Side Oscar


ドアを開けてくれたのは、意外にもオスカー本人だった。
「どうしたんだ、補佐官殿。 こんな時間に。」
片手でドアを抑えながら、ロザリアの姿を認めたオスカーは文字通り、目を丸くしている。
たしかに淑女が異性の屋敷を訪れるには、いささか礼の欠いた時間だ。
けれど、オスカーが驚いているのは、きっと訪問者がロザリアだからだろう。
生真面目で優等生の補佐官が、何の約束もなしに訪れるようなことは、今まで一度もなかったから。

「…美味しいお酒が手に入りましたの。
 それと、あの、どうしてもあなたにお話したいことがあって。」
緊張から震えた声を、オスカーはロザリアの『話したいこと』が、よほどの内容だと感じたらしい。
少し考えたそぶりを見せた後、ふ、と軽く息をつき、
「わかった。 話を聞かせてくれ。」
中へとロザリアを促した。

ロザリアがオスカーの私邸を訪ねるのは、初めてではない。
オスカーが休みの日に書類を届けたり、新宇宙の女王を決める際の試験の折に、女王候補たちと来たこともある。
けれど、それはいずれも補佐官として、であって、オスカーのプライベートな空間に足を踏み入れるのは、初めてのことだ。
「素敵なお部屋ですのね。」
通されたのは、客間ではなく、オスカーの私室だった。
簡素だが、長く愛されてきたような調度品がとてもオスカーらしい。
軽薄なようで、その実とても誠実で真摯な彼の本質が、その調度品でわかる気がする。

きょろきょろと部屋を見回したロザリアに、オスカーが笑いかけた。
「あまりインテリアには興味がなくてな。 居心地が良ければ、それでいい。」
自身の部屋だからなのか、ラフな私服姿だからなのか。
オスカーはいつもよりもくだけた調子でいる。
さりげない自然体の笑みにロザリアの胸が大きく高鳴った。


「…何か飲むか?」
サイドボードからグラスとボトルを取り出そうとしたオスカーに、ロザリアは抱えていたワインを見せた。
「あ、あの、でしたら、こちらのワインを飲みませんこと?
 せっかく手に入った珍しいワインなんですけれど、わたくし一人では飲み切れないと思って、持って参りましたの。」
出入りの商人に頼んで、手に入れた正真正銘のヴィンテージ。
ワイン好きなら、誰もが知る名品だ。
オスカーもチラリとラベルを見ると、サイドボードからグラスだけを取り出して、ソファテーブルに並べた。

コルクを開け放った途端に、部屋中にあふれる芳醇な香り。
ロザリアは手際のよいオスカーの所作に見惚れながらも、ホッと胸をなでおろしていた。
どうやら彼はシールの小さな穴には気付かなかったらしい。
二つのグラスに均等にワインを注いだオスカーは、グラスを回し、香りを楽しんでいる。

「いいワインだな。 君も少し飲むといい。
 そんなに緊張していては、話もしにくいだろう。
 この部屋なら声が外に漏れることはないから、気にしないで話してくれていい。」

気遣うようなオスカーの言葉に、ロザリアもグラスを持ちあげて、ほほ笑んだ。
緊張しすぎて、胃がおかしくなりそうな気がする。
ロザリアの固い笑みを、どう思ったのか。
オスカーはグラスの中身を一気に煽っていく。
媚薬入りのワインが、彼の喉を通っていくのを、ロザリアはじっと見つめていた。


「話というのは、なんだ? 執務に関することか? ・・それともプライベートで、なにか?」
オスカーのアイスブルーの瞳がロザリアを映している。
「まさか恋愛相談、じゃないよな? 補佐官殿。」
からかいの混ざる口調。
彼にとって、ロザリアはあくまで恋愛の対象外なのだ、と思い知らされる。
「ええ、そんなわけありませんわ。 ご存じでしょう? わたくしにそんな話なんてないことくらい。」

