穏やかな午後の陽ざしがさんさんと降り注ぐその場所に、一組の男女が向かい合わせに座っている。
挟んだテーブルの上には、全く手の付けられていない二組のカップ。
二つともすでに冷めかけているのか、湯気が立っている様子もない。
恐ろしいほどの緊張感と沈黙があたりを包み、いつもなら賑やかにテーブルとテーブルの合間を縫っているウェイトレスたちも奥へと引っ込んでしまっている。
そんな光景。
「あ、あの。」
「うむ。」
先に沈黙に耐えきれなくなったのは、コレットのほうだ。
けれど、相変わらず両手を膝の上で重ねたまま、俯いていて、それ以上は言葉が続かない。
そして返事を返したヴィクトールも、また、膝の上で拳を握り、直立不動の様相だ。
もちろん、言葉はない。
「きょ、今日はいい天気ですね。」
「うむ。」
「き、昨日もいい天気でしたね。」
「ああ。」
「あ、明日もいい天気だといいですね。」
「そうだな。」
ここのところ、聖地はずっと晴れの日が続いている。
いっそ雪でも降ってくれれば、話題の一つにもなるのに…。
コレットは恨めしげにちらりと横目で空を見た。
本当に眩しいくらい、いい天気。
『外でお茶をしませんか?』と、ヴィクトールを誘い出すまではシミュレーション通りだった。
問題はコレット自身がその後を考えていなかったこと。
いざ、カフェで二人きりになった途端、頭の中が真っ白になって、何をしたらいいのかわからなくなったのだ。
いつもならこんな時、レイチェルがなにか話題を振ってくれて、ヴィクトールとも会話できるのだが…。
日の曜日の今日、レイチェルもまた朝から出かけてしまっていた。
もっとも、ついてきてほしいと頼んでも『馬に蹴られるのはゴメンダヨ!』と、けんもほろろだったとは思うが。
せっかくの勇気もこのままでは、最悪の結果に終わってしまう。
コレットの頭の中がネガティブ一色に染まろうか、という時。
「ハーイ! なにしてんのヨ。」
レイチェルの声がした。
振り向くと、カフェの生け垣の向こうで、レイチェルが手を振っている。
「レイチェル!」
安堵のあまり名前を呼んだというのに、レイチェルは爽やかに笑い返すだけで、こちらに近づいてくる気配はない。
子犬のようにすがる目を向けてもダメ。
それもそのはず。
レイチェルの隣には幼馴染であるエルンストが立っていて、コレットを見るとメガネの中心をくいっと持ち上げた。
ちょっとぼんやりしたところのあるコレットにとって、エルンストは苦手なタイプだ。
つい先日も育成のことで小言めいたことを言われたばかり。
もちろんエルンストに悪気がないことはわかっているし、的確な指摘はありがたいことなのだが…。
苦手意識は消えない。
「ワタシたち、これから彗星の観察に行くんだ。
96年に一度しか、近づかない彗星が肉眼で見られる大チャンスなんだよ!」
いささか興奮気味のレイチェルと、隣で頷くエルンスト。
ラブラブとは言い難い二人の雰囲気だが、これからの時間をお互い楽しみにしているのは見ていればわかる。
コレットは「そうなんだ。 いってらしゃい。」と、小さく手を振った。
もしも時間があるなら、この状況を何とかしてほしいとも思ったが、あの様子では無理そうだ。
「ウン! コレットも頑張ってね!」
とんでもない励ましにコレットが顔を赤らめていると、レイチェルは勢いよくエルンストの袖を掴み、グイグイと引っ張って歩いていってしまった。
「あの二人は幼馴染だったよな。」
「はい!」
ようやくつかんだ会話の糸口に、コレットはレイチェルの話をし始めた。
彼女とは女王試験で初めて会ったけれど、今ではすっかり親友だ。
誰にでも明るく垣根なく話のできるレイチェルは、コレットにとって自慢の存在。
