わずにはいられないのは、さっき、お茶の時間に交わした会話のせいだ。
いつものように、午後のお茶をしていた時。
向かい合っていたアンジェリークが急に立ち上がったかと思うと、背後からロザリアの胸に触れてきた。
「もう、なにをするんですの?!」
いつもの悪ふざけかと、ロザリアは笑っていたのだが。
なんと、アンジェリークはそのまま、ロザリアの胸を優しく揉み始めた。
下からふくらみを掬い上げ、中央へよせるように、ゆっくりと。
繰り返されるその動きはひどく官能的で、ロザリアは息をするのも忘れたように、目を見開いて固まってしまった。
どれくらい続いただろう。
アンジェリークの手がふと止まったかと思うと、すぐ耳元で、「はあ~~~~。」と大きなため息が飛び出した。
「やっぱり、全然違う…。」
「え?」
訳が分からずに聞き返したロザリアにアンジェリークはまるで捨てられた子犬のような目を向けた。
「揉み心地が違うの…。わたしの胸と全然違うのよーーー!」
ぐすんと鼻をすするアンジェリークから聞き出したのは、つまりこういうことだ。
先日、恋人のランディと夜を過ごした時に、彼がこぼした言葉。
「俺は、アンジェくらい小ぶりなほうが好きだよ。」
「ねえ、ロザリア。それってどういう意味だと思う?」
「さ、さあ?」
「わたしの胸の大きさがイマイチだって、ことよね?」
「そ、そう?」
「そうに決まってる! しかも、わたしがそう言って責めたら
『男だって大きいほうがいいとは限らないんだよ。 オリヴィエ様だって、あんまり大きいのは好きじゃないって言ってたんだ。』
なんて、言い訳並べちゃって!
要するに小さい、ってことよね?」
アンジェリークはまだなにやらいろいろブツブツ言っていたが、ロザリアの耳には全く入ってこなかった。
オリヴィエがなんて言っていた?
さらりとアンジェリークが流した言葉が小骨のように引っかかる。
「でも、今、ロザリアの胸を触ったら、わかったの…。
わたし、確かに大きくはないわ。」
それはつまり。
「だって、ロザリアに比べたら、全然揉み心地がよくないんだもの・・・。
いいな~、ロザリアって巨乳よね!」
頭を金づちでガンと叩かれたような気がした。
今まで胸の大きさなんて、たいして気にしたことがなかった。
スタイルがいい、という言葉も全て褒め言葉として受け取って来たし、自分でも悪くないと思っていたのだ。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
けれど。
『オリヴィエ様だって、あんまり大きいのは好きじゃないって言ってた』
『ロザリアって巨乳よね』
この二つから考えると、自分の体形はオリヴィエの好みではないということではないだろうか。
ロザリアが彼に特別な感情を抱いていることを、誰にも言ったことはない。
アンジェリークにすら秘密だった。
想いを知られること自体が恥ずかしい、というのと、もし、フラれたら、きっといたたまれないだろう、と思うからだ。
補佐官として接することも難しくなるのは困る。
なによりも今の関係が壊れてしまうことが困る。
一番仲の良い守護聖という、スタンスを守っていたい。
けれど、こうして彼の女性の好みくらいで一喜一憂している自分。
本当はどうしたいのだろう。…どうなりたいのだろう。
「はあ…。」
もう、何度目かわからないため息を繰り返し、ロザリアは薄闇の迫り始めた窓を閉めようと外へ目を向けた。
淡いグレーに染まる空。
いつもなら月の白い影が浮かんでいるのに、今日は何も見えない。
「新月なのかしら…?」
新月には不思議なパワーがあると聞いたことがある。
願い事が叶いやすくなる、とも。
迷信だ、と思いながら、ロザリアは心の中で願ってしまった。
「胸が小さくなりますように」 と。
次の日の朝。
目が覚めたロザリアはもぞもぞと布団の中で体を動かしていた。
何かが体に絡まっているようで、上手く身動きが取れない。
覆いかぶさっている布団も息苦しくて、手足をばたつかせて、なんとか這い出した。
ふと体を起こして、初めて感じる違和感。
目に映る景色が、どこか違う。
