Blue For You
サムシングブルーとは、結婚式で花嫁が何か青いものを身につけると幸せな生活が送れるという古い言い伝えだ。
だがロザリアは幼い頃にこの言い伝えを本で読んで、ずっと疑問に思っていた。
どうして花嫁だけなんだろうか、と……幸せというものはたくさんあって良いはずだ。
花婿も一緒に身につければ、2人で一緒にもっと幸せな生活が送れるのではないかと。
だから自分が結婚するときは、花婿にも青いものを贈ろう。
花嫁だけでなく、花婿も一緒に幸せになるように願いをこめよう。
心から愛する人のために、幸せのブルーを贈ろう。
そう、心に決めていた……
「これは私から花嫁へのサムシングブルーだよ」
花婿であるオリヴィエはまるで魔法でも使ったかのように、オリヴィエはぽんとロザリアの前にブーケを差し出した。
真っ白なカップ咲きのバラに鮮やかな青と優しい水色のデルフィニウムが散りばめられている。
結婚式当日、オリヴィエはほんの1時間前までロザリアの化粧を手伝っていた。
もう間に合わないから早く準備をしてと言うロザリアの言葉に軽い返事をして控え室を出て行ったと思ったのに、
再び現れたオリヴィエはしっかりと花婿の格好をして、しかもロザリアのブーケまで持って来ていたのだ。
もちろんこの白と青の美しいブーケも、オリヴィエが自ら手がけたものだろう。
いや、ブーケだけではない、ロザリアのドレスもオリヴィエ自らデザインして作り、それと一緒に自分の衣装もきっちり作っていた。
ロザリアは通常花嫁が率先して行う作業のほとんどをオリヴィエに任せることで、心置きなく補佐官としての仕事に集中できたのだ。
今更ながらオリヴィエという人の細やかな気遣いに驚いてしまう。
「あなたみたいな花婿でしたら、外界で良くあるというマリッジブルーというのもなくなりそうですわね」
「何他人事みたいなこと言ってるの?アンタの花婿は私なんだよ?そして私の花嫁はアンタ。花婿は花嫁をしっかり支えるのが当たり前でしょ」
「それはそうですけれど…ここまでしっかりと花嫁を支えてくれる方はそうはいないと思いますわ」
「え?アンタの目の前にいるじゃない」
オリヴィエらしいその言い方に思わずロザリアは声をあげて笑った。そうなのだ、オリヴィエはこういう人だ。
真剣かと思えば冗談を言ったりと、何気ない言葉と気遣いでいつもロザリアの心を解してくれる…そして、支えてくれる。
「ではわたくしも…」
贈られたブーケをオリヴィエに託して、ロザリアは目の前の鏡台に置いていた小さな箱を取り出した。
その中には、オリヴィエのためにと用意した青いリボンが入っている。
幼い頃から心に決めていた…花婿にも幸せのブルーを贈ること。それがオリヴィエであって本当に良かったと思う。
シルクの手袋に包まれた手で、青のリボンをオリヴィエの胸元を飾るブートニアに付ける。
少し光沢のあるベージュのフロックコートに、挿し色のような青のリボンは色映えがして美しい。
ロザリアは自分の見立てが間違っていなかったことに胸をを撫で下ろした。
「私にもサムシングブルーってことだね」
「そうですわ。花嫁だけでなく、花婿も幸せにならなくてはいけないでしょう?」
「おやおや…花婿までなんてね。となると…アンタには幸せはまだまだ足りなかったりするのかな?」
胸のリボンを嬉しそうに見つめながら、少し冗談めかしてオリヴィエはそう言った。
「ええ、あなたとの幸せはいくらあっても足りませんもの。だからこそ、こういうおまじないもしてしまうのですわ」
幸せはいくらあってもいい、いくらあっても足りないと、ロザリアはそう思っている。
だが、あまりにきっぱりと言い放ったのが可笑しかったのか、オリヴィエはくすくすと笑い、降参したというように両手を掲げた。
「あはははは!参ったねぇ!でもねぇ、ロザリア…」
「ロザリア!オリヴィエ!時間よ!いつまでもこんなところで仲良くしてないの!」
オリヴィエの言葉を遮るかのように控え室の扉が勢いよく開き、アンジェリークが顔を膨らませながら入ってきた。
2人の主としてジュリアスとともに介添人をつとめるということで、今日はやたらと張り切っているのである。
「ほらほら、早く早く!」
アンジェリークに急かされ、オリヴィエはそっとロザリアに手を差し出した。迷うことなくロザリアはその手に自分の手を重ねる。
今までもずっと一緒に歩んできた…そしてこれからも一緒に歩むため、それを誓う場所へと向かうのだ。
花びらが舞う…ともに在ることを誓った二人を祝福するように、尽きることなく華やかに、軽やかに、舞い落ちる。
祝福の中を進みながら、オリヴィエとロザリアはふと視線を合わせ、オリヴィエはブーケを持つロザリアの手をそっと握った。
そして、意を決したように一緒にその手を天高く掲げ、高く青く澄んだ空に向かって、ブーケを放り上げる。
くるくると弧を描いて落ちてくるブーケに向かって、レイチェルやエンジュ、そして年少の守護聖たちが駆けて行く。
笑い声やブーケ獲得をはやしたてる声に混ざって、ロザリアの耳にオリヴィエが優しく囁きかけた。
「ねぇ、ロザリア…私はこれ以上の幸せはないと思うけどね」
それでも…と、言葉を返そうとしたロザリアだったが、至極満足そうな表情を浮かべたオリヴィエの顔を見てそれを止めた。
今までにないほど満ち足りたオリヴィエの眼差しにロザリアは少しだけとまどってしまう。
それを察したのか、オリヴィエはいつもの悪戯っぽい表情に戻り、優しくロザリアの肩を引き寄せ、もう一度耳元で囁いのだった。
「だって、幸せのブルーは今までも、そしてこれからもずっと私のそばにいるんだから」
end
Shine様(素敵サイト「Amber&Jade」へは、リンクページからどうぞ。)より、フリーSSをいただいてきました!
もともとは「June Bride Project」に投稿された作品だったのですが、終了後、サイトでフリー配布になっていたのです。
なんという太っ腹!
企画で拝読した時から、2人のラブラブっぷりに、きいいいい!!!と発狂していた私はすぐにいただいてまいりました///。
このオリヴィエ様の優しいこと!!! ホントにロザを愛してるんだな〜〜って、感動しました。
オリヴィエ様って、はじめはなかなか自分の領域に人を踏み込ませないけど、いったん愛するとどこまでも尽くす人だと思うんですよね〜。
そんなところも、このお話は私の理想にぴったりで!
ロザ自身が「幸せのブルー」だなんて、なんて素敵なセリフ!! ますます惚れてしまいました。
で、調子乗って、イラストまで描いてしまったり。
だって、オリヴィエ×ロザリアで結婚式ですよ?!
妄想が広がる、広がる!!!
稚拙で申し訳ないですが、愛はこもってますvvv。
Shine様にこの二人を書いていただけて、本望です!!!
素敵なラブストーリーをありがとうございました。
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