楽しそうにレイチェルとの出来事を話すコレットをヴィクトールが優しい瞳で見つめていた。
一通り話し終えて、コレットがようやくすっかり冷めた紅茶に口をつけた時。
「うふふ。 楽しそうね。」
キラキラと光を弾く金の髪に優しい微笑み。
一見すると、天使のような少女がすぐ隣に立っていた。
「へ、陛下!」
慌てて立ち上がり、敬礼したヴィクトールにリモージュは首をかしげて頬を膨らませた。
「もう、今日は日の曜日よ? 陛下なんて呼ばないで。」
「し、しかし…。」
「アンジェリーク、でいいの。お休みの日は女王様もお休みなんだから~。」
にこにこと笑うリモージュは本当に女王には見えない。
いつもの正装ではなく、少女らしいフリルやリボンのたくさんついたワンピースを着ているからだろうか。
コレットはなんとなく、自分の服と比べてしまった。
悩みに悩んで…結局、いつもと変わらないような、ブラウスとチェックのスカートを選んだ。
オシャレに気合を入れ過ぎて、ヴィクトールに引かれても困るし、なによりもそんな服しかクローゼットには入っていない。
レイチェルに借りるのはサイズ的に無理だし、そもそも陛下のようなかわいらしい服は似合わない…。
またネガティブスパイラルに陥りかけて、コレットがうつむいていると。
「ね、ココのケーキ、すごくおいしいのよ。 食べてみて。」
ふっと香る、おいしそうなケーキの匂い。
コレットが顔を上げると、目の前に、ケーキをにこやかに差し出すリモージュと、青ざめて顔をひきつらせているヴィクトールがいた。
「で、ですが、陛下。 私はそのようなものは…。」
必死で固辞しようとするヴィクトールに、
「あー、また陛下って言った! アンジェリーク、ですう。」
リモージュがグイグイと皿を押し付ける。
「さあ、言ってみて。 アンジェリーク、よ。」
「あ、アンジェリーク。」
ヴィクトールが恐る恐るといった調子で口にした言葉がコレットの耳にも届いてくる。
「そう。もっと優しく言ってみて。」
「アンジェリーク…。」
コレットは自分の心臓が跳ねだすのを感じた。
いつもと少し違う、呼び声。
もちろん自分ではなく女王に対してだとわかっているけれど、ヴィクトールの声に勝手に心臓が反応してしまうのだ。
生徒ではなく、一人の女性として呼ばれる声に、一気に熱が顔に集まってくる。
そして、そんなコレットの様子に気付かないリモージュではない。
一瞬目を丸くすると、実に楽しそうにほほ笑んだ。
「あ、アンジェ~~~!!」
突然の情けない声に3人が振り向くと、カフェの入り口に立っているのはルヴァだ。
ここまでかなり急いで走ってきたのだろう。
足がもつれてよろよろしているし、息も絶え絶えで、膝を抑えて、そこからもう動けないらしい。
「アンジェ。 私が悪かったです~。 機嫌を直してくれませんか?」
ぺこぺこと頭を下げる様子は、とても宇宙一の賢者とは思えない。
けれど、情けないと呆れるよりも気の毒に思えてしまうのはルヴァという人の人徳なのだろう。
それからもたっぷりと5分、ルヴァは必死に謝り続けている。
リモージュはそんなルヴァから顔をそむけながらも、コレットにくすっと笑った。
「あんなふうに謝られたら許すしかないじゃない? ルヴァってずるいわよね~。」
頬を膨らませながら、でも嬉しそうにリモージュはルヴァのもとへと駈け出した。
「あ、ケーキはわたしのおごりだから! 食べてね。
うふ、邪魔しちゃってごめんなさい。」
賑やかなリモージュが去った後、ヴィクトールとコレットの目の前には。二組のカップと…。
山のように盛られたケーキ。
「これ、どうしましょう。」
「かりにも陛下から下賜されたものだからな。 食べんわけにはいかんだろう。
…お前はどんなケーキが好きなんだ?」