天井が、妙に高い気がする。
きょろきょろとあたりを見回したロザリアは部屋の片隅の鏡に映る自分の姿を見て息を飲んだ。
小さい。
大きさはもちろんだが、全てが。
飛び起きて、マジマジと鏡を見つめたロザリアは、頬を思いっきりつねってみた。
「どうして…?」
鏡の中で頬を赤くしている少女はどう見ても。
6歳くらいの子供だった。
「きゃーーー!!!可愛い!」
むぎゅっとアンジェリークの胸に抱かれて、ロザリアはうめいた。
この姿でいきなり聖殿へ行くわけにもいかず、考え抜いた揚句、アンジェリークに電話をかけ、ここへ来てもらったのだが。
「ああん。 可愛い…。」
うっとりとロザリアの頬をつつくアンジェリークに、ロザリアはすぐに後悔した。
「可愛いとかそういう問題ではありませんわ! どういうことですの?」
「え~、喋るといつものロザリアなんだあ。 …どういうことって?」
「こんなの、あんたの仕業に決まってるでしょ! 早く元に戻してちょうだい!」
子供のロザリアに怒られても、ちっとも怖くない。
むしろ顔を真っ赤にして、足を踏み鳴らし、ぎゅっとこぶしを握る姿は…。
可愛くて、またたまらずに抱きしめてしまった。
「わたし、なんにもしてないもーん。 ねえねえ、みんなにも見せてあげたい~。」
ロザリアの小さな手を握り、アンジェリークはにっこりとほほ笑んだ。
こんな楽しいことを独り占めするなんてもったいなさすぎる。
ジタバタと暴れるロザリアに、
「コラ!お姉ちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ~。」
と、アンジェリークはむにっと頬を引っ張った。
ぽわぽわのほっぺたはマシュマロのようで、つい、むにむにと摘まんでしまう。
「…アンジェ…。後で覚えてらっしゃい…。」
氷のような声で言ってみたものの、アンジェリークには子猫の泣き声くらいにしか感じられなかったようだ。
ずるずると腕を引っ張られて、ロザリアは無理やりに聖殿へと引きずられていった。
18個の色とりどりの瞳が小さなロザリアに注がれている。
「皆様、理由はわからないのですけれど、こういう事態なんですの。
幸い、意識はしっかりしておりますわ。 執務が滞らないよう、皆様も協力してくださいませ。」
言ってることは立派だが、なにせこの姿かたちと声では全く説得力がない。
じっと皆の顔を見上げているロザリアの前に真っ先にやって来たのは、マルセルだった。
「ロザリアは小さい時から綺麗だったんだね。」
「まあ。 マルセルったら。」
マルセルはロザリアの小さな手を握り、頭を撫でてやった。
中身は同じロザリアなのに、体が小さくなっただけで、ずいぶん、距離を近く感じてしまう。
普段のロザリアは綺麗すぎて、完璧すぎて、どことなく近寄りがたい部分もあるのに。
どうやらゼフェルやランディも同じ感想を抱いたらしい。
遠巻きに眺めていた二人だったが、さっと近づいてきたかと思うと、ロザリアを取り囲んだ。
ゼフェルは特に嬉しそうに小さくなったロザリアの頭をもじゃもじゃとかき混ぜている。
青い瞳がとたんに抗議の視線を向けたが、ゼフェルは鼻の下をこすって、何やら楽しそうだ。
そこに。
「もうちょっと可愛い服はなかったの? 」
カツカツとヒールを鳴らして近づいてきたのはオリヴィエだ。
彼は小さなロザリアを見ると、そのそばに跪いた。
「これ、ただのブラウスでしょ? それをベルトで止めただけ?」
こくん、とロザリアは頷いた。
彼の顔がすごく近い距離にあって、勝手に心臓がどきどきと鳴り出してしまう。
優しくほほ笑んで、ロザリアの髪をなでるオリヴィエ。
彼にしてみれば子供をあやしているような心境なのだろうが、ロザリアの想いは昨日までと変わることなく存在しているのだ。
恥ずかしくてたまらない。
「私が飛び切りの可愛い服を用意してあげる。 …いいでしょ?」
オリヴィエがぱちんとウインクをして見せると、アンジェリークの瞳がキラキラと輝いた。
とっておきの可愛いロザリア。
考えただけで楽しみだ。
「わ! とびっきり可愛く着飾っちゃって! お姫様みたいにしてね!
