The longest journey begins with a single step?

「ごめんなさい!今度の日の曜日だけど、デートの約束入れちゃったの!」
目の前で両手をパンと合わせたアンジェリークは、すまなそうに上目遣いでロザリアを見た。
「まったく、あんたって子はしょうがないわね。いいわ。この次で。」
「ホントに?」
「ええ。そのかわり、あなたに御馳走していただきますわよ?よろしくて?」
「うん!ロザリア、大好き!」

曇り空がパアッと明るくなるような笑顔を見せたアンジェリークがロザリアの首に飛びついて来た。
ふわりと視界に広がる金の髪にロザリアは頬を緩める。
同じ歳なのに、なぜかアンジェリークは妹のように思えて、結構なわがままでも許してしまいそうになる。
「今回だけよ?」
そう、くぎを刺すと、アンジェリークは首をコクコクと縦に何度も振った。
そして、ロザリアをじっと見つめている。
「ロザリアはどなたかとデートしないの?せっかくだもの。約束してみたら?」
どきっと高くなった心臓の音を押さえるように、ロザリアは胸に手を当てる。
けれど、アンジェリークの変わらない様子にほっと小さな息を漏らすと、ニッコリと微笑んだ。
「あんたと違って、わたくしには好きな人はいないのよ。」
「そうなんだ・・・。あんなに素敵な守護聖様達のなかにも理想の方がいないなんて。信じられないな。あ、でも、あの方はダメよ!」
「わかってるわよ。それにあの方はあんたに夢中だから大丈夫。・・・さ、戻りましょう。明日の準備をしておかなくてはね。」

夜、部屋のベッドに座りこんだロザリアは枕を抱えていた。
アンジェリークに言ったこと。
『好きな人はいない』
それはウソではない。ただアンジェリークにも言っていないのは、今までの人生で一度も好きになった人がいないということだ。
「だって…。一度も感じたことがないんですもの。」
ロザリアは1冊の本を手に取った。
枕の下にいつも入れてあるそれは、恋について書かれている本。
らしくないと思われるのが嫌で、本棚に納めたことは一度もない。
パラパラと本を開くと何度も読み返したせいで、自然に開いてしまうページがある。

『触れた瞬間、ビリビリと身体を走る電流のような衝撃。心拍数の増大。体温の上昇。』

「やっぱり一つも当てはまらないわ…。」
恋をした時に訪れるという症状をロザリアは今まで一度も感じたことがなかった。
ロザリアにとって、それは恋をしたことがないという意味で。
深いため息をついたロザリアは、枕を元に戻すと、本を敷いて、眠りについたのだった。


ロザリアの口から出る、長い長いため息。
オリヴィエはほんの少し眉をあげると、テーブルの上のチョコレートをロザリアに差し出した。
「そんなに食べたいなら、私の分もあげるけど。」
はっと顔をあげたロザリアは恨めしそうにオリヴィエを見上げた。
ほんの少し赤くなった頬がとても可愛らしくて、つい苛めたくなってしまう。
「そんなことではありませんわ!」
ロザリアが唇を尖らせた。初めのころ、つんと澄ましていたロザリアも、最近ではすっかりと打ち解けてくれている。
オリヴィエは心の中でくすりと笑った。
「じゃあ、なあに?」
いらないと言ったのに、ロザリアはテーブルの上に一つ残っていたチョコレートを口に入れてしまった。
「アンジェリークが恋をしているらしいんですの。」
「うん。知ってる。」
その言葉にちょっと目を見開いたロザリアは、ソファから身を乗り出した。
「わたくしにも恋、できますかしら?オリヴィエ様ならお分かりになるのでは?」

