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彼ら二人は、守護聖達を前にして威風堂々と並び立っていた。一人は新たなる女王、そして今一人は夢の守護聖。女王と守護聖の一人とが並び立って新女王即位を高らかに宣言するなど前例のない事ではあったが、第256代女王ロザリアは見事にそれをやってのけたのである。もっともそれは、彼女一人では絶対的に不可能なことではあったが。
彼らが此処に至った経緯を語らねばなるまい。
即位前の二人は、夢の守護聖と女王候補──それも間もなく女王として立たんとする程の力を持った候補という立場であった。
薔薇の名を持つ彼女は女王候補としては完璧だった。否、完璧であろうとした、というのが正確なところか。『完璧な女王候補』という仮面を被りつつも、玉座が近づくに連れてその心は一人の少女としての恐怖に囚われていた。
「オリヴィエ様、わたくしは怖いのです。……いえ、玉座が近づいてきた今になって怖くなりました。宇宙の全てを統べる事が。だって、一歩間違えると破滅に繋がることなんですもの」
言ってがたがたと震えるロザリアを、オリヴィエは看過しておけなかった。あらゆる恐怖・脅威から護りたいと心の底から願った。その衝動のままに、オリヴィエはロザリアを抱きしめていた。するとロザリアの全身の震えは次第次第に収まっていった。
そしてその時から二人は恋に落ちた。「女王は恋愛をしてはならない」──その不文律に反して。それはかつて、現女王と闇の守護聖クラヴィスを引き裂いていったものだが、夢の守護聖オリヴィエに女王候補ロザリアを今のままで女王にさせる気はなかった。だからオリヴィエはロザリアを連れて、飛空都市から逃亡した。もっともオリヴィエにしてみても、これは一つの賭けであったが。
勿論二人共サクリアの持ち主であるから、飛空都市から出た事は直ちに首座の守護聖の知るところとなった。首座たる光の守護聖ジュリアスは、抵抗するようならばオリヴィエの方は殺しても良いと下知した上にて、即座にオスカーに率いられた兵達を逃亡先の下界へと派遣した。果たしてオリヴィエとロザリアの二人はジュリアスが指定した場所にいた。
「オリヴィエ、今ならまだ間に合うぜ。ロザリアを、こっちへ……」
「俺達も、貴方がたに剣を向けたくは無いのです」
首座の守護聖の命令によって派遣されてきたオスカーと衛兵達の、苦渋に満ちた表情を二人は見て取った。
「申し訳ありません、オリヴィエ様。こんな事に巻き込んでしまって……」
「いいんだよ。飛空都市からアンタを連れ出したのは私の方だからさ」
宥めるような口調でロザリアに優しく囁いてから、オリヴィエはオスカーを筆頭とした兵士たちに向かって自らが求めていることを告げた。
「それより、一つ私から聖地側に要求があるんだけど?」
「その要求ってのは何だ、オリヴィエ?」
「アンジェリークが下界に戻った以上、ロザリアを女王にしたければ、誰か彼女を補佐する役割の人間を設定しな。でもって、その任命権は女王となるロザリアにあるとも。でなければ私はロザリアを連れ戻す事はできないってね」
これを勝ち取るために、オリヴィエはロザリアを連れての逃亡という賭けに出たのだ。彼は、もし自分がジュリアスの立場ならばまず腹心のオスカーを派遣してくるだろうと予測していた。そして案の定、自分達の許へとやって来たのは炎の守護聖オスカーであった。
オリヴィエの知る限り、堅物のジュリアスとは違ってオスカーは話の分からない男ではない。この時点でオリヴィエは、賭けに勝ったも同然だと確信していた。
「分かった。俺から女王陛下とディアにその要求を伝えておこう」
オスカーも心得たもので、ジュリアスにこの話を振ったのでは握りつぶされるのがオチだと分かっていたから、直接現女王と補佐官に話を通すという選択をしたのだ。そして一旦飛空都市へと戻って女王・補佐官と面会し、事の顛末を説明した上にてオリヴィエからの要求を伝達した。
女王もディアも、はじめのうちこそ驚きはしたものの、自分達もそうだったように、歴代の女王と補佐官は互いに互いを支え合ってきたからこそ今までやって来れた事を知っているから、結局オリヴィエの要求を飲むことにした。勿論ジュリアスは反対したが、女王命令とあっては流石に逆らうことはできなかった。
そんなこんなで飛空都市へと戻ってきた二人。次期女王であるロザリアの中で、補佐官の役割を担う人物は既に決まっていた。
「補佐官となる筈だったアンジェが下界に戻った今となっては、オリヴィエ様……わたくしにとって心から信頼できるのは貴方しかいないのです」
「大丈夫だよ。私はずっとアンタを支えててあげるからさ」
「ではオリヴィエ様。これからもよろしくお願いしますわね」
彼女にしては珍しい本心からの笑みを浮かべつつ、女王となるロザリアはオリヴィエを自らの腹心として指名するのだった。それが貴方の居場所だから、と言いながら──
斯くして、旧き因習は破られ、新たにされた宇宙で新しい女王による御代が始まるのであった。
《了》
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