さあ~、私達は二人のぶんも執務頑張りましょう!」
ウキウキと飛び跳ねたアンジェリークに、その場にいた全員が脱力した。
補佐官のロザリアがこうなっている以上、執務の全部がめいめいに回ってくるのは明白だ。
それに。
退出する寸前まで、ロザリアをだっこしているアンジェリークの姿に、
本当に陛下は無関係なのだろうか…と、全員が心の中で思っていた。
「これも似合うね~。 こっちはどうかな。」
オリヴィエの執務室で、ロザリアは着せ替え人形のように、次々とドレスを着せられていた。
ふんわりとしたスカートのかわいらしい花柄のワンピース。
フリルのたっぷりついたジャンパースカート。
どれも可愛くて、ロザリアもつい目が輝いてしまう。
普段のロザリアはどちらかというと大人っぽいドレスが多い。
それはそれで気に入っているが、やはりこういうものを着てみたい、と思うこともあったのだ。
さんざん悩んでオリヴィエが決めたのは、ウエストに大きなリボンのついたトランプ柄のワンピースだった。
赤と黒のダイヤ格子に、金のふちどりまでついている。
「不思議の国のアリスみたいでしょ。」
タイツまで同じ柄で揃えて、頭にも大きな赤いリボンを付けた。
「髪はこのままがいいね。」
柔らかくブラシを当てられて、「はいできあがり。」
オリヴィエに手を引かれて鏡の前に立ったロザリアは、恥ずかしさに赤くなった。
絵本か何かに出てくる女の子みたいだ。…アンジェリークが大喜びするのが目に浮かぶ。
けれど、すぐに別のことが気になってしまった。
こうして並んでいると、まるでお兄さんと近所の子供だ。
ロザリアの胸がキュッと痛くなった。
次の日、オリヴィエは朝一番で補佐官室にやって来た。
「ヤダ! やっぱり昨日と同じのを着てるじゃないか。 うん、今日はこれがいいかな。」
オリヴィエは楽しそうに、抱えていたピンクのフリルスカートとブラウスをロザリアに手渡した。
「どれも可愛いからね~。 コレクションのつもりだったけど、作っておいてよかったよ。
やっぱり服は着てもらって価値が出るもんだからね。」
「…ありがとう。」
小さな淑女の礼に、オリヴィエはひらひらと手を振ってこたえている。
オリヴィエは純粋に服選びが楽しいのだろう。
断る理由も見つからなくて、ロザリアはその服に着替えた。
実際、サイズの大きい服をズルズル着るよりも、動きやすいし、楽なのだ。
…たとえ、フリフリで装飾過多だとしても。
着替えたロザリアをオリヴィエはにこにこと眺めている。
ロザリアもにっこりとほほ笑みかえして、執務を始めたのだった。
初めの2,3日は、どちらかと言えば皆、楽しんでいた。
子供姿のロザリアはかわいらしく、どこか微笑ましい。
マルセルやゼフェルはしょっちゅう補佐官室に来ては、いろいろと話していたし、リュミエールやルヴァもハープを聴かせたり、本を読んだりしていた。
ようするに、構いたくて仕方がないのだ。
花が咲いたように賑やかになった聖殿。
ところが、知性や教養は元のロザリアのままとはいえ、やはり子供は子供だった。
夜、9時半には眠くなってしまう。
疲れれば昼寝もしてしまう。
ご飯もきちんと3度食べて、さらにおやつも10時と15時。
要するに、体力がないのだ。
そうなれば、必然的に以前のように執務はできない。
書類がどんどんたまっていくのを見かねて、とうとうジュリアスはルヴァと研究院に原因を探るように命じた。
しかし、何もわからないまま、とうとう小さくなって2週間が経ってしまったのだった。
「さあ、今日はこれにしようか。」
やっぱり朝一番に補佐官室にやって来たオリヴィエは、大きな薔薇柄のスカートとブラウスをロザリアに手渡した。
裾に幾重にもフリルのついたミニスカートはふんわりと広がりゴージャスだ。
その分、ブラウスはシンプルで首元に小さなリボンが一つ。
まるで絵画から抜け出したような服。
真っ赤なエナメルの靴もレース柄のタイツも、全部がかわいらしい。
「うん、ホントに似合うね。」
満足げにニッコリと笑ったオリヴィエは、ロザリアを自分の膝の上に座らせた。
あとは髪を整えれば、オシャレは終了だ。
変わらない。…オリヴィエだけは。
ここ数日、ロザリアはジュリアスをはじめとして、人々の訊問攻めにあっていた。