そっと睫毛を伏せたロザリアに、オスカーは小さく息を吐いた。
ロザリアは本当に疎い。
美貌の補佐官に懸想している男が、聖殿だけでもどれほどいることか。
オスカーが知るだけでも両手では足りない。


「じゃあなんだ?」
畳み掛けてくるオスカーに、ロザリアは何も答えられずにいた。
薬の効果はどれくらいから始まっただろう。
オスカーは平然としていて、なんの異変もない。
焦るばかりのロザリアをオスカーは静かに見つめている。
もしかすると量が少なすぎたのかもしれない、と、思い始めた時、オスカーの頭が大きく傾いた。

「ん?」
オスカーは突然感じた眩暈に軽く頭を振った。
拳を握ろうと力を込めた掌が思うように動かない。
同時に、どくり、と下半身が脈打ち、体が熱くなってくる。
この感覚は。

「お、オスカー?」
驚きで目を見張っているロザリアに、オスカーは首を回した。
「すまない。 身体が…おかしい。」
言い終える前に、ぐらりと傾いた身体をなんとかソファに横たえた。
その間も体からはドンドン力が抜けていく。
それに意思に反して硬くなる下半身は、明らかに性的な興奮から来ているものだ。
一体どうしたというのだろう。
仰向けに寝転んだオスカーを覗きこむ青い瞳。
その瞳が悲しげに揺れていることに気が付いて、オスカーは息を飲んだ。

「まさか、君が…?」
かすれた声を上げたオスカーに、ロザリアはほほ笑む。
けれど、その笑みはまるで泣いているようにも見えた。


目を閉じたオスカーは、人形のように動かない。
ロザリアはふと不安になって、オスカーの左胸に耳を当てた。
耳に感じる鼓動ははっきりとしていて、薬のせいで、変調をきたしている様子はない。
「オスカー…?」
小さな呼びかけに答える様子もなく、ロザリアは詰めていた息を大きく吐き出した。
自分で少量試した時にはわからなかったが、もしかすると意識を失うことがあるのかもしれない。
動かないオスカーは静かに呼吸を繰り返しているだけで、目を開ける気配もなさそうだ。

…それならそれで、かえって都合がいい。
このままオスカーの意識が戻らないうちに、事を済ませてしまえばいい。
ロザリアは恐る恐る、彼の頬へと手を伸ばした。

自分とはまるで違う肌の質感。
男性の顔に初めて触れるロザリアの手は、わずかに震えていた。
それでもその震える手で、緩やかに頬をなぞり、輪郭を辿っていく。
緊張のせいか、指先も冷えているのだろう。
オスカーの唇に指が触れると、その暖かさを強く感じてしまった。
肌とはまた違う、柔らかな唇。
そっと指を這わせ、ようやくロザリアは決心したように、両手で彼の頬を包み込んだ。

ぎこちなく、唇を重ね合わる。
初めてのキスは泣きそうなほど胸が痛くて。
ロザリアは息が苦しくなるまで、そのままの姿勢を続けていた。
一度唇を離し、オスカーを見降ろしたロザリアは、彼のシャツのボタンに手をかけた。
もっと彼に触れたい。 感じたい。
長い間、秘め続けてきた想いが、ロザリアの理性を麻痺させていた。

震える手は思うように動かず、ただボタンを外すだけの作業がとてつもなく長い時間のように感じる。
ようやく全てを外し終わった時、オスカーがわずかに身じろぎした。
けれど、彼は相変わらず目を閉じたまま、ピクリとも動かない。
ロザリアは思い切って、シャツを左右に寛げ、肌を露わにした。