思わず、オリヴィエは笑ってしまった。
その笑い声が大きかったことが気に入らないのか、ロザリアは耳まで赤くしてオリヴィエを睨みつけている。
「あ、ごめん。あんたを笑ったんじゃないんだよ。私、わかりそうに見える?魔法使いじゃないんだけどね。」
「わたくし、真面目に聞いているんですわ。」
「ん~。じゃ、真面目に答えてあげる。」
オリヴィエのキレイにネイルされた人差し指がロザリアの鼻先に触れる。
「あんたはもうすぐ恋をするよ。私が保証する。…これで満足?」
もちろんその相手は私。心の中でそう付け加えてみる。
ロザリアの瞳がキラキラと輝いて、大きく頷いた。
オリヴィエはカップを持ち上げると、その影でこっそりと微笑んだのだった。


育成のお願いに炎の執務室に向かったロザリアはノックの返事がないことに眉をひそめた。
ドアノブに手をかけると、自然にドアが開く。
部屋の中に足を踏み入れると、ソファの上で足を延ばして悠々と居眠りをしているオスカーを見つけた。
常春の飛空都市ではあったが、オスカーは無意識に身震いをすると、胸の上できつく腕を組み直している。
「お寒いのかしら…?」
きょろきょろとあたりを見回すと、一人掛けのソファの上に暖かそうな毛足の長いひざかけが置いてあった。
大柄なオスカーには小さいだろうが、なにもないよりはましだろう。
ロザリアがひざかけを手に取って、身体にかけると、オスカーは驚いたように目を開き、ロザリアの腕をつかんだ。
途端にビリビリと手に伝わる刺激。
痛いようなくすぐったいような不思議な感覚にロザリアは目を見開いた。

「お嬢ちゃんか。」
オスカーは、はっと腕を離すと、そのアイスブルーの瞳がいたずらを見咎められた子供のように輝く。
ロザリアはその瞳をじっと見つめ続けた。
「どうした?とうとう俺に恋でもしたのか?」
ロザリアの頭にあの本の言葉が浮かぶ。
『電流のような衝撃』。
もしかしたら、今感じたのがそうなのかもしれない。
ロザリアの胸がドキドキと早鐘のように鼓動を刻み始めた。
「あの、オスカー様。」

あわただしく廊下を走る音と同時にドアが勢い良く開いて、ロザリアが飛び込んできた。
「オリヴィエ様!」
キラキラと輝く青い瞳をまっすぐに向けられて、オリヴィエは驚く。
ノックをすることさえ頭にないようなロザリアの様子に、オリヴィエは苦笑した。
「一体どうしたんだい?あんたらしくもない。」
言われて自分の粗相に気付いたのか、ロザリアは頬を朱に染めた。
しかしすぐに、オリヴィエの前まで走り寄ると、いてもたってもいられないように口を開く。
「オリヴィエ様のおっしゃったとおりですわ!」
「え?」
ぽかんとしたオリヴィエにロザリアは勢いよく言った。
「恋をしたんですの。わたくし。オスカー様と次の日の曜日にお約束しましたのよ。」
「はい?!」
私以外の男と約束だって?
オリヴィエはその一言を飲み込むと、嬉しそうに笑うロザリアをじっと見つめたのだった。


ソファに向かい合わせに座り、香りのよい紅茶を飲む。
ここまでは今までと同じ。違うのは、ロザリアの話すことがオスカーのことばかりだということ。
「オスカー様のお好きなお飲み物をご存知ですか?」
「オスカー様は、どういった女性がお好きなのかしら?」
「オスカー様は守護聖になる前にどういうふうに過ごされていたのでしょうか?」
楽しそうに尋ねるロザリアにオリヴィエはため息をついた。
「あのね、ロザリア…。」
「ああ!!」
オリヴィエの言葉が耳に入っているのか、入っていないのか。
ロザリアは今までの彼女からは信じられないほど素っ頓狂な声をあげると、身体を前に乗りだした。
「もうすぐですわ。どうしましょう。デートなんて、初めてなんですもの。」
自分と二人で出掛けたことは数に入っていないのだと、オリヴィエは落ち込んだ。
たしかに『デート』と言って誘ったことはなかったけれど。
「オリヴィエ様。デートの時って何をしたらいいんですの?どんなお話が喜ばれるのかしら?」