原因を探るため、らしいのだが、入れ代わり立ち代わりいろんな人間がやってきて同じようなことをきくのだ。
理性ではわかっていても、体には疲れが溜まってしまう。
昨日はあまり食欲がなく、9時前には寝てしまっていた。
皆の不安はわかる。
けれど、その態度の急変はロザリアにとって少々忌々しくもあるのだ。
以前のロザリア、子供になったばかりのころのロザリア、そして今も、そんなにやっていることは変わらないはずなのに。
そんな中、オリヴィエだけは全く変わらない。
原因を探ろうという様子もないし、子供になったからといって、態度が変わるわけでもない。
…着せ替えをされるのは、仕方がないとしても。
「…オリヴィエは気になりませんの?」
「なにが?」
まだロザリアの髪を梳いていたオリヴィエの返事はいたってのんきなものだ。
「もっと巻いたほうが可愛いかな~。 でも、このままふわふわなのも捨てがたいよねえ。」
ふわふわとした髪の感触を楽しむように、何度も櫛を入れるオリヴィエ。
「わたくしの体のことですわ。」
口に出してしまって、ロザリアは後悔した。
もしかすると、彼にとって、ロザリアのことなど、本当にどうでもいいことなのかもしれない。
大きくても小さくても。
いてもいなくても。
今までにない胸の痛みに襲われて、ロザリアはキュッと唇をかんだ。
「そうだね。 …ま、正直どっちでもいいんだ。」
オリヴィエはブラシの手を止めると、ふっと笑みをこぼした。
真後ろにいるオリヴィエの顔はもちろんロザリアに見えなかったけれど、耳元に触れた彼の息遣いで楽しそうに笑ったことがわかってしまう。
やっぱり、彼にとってはどうでもいいことなのだ。
ロザリアのことなんて。
「あんたが小さくなって、私のことを忘れちゃった、っていうんなら、そりゃあ真剣に元に戻そうと頑張ったと思うよ。
なんとかして私のことを思い出してもらおう、二人の時間を思い出してもらおう、ってね。
でもさ。」
彼のブルーグレーの瞳がロザリアをじっと見つめているのがわかる。
首筋に感じる視線。
なぜか、その瞳がとても優しく思えて、ロザリアの体温が上がってきた。
「あんたはこうしてここにいる。
私のこともちゃんとわかってて、話もできる。」
オリヴィエはロザリアの髪を撫でている。
「中身は少しも変わってないじゃない?
姿は子供でも、私の一番大切な、大好きな『ロザリア』のままなんだ。
だから別にどっちでもいいんだよ。
あんたがこのままでも、元に戻っても。」
今、オリヴィエは何と言ったのだろう。
大切で大好き。
聞き間違いではないかと、目を見開いて、固まっているロザリアに、オリヴィエがくすっと笑う。
ロザリアはオリヴィエの膝から飛び降りると、彼を真正面からじっと見つめた。
いつもと同じオリヴィエの顔は、逆に嘘がないことの証明のような気がする。
「好きだって、言ったんだけど、聞こえてた?」
カーッと赤くなって頷いたロザリアの額に、柔らかな口づけが降りてきた。
「残念だけど、今はここにしかキスはできないよ。
さすがに犯罪になっちゃうからね。 …あんたがまた大人になったら、ココ。」
オリヴィエの綺麗にネイルされた指がロザリアの小さな唇に触れる。
「ココにキスしてあげる。」
元に戻りたい。
小さくなってから初めて、ロザリアは真剣にそう思った。
オリヴィエは子供のロザリアでも好きだと言ってくれたのだ。
大切なのは、「外見」ではなくて「中身」。
女王候補のときから、ずっと、彼はそう言ってくれていたのに。
それなのに、胸の大きさなんかを気にして。
ようやくハッとロザリアは思い出した。
あの日。
子供になってしまう前日の夜。
月に願ったこと。
いろいろ訊問されたのに、あの事を今の今まで忘れていた。
もしもあの時のお願いを、月が叶えてくれたのなら。
今のお願いもきいてほしい。
「もとに、戻りたいの…。」
「ええっ!」
オリヴィエは突然大きくなりだしたロザリアに驚いた。
小さな子供だったロザリアの体がぐんぐんと、まるで早送りのように大きくなっていく。
信じられないことが起きると、人はただポカンとして見ていることしかできないものだ、とオリヴィエは改めて思った。
「きゃあ!!!」
ロザリアの叫び声と、何かが裂けるような音。
オリヴィエの目の前で、ロザリアのブラウスのボタンがはじけ飛んだ。
ふるん、と揺れた豊かなふくらみ。