「わ、私は…。」
コレットも女子の例にもれず、甘いものが大好きだ。
スモルニイの帰り道でも友達とケーキやパフェを食べる寄り道を繰り返していた。
ほんの少し前の話なのに、なんだか懐かしい。
たぶんヴィクトールが適度に相槌を入れてくれるのにも励まされたのだろう。
気が付けばコレットはいつもよりも饒舌に聖地に来る前の話をしていた。
「楽しそうだな。 お前の学校は。」
「はい! あ、でもちゃんと勉強もしていたんです。 …あんまり優秀じゃなかったですけど。」
「それは俺もだ。 体力だけは余ってたが、勉強はさっぱりだったな。」
豪快に笑うヴィクトールにコレットは頬を赤らめた。
そう言いながらも、きっとヴィクトールは優秀な生徒だったに違いない。
彼の常の言動は男性的だけれど決して粗野ではなく、知性が感じられるからだ。
「すまんな。 お前にばかり食べさせて。」
やっと2つ目のチーズケーキを食べ終えて、ヴィクトールはフォークを置いた。
ヴィクトールの人生で初めてのことだ。…一度に二つもケーキを食べたのは。
聖地に来るまでは、ケーキなど、年に一度食べるかどうかのシロモノだったというのに、環境というのは恐ろしい。
最近では甘い匂いにも耐性ができたのか、目の前で5つほど平らげているコレットを見ても不思議に思わなくなっている。
「いえ。大丈夫です。 全部食べられてよかったです。」
普段ならコレットもせいぜい3つが限界だ。
でも、食べられないと言えば、ヴィクトールは帰ろうと言い出すかもしれない。
それに話し続けていたせいか、あまり満腹感も感じなかった。
ヴィクトールは奥からウェイトレスを呼ぶと、追加の飲み物をオーダーした。
とりあえず、それを飲み終えるまでは一緒にいられるということだろう。
コレットが「ありがとうございます。」と言うと、ヴィクトールは少し照れたように
「俺も喉が渇いたんでな。 迷惑でなくてよかった。」
と笑っている。
すぐに運ばれてきた2杯目の紅茶を、コレットは熱いうちに口に入れることができた。
ようやく初めの緊張もとれて、お互いをまっすぐに見られるようになった、と思ったら。
「ごきげんよう。」
ヴィクトールが思わずぶっと紅茶を吹き出しそうになったのは、その人の気配を全く感じ取ることができなかったからだ。
軍人としての矜持が傷つくと同時に、浮かれすぎていた自分が恥ずかしい。
わずかに顔を赤らめ、声をかけてきた人影へと向き直った。
「こんにちは、ロザリア様。」
にっこりとコレットが挨拶をすると、ロザリアもまたにっこりと優雅な笑みを浮かべている。
いつもはまとめ上げている髪を下ろし、ふんわりとした年相応なワンピース姿。
こうしていると、普通の女性なのに、さっきのあの気配消しっぷりはとても素人とは思えない。
まじまじと見たヴィクトールに、ロザリアは
「補佐官たるもの、このくらいは普通ですわ。」と、意味深な笑みを向けた。
聖地というのは本当に謎が多い。
「お二人はデートかしら?」
いきなりの核心にヴィクトールは思わずぎょっとした。
だが、そこは年の功と軍人として身についた習性ですぐに立て直す。
「いえ、そんなものではありません。 女王候補との信頼を築くための話し合いです。」
キッパリと言い切ったヴィクトールは、コレットがわずかに目を伏せたことにもちろん気が付かない。
ロザリアの眉がほんのわずかにぴくりと寄った。
「ろ、ロザリア様はなにを?」
内心は動揺したままのヴィクトールがささやかな反撃を試みる。
しかし。
「待ち合わせですの。 美味しい季節限定ケーキがあるって誘われましたのよ。
あら、もうお食べになったみたいね。 どうでした?ヴィクトール。」
「えっ。」
ヴィクトールは自分の皿を見て、思い出した。