ロザリアに向けられたダークブルーの瞳。
いつも楽しそうにロザリアを見つめている瞳が、なんとなく影を帯びているような気がして、ロザリアは首をかしげた。
「オリヴィエ様?」
「ん?ごめん。なんだっけ?」
すぐにいつものようにオリヴィエは微笑みを返してくれたが、なんとなく、心に引っかかる。
けれど、別のことが思い浮かんで、その引っ掛かりは沈んでしまった。
「デートの日、メイクをしていただけませんかしら?…すこしでも綺麗に見せたいんですの。」
はにかむロザリアはとても綺麗だ。
オリヴィエはできるだけ優しく見えるように気をつけて頷くと、カップを手にした。
今日の葉が、昨日と違うことに今までの彼女ならすぐに気付いただろう。
冷たい風が胸に吹いた気がして、オリヴィエはショールの襟を合わせなおしたのだった。


日の曜日の飛空都市はキラキラと太陽の輝く好天だった。
長袖を重ね着していたら、少し汗ばむくらいの気温。
緊張しているせいなのか、心臓はいつもより多く動いているし、頭もガンガンするような気がする。
ロザリアは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をすると、新しいワンピースにそでを通した。
あの日から、オスカーの元に何度も通っているが、ビリビリもドキドキも感じていない。
でも、今日のデートではきっとなにか感じるはず。
期待を込めて、ロザリアは窓辺のチェストからネックレスをとりだした。
淡いブルーの石の付いた、シルバーのネックレス。初めてつけた時にオリヴィエがよく似合うと誉めてくれた。
オリヴィエ。
彼のことを思い出すと、なんだか胸が締め付けられるような感じがする。
このところ、あまり元気がないし、話をしていても上の空のことがある。
そして時折見せる、寂しそうな瞳。
なぜ、こんなに気になるのだろう。考えて手の止まったロザリアの耳に時計の鐘が鳴った。
約束の時間が迫っていることに慌てて、ロザリアはオリヴィエの元に向かったのだった。

「ごきげんよう。オリヴィエ様。」
白い柔らかな素材のワンピースが風に揺れる。
ドアを開けた時、陽の光と一緒に入って来たロザリアをオリヴィエは目を細めて迎え入れた。
「すごく似合ってるよ。そのワンピース。」
照れたように頬を赤らめたロザリアの髪にオリヴィエはくしを入れた。
ふわりと指先に絡まる青紫の髪はとても柔らかい。
両サイドを編み込んで、後ろはそのままのカールで流した。
いつものロザリアよりもずっと軽やかで少女らしいヘアスタイルだ。
「ありがとうございます。なんだか緊張してきましたわ。胸がドキドキしますの。」
最後に唇にグロスを乗せると、ロザリアはにっこりと微笑んだ。
たとえ自分以外の誰かのためだとしても、綺麗になった彼女を見るのはオリヴィエにとっても嬉しい。
しかし真面目な顔で鏡を覗き込んだロザリアは首をかしげていた。

「あの、オリヴィエ様、少し唇が強調され過ぎておりませんこと?なんだか恥ずかしいですわ。」
たっぷりと塗ったグロスのせいか、ロザリアの唇は溶けそうなジュレのような輝きをしている。
「そう?思わずキスしたくなるような唇にしてみたんだけど。」
ウインクしながらからかうような言葉をかけるオリヴィエに、ロザリアの頬が真っ赤になった。
かわいくて、抱きしめてしまいそうになる。
オリヴィエは彼女の肩にそっと手を伸ばしかけた。

「オスカー様も、そう思われるでしょうか…?」
触れそうになったまま止まった手。
「もしかして、そういうことになったら、わたくし、どうしたらいいのかしら?」
なんだか頭がぼうっとするような気がして、ロザリアは思わずオリヴィエのシャツの裾を引っ張ってしまった。
自然と見つめあって、お互いに言葉を忘れてしまう。
オリヴィエの瞳が寂しそうに歪んだ。
「・・・そんなこと、私に聞かないでよ。」
シャツをつかんだロザリアの手をオリヴィエはゆっくりと外した。
その悲しそうな表情に、ロザリアはかける言葉が見つからない。
「さ、行きな。時間に遅れちゃうよ?」

