夜のあいだに
額にかかった青紫の髪を指で払うと、彼女が薄く目を開けた。
「オリヴィエ・・・?」
寝ぼけ眼の青い瞳がゆっくりと私を映す。
「ごめん、起しちゃったね。」
そのままそっと髪をなでると、彼女は首をすくめて、私に寄り添った。
「いいんですの。あなたはまだ起きていらっしゃったの?」
少しかすれた声で彼女が言う。言外にすねた様子が出ていて、私は微笑んだ。
「だって、すぐに寝ちゃうのがもったいなくてさ。あんたを見てたいんだ。」
頬に指を滑らせると、私は額に口づけた。
青い瞳がちらりと私のほうを向いて、「今まで何人の女性にその言葉をおっしゃいましたの?」 とシーツの中で軽く髪を引っ張られる。
「ん? 気になる?」
私が耳元でささやくと、すぐに首筋まで真っ赤になった。
「だって、あなたはいつだって、余裕に見えて・・・。さっきだって・・。」
「さっき、ね。 なにかしたっけ?」
私の言葉に彼女はぎゅーっと頬を胸に寄せてきた。
さっきまでの彼女の姿を思い出す。私だけの知る彼女の甘い声、白い肌と、ぬくもり。
私の中にあるオトコを激しく意識する瞬間。
恥ずかしがっているところを見られたくないのだろうか。
私の胸の中で赤くなった頬を想像して、彼女を抱きしめる手に力を込めた。
「あんたがあんまりかわいいからさ、私だって本当は我慢できないんだよ。」
瞳にいたずらな色を浮かべて言う。
「でも、わたくしなんて、あなたに何もしてあげられませんわ。あなたが今までにお付き合いしてきた女性はもっと・・・。」
確かにたくさん遊んできたし、そのうちの何人かはかなり深い付き合いもしたけど。
あんたに会って、私は知ったんだ。
たった一つしかないものがこの手に入る、その幸せを。
そんなに不安そうな顔をしないでよ。
いつもの補佐官顔じゃないあんたは、年相応に見えて可愛すぎる。
本当に分からない? 私がどれだけ、あんたを愛しているのかってことを。
「余裕なんて、ないよ。あるフリを、してるだけ。」
私は彼女の手を取って、自分の胸にあてる。
「ほら、すごく、ドキドキしてる。」
彼女の手の上に自分の手を乗せていると、その早い鼓動がよくわかる。
しばらくじっとその鼓動を感じていた彼女はやがてゆっくりと顔を上げた。
「本当ですわ・・。わたくしと同じくらいドキドキしていますのね・・・。」
「やっと、わかった? 」
私は彼女の手を握る。体中の熱がその手に集まる気がした。
目を伏せた彼女に、私はささやく。
「あんたを、愛してる。 これからもずっとだよ。」
変わらないと信じられるものがここにある。
私はもう一度、彼女を求めてキスをした。
FIN