可愛い雪の模様のグラスに入った…白いクリームような…なにか。
「お、美味しかったと思います。」
「まあ、どんなふうに?」
「そ、それは…。」
正直、よく覚えていない。
ケーキの味などどれも同じようなものだし、なによりコレットの話を聞くのに夢中だった。
「あの、その。 甘くて。」
「大きなイチゴが美味しそうでした。」
助け舟を出してくれたコレットに感謝の意をこめて会釈をすると、なぜかコレットは寂しそうにうつむいている。
それが気になって仕方がないのに、ロザリアは容赦がなかった。
「イチゴですの? ほかは?」
「う、ほか、ですか。」
答えに困るヴィクトールに、ロザリアがにっこり笑う。
「ケーキよりもコレットに夢中だったのかしら? 仲が良くて羨ましいですわ。」
「…。」
絶句するヴィクトールを真っ赤な顔で見つめるコレット。
見ているほうがむず痒くなるような、甘い雰囲気が二人の間を包む。
というよりも当人同士が気づいていないだけで、実際のところ、ずっとその雰囲気は二人から流れていたのだ。
だからこそ、レイチェルもリモージュも早々にその場から逃げ出したわけで。
ロザリアだけは…こんな面白いことを見逃せないと思ってしまった。
これもある意味、とても好奇心旺盛な恋人の影響なのだろう。
もちろん生来のおせっかい気質も発揮していることは間違いない。
「ヴィクトールがケーキを食べるなんて意外でしたわ。」
「いえ、これは陛下が…。」
「ふふ、きっとコレットと一緒なら、泥団子でも気づかずに食べてしまうのでしょうね。」
「…。」
「甘い空気の中だと、甘いものも甘いと感じなくなってしまうのかしら?
しかも紅茶だなんて。
確かヴィクトールはコーヒー党だったと記憶していますけれど。」
「それはたまたま喉が乾いて…。」
「あら、コレットも紅茶? そんなところまでお揃いにしなくてもよろしいのに。
本当に仲良しですのね。」
どうしたらいいのだろう。
ヴィクトールは全くの異世界に放り込まれたような気がしていた。
こんなにも自分の会話が成立しないことは生まれて初めての経験だ。
ふとコレットを見れば、恥ずかしそうに首まで真っ赤にしてうつむいている。
もしも自分と一緒でなければ、コレットもこんなにも恥ずかしい思いをしなかったのではないだろうか。
もっと気の利いた相手が一緒だったら、ロザリアの追及もスマートに躱して、コレットを安心させることができたのではないだろうか。
申し訳ないという思いとともに、コレットのためにも立ち向かわなければ、という意思がヴィクトールの中にふつふつと湧いてきた。
敵は異星人だが、勝機がないわけではない。
ヴィクトールは戦場で敵に向かっていく前のように、小さく息を吐いた。
「ロザリア様はどなたと待ち合わせなのですか?」
「ええ、オリヴィエですわ。 ふふ。」
嬉しそうにはにかむ姿に照れは微塵もない。
むしろ自慢げで、ヴィクトールの方が恥ずかしくなってしまう。
「デートですか?」
「デート、だなんて。 でもそうですわね。
好きな人とお出かけすることをデートというんでしたら、間違いなくデートですわ。」
爆弾発言、ではないのだろうか。
ロザリアはオリヴィエのことを好きな人だとあっさり認めてしまっている。
自ら放った矢がUターンして自分に刺さったような感覚がして、ヴィクトールは言葉を失った。
このままでは爆死間違いなしだ。
「あの、お二人は恋人なんですか?」
コレットの援護射撃。
けれど、ロザリアは全くいつも通りの優雅な表情で、にっこりとほほ笑んだ。
「どうかしらね、オリヴィエ?」
「さあ、想像に任せたらどう? 遅くなってゴメン。」
また気配を察するよりも前に現れたオリヴィエにヴィクトールは目を丸くした。