笑顔でロザリアを送り出したオリヴィエはドレッサーのスツールにドサリと腰を下ろした。
つい、本当のことを言ってしまった。
あの時のロザリアの顔は、当惑というのが最も近いだろう。
潤んだ青い瞳と赤い頬。そして、掴んだ腕の熱さ。
「もしかして。」
オリヴィエは上着を取ると、外へと走り出した。


約束の時間通りに現れたオスカーにロザリアの胸は尋常でないほどの拍動を繰り返した。
「待たせたか?お嬢ちゃん。」
差し出された1本の薔薇をロザリアは両手で受け取ると、微笑みを返す。
この『心拍数の増大』は間違いない。けれど、同時に頭の奥がずきずきと痛み出した。
そして浮かぶ、オリヴィエの顔。
「どうした?まずはカフェで二人きりの話をしようじゃないか。」
オスカーは先に立って歩きだすと、ロザリアに手を差し出した。
けれど、当然、手をつないでくると思ったロザリアが動かない。
顔はオスカーの方を向いているのに、瞳は別のことを考えているように見えた。

「ロザリア?」
オスカーの声が遠くに聞こえている。
なのに、手も足も全く動かない。
オリヴィエ様はなんて言ったのかしら? どうしてあんな顔を?
気になって、頭が働かない。
相変わらず心臓はドキドキと鼓動を繰り返しているし、体中が熱いのは、『恋』をしているからのはずなのに。
どうしてこんなにオリヴィエ様のことが気になるの…?
途端に視界が真っ暗になって、足の力が抜ける。
倒れ込んだロザリアを伸びてきた2本の腕が支えた。


額にのせられたタオルの冷たさに気付いて、ロザリアが目を開けると、アンジェリークの心配そうな顔が覗き込んでいた。
「大丈夫?すごい熱だったのよ?」
アンジェリークは額に手を当てると、少し安心したように胸をなで下ろした。
「どうして気付かなかったの?朝から熱があったんでしょ?いくらオスカー様とのデートが楽しみだったからってムリしちゃダメじゃない!」
ポンポンと飛び出したアンジェリークの言葉にロザリアは少し苦い笑いを浮かべた。
今思えば朝から身体が熱かったし、頭痛もあった。
それはすべて恋をしているからだと思っていたのだ。

「オリヴィエ様が抱えて来て下さったのよ?ちゃんとお礼を言わなきゃ。」
「オリヴィエ様が?」
あの時、倒れ込んだ自分を誰かが支えてくれたことはなんとなく覚えている。
てっきりオスカーだと思っていたが、そう言えば、オスカーは視界の中にいた。
「どうしてオリヴィエ様が?」
「それは。」
口を開きかけたアンジェリークはすぐに、ふふっと含み笑いをした。
「本人に聞いてみたら?」
少しずれてしまった毛布をかけ直そうとアンジェリークの伸ばした手がロザリアの手と触れあう。
途端にビリビリとした刺激が手に伝わった。

「痛っ!」
アンジェリークがさっと手を引いて顔をしかめた。
ロザリアの瞳が丸くなる。今の刺激は、『恋』?
「もう、静電気!わたしって静電気体質なのよね。おかあさんと一緒にいる時なんてホントに最悪だったんだから。それに・・・。」
「お待ちになって。」
あわてて口を挟んだロザリアに今度はアンジェリークが目を丸くした。