「オスカー・・・。」
かすれた声で呼んだ名前に、もちろん答えはない。
それでもロザリアは愛おしげにオスカーの胸に手を当てた。
鍛え上げられた筋肉をまとう、完璧な身体。
執務服越しに見るよりも、はるかに男性的で、ロザリアは魅入られたように手を這わせていた。
「う…。」
悩ましげにオスカーの口からこぼれる声。
ロザリアの手が触れるたびに、びくびくと震える体。
ロザリアは再び唇を重ね合わせると、たどたどしいながらも、次第にその唇を下へと滑らせていった。


本を読んで勉強した通りに、首筋から鎖骨へ、それから胸へ。
まだ手の震えは収まらないまま、指と唇を使い、ロザリアは懸命にオスカーの体に触れていく。
愛撫というにはあまりにも幼い動きだけれど。
控えめに色づく胸の頂に舌を這わせたとき、オスカーがびくりと大きく震えた。
感じてくれているのだろうか。
オスカーの意識がないのをいいことに、最低な行為をしていると、ロザリアも自覚している。
きっと目を覚ましたオスカーはロザリアを軽蔑し、二度と話しかけてもくれないだろう。

ロザリアはオスカーから離れると、自身のブラウスのボタンに手を書けた。
どうせ二度と触れられないのなら、もっと彼を感じたい。
ボタンをすべて外すと、あとは下着だけだ。
それを外そうかと迷って、結局付けたまま、ロザリアはオスカーの上に重なった。
肌と肌が触れ合い、お互いの温度と鼓動が伝わってくる。
「オスカー・・・。」
目を閉じて、ロザリアはそのまま彼の肩に頭を乗せた。
太陽を浴びた毛布のようなオスカーの香りに包まれていると、たとえようもなく心地よい。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
そう思っていた、その瞬間。


「え?」
声をあげる間もない、とは、まさにこのことだろう。
突然、身体が反転したかと思うと、驚きで開いたロザリアの目には、真っ白な天井が映っている。
背中に当たっている柔らかなクッションを自覚すると同時に、視界に現れたオスカーの顔。
両手を押さえつけられ、足を割られ、ロザリアは一瞬のうちにオスカーに組み敷かれていた。

「お、オスカー?! どうして?
 動けないはずでは?」
彼の体の重みを直に感じて、ロザリアはうろたえた。
自分でも試したのだから間違いはない。
わずかに舐めただけで、確かに指一本動かせなかったのだ。

「俺に薬は効かない。
 軍に入れば、ある程度の薬には耐えられるように訓練するのさ。
 …それにしても、どこでこんな薬を手に入れた?
 俺でもすぐには動けなかったぜ。」
驚きのあまり、声も出ないロザリアをオスカーの氷青の瞳が見下ろしている。

「く。 イイ眺めだな。」
オスカーがニヤリと笑った。
ハッと気が付いて、ロザリアは慌てて両手を動かそうとしたが、がっちりとオスカーに抑え込まれてびくとも動かない。
下着姿を彼の前にさらしている。
恥ずかしさのあまり、めまいがしそうで、ロザリアはグッと唇をかみしめた。

「そんな怯えた顔をすることはないだろう?」
悠々と片手でロザリアの両手を戒めたまま、オスカーは空いている手でロザリアの頬を、すうっと撫でる。
見下ろすアイスブルーの瞳は冷たく、鎖のようにロザリアの心を捕らえて、目を逸らすこともできない。

ゆっくりとオスカーの顔が近づいてきたかと思うと、ロザリアの唇を奪う。
さっき、ロザリアがしたのとはまるで違う、荒々しい口づけ。
「う。」
声を出そうとして、わずかに口を開けば、そこからオスカーの舌が侵入してきた。
絡め取られて、息が苦しい。
あふれた唾液が顎を伝い、のど元まで流れ落ちてくる。
やっと解放されたと思った次の瞬間には、オスカーの唇はロザリアの肌蹴た胸元へと落ちていた。
下着を唇で押し下げ、膨らみに吸い付く。