一体この聖地という場所に住む人々はどういう訓練を受けているのか。
今夜からのトレーニングの量を倍に増やそうと、考えていると。
目の前でオリヴィエがロザリアの頬にキスをした。
「遅れちゃったお詫び。」
「…もう、オリヴィエ、恥ずかしいですわ。」
頬を染め、オリヴィエに甘える顔はまさに恋する乙女だ。
「ん? 仕方ないよ。 あんたが可愛すぎるから。 ケーキは頼んだ?」
そして、ヴィクトールでは血を吐いても言えないようなセリフをしれっと言うオリヴィエ。
「いいえ。 わたくし、今日はケーキよりも食べたいものがありますの。
ここじゃなくて二人で…。 ダメ、かしら?」
「まさか! 私もホントはそうしたかったんだよ。」
イチャイチャしているようにしか見えない二人は、見つめ合っているだけなのに楽しそうに笑っている。
あの威厳溢れる補佐官と、マイペースを崩さない夢の守護聖とは思えない。
二人はラブラブオーラを出しながら、ごく当たり前のように腕を組むと、密着して歩き出した。
なんて二人の世界なんだろう、とヴィクトールとコレットが呆然と眺めてると、ふいにロザリアが振り返った。
「デートの邪魔をしてごめんなさい。 仲良く二人で続きをして頂戴ね。」
ヴィクトールが返事をする間もなく、二人はそれこそ仲良くカフェの外へと消えて行ってしまったのだった。
しん、と再びカフェ中が静まり返る。
けれどそれは最初のころの緊張感ではなく、どちらかというと嵐が去ったあとのような喪失感に近い。
ふう、とヴィクトールの口からため息がこぼれると、コレットもまた、ふう、と肩を落とした。
「ロザリア様、お幸せそうでしたね。」
「ああ。 そうだな。 あの方でもあんな顔をなさるとは…俺は正直驚いたぞ。」
「はい、私もです。 いつもきりっとしてらっしゃるから、驚きました。」
本当に幸せそうで、お似合いで。
その前に来たレイチェルも女王もそれぞれに大切な人とお互いに想い合っているみたいで。
…少し羨ましかった。
コレットは向かいにいるヴィクトールをちらりと横目で見た。
精悍で大人の男性。
ヴィクトールの前で、自分はどんなふうに見えているのだろう。
今日のこの時間を、ヴィクトールはどう思っているのだろう。
聞きたいのに、はっきりと聞くことのできない性格が、本当に恨めしい。
「アンジェリーク。」
ぼんやりしていたコレットは名前を呼ばれて、ハッと顔を上げた。
今の声は、なんとなく。
考えてしまった自分が恥ずかしくて、頬が染まる。
「その、よかったら、腹ごなしに、庭園でも散歩してみないか?
…そういうのも、その、デート、らしいだろう。」
どこか恥ずかしそうに横を向いたヴィクトールを、コレットはぽかんとして見つめてしまった。
『好きな人とお出かけすることがデート』
さっき、ロザリアが言った言葉をヴィクトールは忘れてしまったのか。
それとも、本当に『デート』と思ってくれているのか。
混乱してなかなか返事ができないコレットに焦れたヴィクトールがコホンと咳払いをする。
そして。
「俺と庭園でデートしてくれないか? アンジェリーク。」
大きく目を見開いた後、頷いたコレットに、ヴィクトールが手を差し出す。
コレットはおずおずとその手に自分の手を重ねた。
初めて触れたヴィクトールの手はとても暖かくて力強い。
包み込まれるような安心感に、
「デート、ですね。」
と、コレットは今日一番の心からの笑みを浮かべたのだった。
その夜、コレットは部屋のカレンダーの次の日の曜日をハートマークで囲むと、大きく『デート』と書きこんだ。
あとで、レイチェルに見つかって散々冷やかされるのだが…。
同じようにカレンダーに小さくマルをしていた男がいることは誰も知らないのだった。
FIN