「静電気ですって?」
「うん、そうよ。今のバチバチって痛くなったでしょ?ロザリアは経験ないの?」
「ええ…。つい最近まで、ありませんでしたわ…。」
そのあともアンジェリークは自分が静電気体質でいかに苦労したか、ということを滔々と語っていたが、ロザリアの耳には全く入らない。
全て、勘違いだったのだ。
あの時、身体を走った衝撃はただの静電気で、朝からドキドキしていたのも、身体が熱かったのも、風邪のせいで。
自分がものすごく滑稽に思えて、ロザリアは思わず笑い出してしまった。
涙が出るほど、くすくす笑いを続けるロザリアにアンジェリークはただビックリしている。
やがて、落ち着かせるために水でも飲ませようと水差しに手をかけた時に、ドアがノックされた。


「ロザリアの様子はどう?」
顔をのぞかせたオリヴィエをアンジェリークはほっとした様子で中に招き入れた。
ロザリアは笑い過ぎたせいで、まだ目に涙を浮かべて、肩を震わせている。
「じゃ、後はお願いしますね!」
逃げるように飛び出していくアンジェリークを横目に、オリヴィエはベッドの横のスツールに腰を下ろした。

「大丈夫?」
心配そうに見つめるダークブルーの瞳。いつものように、優しくて、暖かい。
ロザリアはほっと、ため息をこぼした。
「大丈夫ですわ。助けてくださってありがとうございます。」
頭を下げたロザリアにオリヴィエは人差し指をこつんと額に当てた。
「無理するんじゃないよ。メイクをした時にあんたの手が異常に熱かったからさ。
心配になって後を追いかけたら、やっぱり倒れたじゃないか。ホントに手がかかるね。」
見つめられて、胸の鼓動が速くなる。
いつでもオリヴィエ様は優しくて、わたくしのことを気にかけてくださっている。
それがなんなのか、今まで考えたこともなかったけれど。
「まだ熱があるね。もう1回おやすみ。」
横になったロザリアにオリヴィエは毛布をかけた。
その手がロザリアの肩に軽く触れたが、何の刺激も感じない。
けれど、オリヴィエのそばにいると、とても心が穏やかになって、幸せな気持ちになれる。
ロザリアは微笑みながら眠りに落ちていったのだった。


数日後、すっかり元気になったロザリアはヒールの音も高らかに聖殿の廊下を歩いていた。
背筋をぴんと伸ばして、一定のリズムで歩く姿は凛としていて美しい。
「はあい、ロザリア。治ったみたいでよかったね。」
夢の執務室のドアの前からオリヴィエが手を振っている。
「よかったらお茶でもどう?いい紅茶があるんだけど。」
「まあ。このあいだの新しい葉もとてもわたくし好みでしたのに。今度はどんな香りですの?」
言いながら、オリヴィエのダークブルーの瞳と目があった。
突然、ドキドキと高くなる鼓動。
「あ、気付いてたんだ。嬉しいね。今度のは…。飲んでからのお楽しみ。ね、おいでよ。」

jin様より Special Present

オリヴィエが近づいてきて、ロザリアの肩に手を置いた。
ふわり、と華やかな彼特有の香りがして、どうしてもその存在を意識してしまう。
なにも言わないロザリアにオリヴィエは首をかしげた。
何気なくじっと見つめあっていると、だんだんとロザリアの顔が赤くなってきて、やがて、耳まで真っ赤になってしまった。

「あの、オリヴィエ様。」
「なあに?」
真っ赤になったロザリアの口調は真剣そのもので、オリヴィエまでドキドキしてきた。
もしかして。
そう思った瞬間。
「わたくし、まだ風邪が治っていないみたいですわ。なんだか心臓が苦しいですし、体が熱いんですの。今日は失礼させていただきます。」
ロザリアはくるり、と向きを変えると、足早に廊下を曲がって行ってしまった。
きっと、候補寮に帰って休むつもりなのだろう。
けれどオリヴィエの予想が正しければ、ロザリアの病は寝ていたって治らない。
「ロザリアってば、ホント、鈍感ですね。オリヴィエ様、大変!」
いつのまにか、背後でアンジェリークがにこにこ笑っている。
「ホントにね。」
オリヴィエは苦笑するしかなかった。
・・・彼女が『恋』に気付くのは、もう少し先のことらしい。


FIN
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