「いや! やめて!」
思わず叫ぶと、オスカーは唇を離し、ニヤリと笑みを浮かべた。
「嫌? そんなはずはないだろう?
 俺に薬を飲ませて、君は何をしようとしていたんだ?」
答えを知っていて、わざと尋ねてくるオスカーに、ロザリアは黙り込んだ。

「俺が欲しいなら、素直に言ってみろよ。
 抱いてほしいんじゃないのか? 嫌がったふりをして煽るつもりなのか?
 それに君には俺をこんな風にした責任を取る必要があるだろう?」

言いながら、オスカーはロザリアに体を押し付けてきた。
彼の昂りがロザリアの腿に触れて、はっきりとその存在を主張している。
本能的な恐怖で青ざめたロザリアをオスカーは揶揄するように見下ろした。

「どうした? 泣いて逃げ出すなら今のうちだぜ。」
逃げ出すなんて。
もともと、彼と関係を持つためにここへ来たのだ。
むしろ、薬のせいであってもロザリアを女として見てくれているのだから、追い出されて他の女性を呼ばれたりするよりは、はるかにましだ。
たとえ、今のオスカーにとって、相手が誰でもイイのだとしても。
…一夜限りの思い出だとしても。
彼が欲しい気持ちに嘘はない。

「抱いて。 あなたが欲しいの・・・・。」
ロザリアは静かに目を閉じた。
くっとオスカーが喉奥で笑ったかと思うと、すぐにロザリアの唇を塞いだ。



「まだお休みには早いぜ。」
「ん、あっ、もぉ、苦しい…。 やっ。」
あれからどれくらい時が経ったのか。
散々、指と舌で嬲られ続けたロザリアの身体は、あちこちに赤い花が咲いていた。
胸の頂は風がかすめるだけで、甘い痺れを感じるほどに硬く立ち上がり、触れられたこともなく閉じていた花芯も、ぷっくりと腫れ上がっている。
こじ開けるように奥へねじ込まれるオスカーのモノで身体が引き裂かれそうなほど苦しい。

けれど、初めて貫かれた時は、ただ痛みだけしかなかった行為も、今は痛みとは別の疼きを連れてきていた。
じんわりと体の奥に溜まる熱。
オスカーのモノが擦れるたびに身体の奥からあふれてくる蜜は、快感の証なのか。
全身を駆け巡る甘い刺激は、ロザリアを翻弄するばかりだ。

意識が遠のきかけては、オスカーに抉られ、また目を覚ます。
吐き出しても、すぐにまた挑んでくるオスカーに、ロザリアは朦朧と体を揺すられ、熱を受け入れていた。
「あっ。 う…。」
うつぶせにされ、腰を両手でつかまれたまま、最奥を突き上げられる。
深く抉られるたびに、ギュッとシーツを握りしめ、崩れ落ちそうになる体を支えた。

肌のぶつかり合う音。 粘度の高い淫らな水音。
濃密な夜の香りが部屋中を満たしている。
「く、スゴイな、絞られるぜ。」
狭いばかりでなく、ロザリアの身体は蠢くように吸い付いて、オスカーを離さない。
シーツを泳ぐ長い青紫の髪に浮かぶ、白い肌。
汗ばんでバラ色に染まる肢体は、美の女神の化身と思えるほど艶めかしい。
さっきまで無垢だったロザリアに、自身の形を覚え込ませるように、何度も抽送を繰り返しては、悦い個所を探っていく。
ある個所を擦ると、ロザリアのナカがひときわ大きくうねった。
そのままがくがくと震える腰を掴み、さらに叩きつける。

「やぁ・・・。」
激しく突き上げられたかと思うと、ロザリアの体は反転させられ、仰向けに大きく足を広げられた。
恥ずかしい個所がオスカーの目の前に晒されているのに、ロザリアはもう抵抗することもできない。
オスカーのモノでぐちゅぐちゅとナカを掻きまわされ、ただ喘ぐだけだ。