オリヴィエが何かを言う間もなく、桜色の先端まで、はっきりと目に入ってしまった。
ロザリアは慌てて手で胸を隠すと、その場に座り込んだ。
さっきまで来ていた服は大きくなった勢いで破れてしまったらしい。
ビリビリになった布の残骸が、ロザリアの周りに落ちている。
かろうじてスカートが腰に引っかかってはいたが、それすらも一歩歩けば、破れてしまいそうだ。
ほとんど裸同然。
オリヴィエの前で、こんな姿をさらすなんて。
羞恥のあまり、動けないロザリアの背中にふわりと、彼の身に着けていたスカーフがかけられた。
「あ~、びっくりした。
あんたってば、ホントに次から次へと…。 心臓に悪いよ。」
オリヴィエは髪をかき上げながら、大げさなため息を吐き出した。
手の隙間から覗く柔らかなふくらみや、見事な曲線を描く腰のライン。
そして、白い背中を青紫の髪が流れる様は本当に扇情的で。
こんな姿を他の男の前で見せなくてよかった、というだけで安堵のため息がこぼれてしまったのだ。
ロザリアはうずくまったまま、オリヴィエのかけたスカーフを必死に体に巻き付けてる。
けれど、薄いスカーフを巻く姿は、ある意味、裸よりもエロティックだ。
ロザリア自身はそんなこと、露ほども思っていないだろうが。
オリヴィエはくるりと回れ右をすると、両手を上にあげる。
その降参のポーズのまま、奥の間に駆け込むロザリアを背中で見送った。
やがて。
キチンと補佐官服を着込んだロザリアが真っ赤な顔で出てきた。
髪を整えている時間はなかったのか、長い青紫の髪はそのまま背に流れている。
「み、見ましたの?!」
必死な声で問い詰めてくるロザリアに、オリヴィエはふっと息を漏らすだけの笑みで答えた。
嘘は言えないし、見た、というのも野暮だろう。
「み、見たんですのね?!」
身投げでもしそうなほど体を震わせて、うつむいているロザリアの体をオリヴィエはそっと抱きしめた。
厳しく育てられてきた彼女にとって、裸同然の姿を見られたことは、かなり恥ずかしいに違いない。
しばらくそっと、髪を撫で続けたオリヴィエは、ロザリアの体から少し力が抜けたのに気がついて耳元で囁いた。
「大丈夫。
私がちゃんと責任取るから。」
「責任?!」
驚いて顔を上げたロザリアの唇にオリヴィエは素早く唇を重ねた。
目を見開いて、胸を叩くロザリア。
それを無視して、オリヴィエは彼女の唇を味わい続けていく。
ロザリアが本気で苦しそうに眉を寄せたのを見て、ようやくオリヴィエは唇を離した。
「な、なにをなさるんですの!」
これ以上はないほど赤くなったロザリアが目を吊り上げている。
オリヴィエは肩をすくめて
「責任取るって言ったでしょ。 それに。」
ニッと笑う彼に、ロザリアの胸が大きく鳴った。
「ここにキスしてあげるって、約束してたしね。」
ロザリアの唇に彼の綺麗な指が、触れた。
今日も聖地は晴天で、真っ青な空が輝いている。
その青の中に、太陽に隠れた満月が浮かんでいることに、もちろん誰一人、気がついてはいなかった。
FIN
~おまけ~
その日のお茶の時間。
「オリヴィエはあんまり大きい胸の女性は好きではないんですのよね?」
「は? なんで?」
「だって、ランディがそう言っていたんですもの。」
「ランディ? …ああ。」
「やっぱりそうなんですのね?」
「違うって。 大きくても小さくても、あんまり興味がないって言ったんだよ。
その子が一番きれいに見えればいい、って。」
「まあ、そうでしたの。」
「そうそう。」
オリヴィエはカップに口をつける。
元に戻ったロザリアに聖殿中が大騒ぎで、その時一緒にいたオリヴィエも詰問攻めにあっていた。
やっとこの時間になって、ゆっくりできたのだ。
「…本当はどっちなんですの?」
「え?」
「本当は、どちらがお好きなんですの? 小さいほうがお好きなんですの?」
「えっと…。」
「教えてくださいませ。」
困った。
好きな女の子の大きさが一番だ、なんて言ったら、やっぱり殴られるんだろうか。
オリヴィエはブラウスがはじけ飛んだ時のロザリアのふくらみを思い出して…。
「65のGカップが好きだね。」
無意識に言ってしまった。
「ええっ!」
自分のサイズをぴたりと言ったオリヴィエに、思わず胸を隠してしまうロザリアなのだった・・・・。
こんどこそ…FIN