「あ、う・・・。もう、やめ…。」
「嘘を言うなよ。 君のナカは俺に出ていってほしくないみたいだぜ。」
オスカーは耳元に囁きながら、一度ギリギリまで引き抜き、すぐに一気に奥へと貫いた。
ずぶずぶと音を立てて、ロザリアに飲み込まれていく熱。
あまりの刺激にロザリアの身体が大きくのけぞるった。

「な、無、理…。」
言われなくても、オスカーのモノが出し入れされるたびに、自分のナカがギュッと締まるのがわかる。
行為自体は辛くて、もう終わってほしいと何度も思うのに、今、この瞬間、オスカーが自分とつながっていると思うと、とたんに、離れてほしくない、と、無意識に締め付けてしまうのだ。
奥を突かれ、頭の奥がぼうっと霞んでくると、ナカにあるオスカーのモノだけに感覚が集中する。
一つに繋がっている。
彼が自分の中にいる。 …それが嬉しくて、心が震えた。

「締めすぎだ・・・。 くそっ。」
動きを速めたオスカーが一気にナカで爆ぜた。
今までずっと外に出してきたのに、初めてロザリアを熱い液が満たしている。
きっとこれで最後なのだ。
そう思った瞬間、ロザリアは本当に意識を手放した。
「す、き…。」
言いたかった言葉は声にならず、口の中に溶けていった。



目を覚ましたロザリアは、頭をめぐらし、部屋の中を見回した。
淡い光がカーテンの隙間から差し込み、すでに夜明けなのだと告げている。
長い夜だったけれど、まるで現実感がない。
けれど夢ではないことは、わずかに体を動かしただけで、全身が軋むような痛みを感じることでわかる。
手も足も、体中の関節が痛いし、特に下半身はまだなにかが押し入っているような異物感が残っている。

ロザリアは痛みをこらえ、体を起こした。
脚に力を入れると、思わず顔をしかめてしまうけれど、自邸までは何とか歩かなければならない。
ふと傍らを見れば、広いベッドでロザリアと並ぶように、オスカーが横になっている。
薬のせいで、きっと彼も疲れたのだろう。
端正な顔は安らかな寝息を立てていた。

「ごめんなさい…。」
意に沿わない行為を強いてしまったこと。
「…ありがとう…。」
けれど、ロザリアを抱いてくれたこと。
他人から見れば、ロザリアの方がひどい目にあったと思うかもしれない。
けれど、ロザリアにはオスカーに対する謝罪と感謝しかなかった。

強引に奪われはしたけれど、彼は決してロザリアを無慈悲には扱わなかった。
オスカーが快感を得るだけなら、ロザリアへの愛撫など必要なかったはすなのに、時間をかけて体を解してくれた。
むしろロザリアも悦くしようと気を配っていてくれたとすら感じる。
きっと全ての女性に優しいのだろうけれど、オスカーを好きになってよかった、と心から思えたのだ。

最後にもういちど。
ロザリアは傍らのオスカーの唇にそっと唇を重ねた。
次に顔を会わせるときは、ただの守護聖と補佐官でいなければいけないから。


「どこへ行く?」
シーツから抜け出そうとしたロザリアは、背後からグッと腕を引かれ、またベッドに倒れ込んだ。
そして、そのまま力強い腕に抱き込まれたかと思うと、足までがっちりと絡められ、全く身動きができなくなる。
ロザリアの目の前には、オスカーの胸。
少し汗ばんだ肌からは男の匂いがして、ロザリアの頬に熱が集まる。

「い、家に帰ろうと…。」
本当は彼に気づかれる前に去りたかったのだが仕方がない。
「俺に黙っていなくなるなんて許すわけにはいかないな。」
ぎゅっと力を込めて抱きしめられて、ロザリアは困惑した。
一夜限りの夢は終わったはずなのに。
「でも、もう…。」
迷惑でしょう?とは、さすがに自分の口からは言いにくい。
できることならずっとこうしていたいのが、ロザリアの本心なのだから。


「責任を取る、と言ったくせに、まさか一度で終わりのつもりじゃないだろうな。」
ロザリアは絶句した。
オスカーの言う責任がどれほどの範囲を指すのかなんて考えてもみなかった。
薬の効果が切れるまでだと思っていたが、まさかこの先もずっと、彼の相手をし続けろという事なのだろうか。
一度きりなら、愛がなくても耐えられた。
でもきっと、何度も続けば、心まで愛されたいと願ってしまうだろう。
狼狽して、固まったロザリアを察したのか、ふ、とオスカーから笑みがこぼれる。


「一度でも好きな女を抱いたら、もう他の女を抱く気にはならない。
 だから、君に拒否されると、とても困る。」

冗談めいた言葉とからかうような口調。
そのせいで、ロザリアはオスカーの言っている意味が全く理解できなかった。
なぜロザリアが拒否すると、オスカーは困るのだろう。
彼が誘えば、付きあいたい女性なんて山ほどいるというのに。
『好きな女』? 『一度でも』?
単語の意味はわかるけれど、文章がまるでつながらない。
相変わらず、固まって黙ったままのロザリアの耳元にオスカーが囁く。

「もう君しか欲しくないんだ。
 …愛してる。」

今度こそ完全に固まったロザリアを、オスカーは仰向けに押し倒し、組み伏せた。
オスカーの足の間にはすでに昂ったモノがあり、今すぐにでも彼女の中に押し込みたくて、ぴくぴくと波打っている。
ロザリアの腿にそれをこすりつけながら、オスカーは何度もキスを降らせた。
昨夜から何度も吐き出したというのに、一向に衰えない欲望は、ロザリアに飲まされた薬の効果もあるのかもしれない。
彼女には『効果がない』と言ったが、実のところ『効果が薄くなる』といったほうが正しいからだ。
もっとも、もうそんなことはどうでもよくて。
ただやっとこの手に降りてきた女神を離したくないだけのこと。
彼女は呆然とオスカーのキスを受け続けている。
シーツの中で、オスカーはロザリアの胸のふくらみへと手を伸ばし、掌からこぼれるほどの柔らかさを確かめた。

「え? あ?!」
頂きを摘まみ上げると、その刺激でロザリアはようやく我に返ったようだ。
「な、なんですの? きゃ! やめて!」
焦る声も可愛らしいし、精一杯の力でオスカーの手を跳ねのけようとする努力も愛おしい。
けれど、そんなささやかな抵抗は、オスカーの妨げになるどころか、ますます煽るだけだ。

「無理だな。
 俺がどれだけ我慢していたか、君は知らないだろう?
 セレスティアでも何度押し倒そうと思ったことか。
 前の週に女王陛下に釘を刺されてなければ、とっくにどこかに連れ込んでいたさ。
 あんな扇情的な格好をされれば、な。」
「せ、扇情的?! どこかですの?」
「スカートの丈が短すぎる。胸元も開きすぎだった。」
「そんな…。」

それは普段の執務服に比べれば、多少は開放的だったかもしれない。
けれど、そこまで露出があったわけではないし、ごく普通のワンピースだったはずだ。
「君は全く自分がわかっていないな。
 まあ、俺だって、お堅い補佐官殿は、いつまでもお嬢ちゃんのままだと思っていたわけだが。」
「お嬢ちゃんと言うのはおやめ下さいと申し上げておりましてよ!」
反射的に言い返したロザリアはハッと口をつぐんだ。
女王候補時代に散々からかわれて、言い返して。
そんなやり取りが、いつの間にか、恋心に変わっていった、あの日々。

「…お嬢ちゃんは撤回するぜ。
 君はもう、立派なレディだ。 …この俺を誘えるほどにな。」

オスカーを見上げたロザリアは、その氷青の瞳の優しさに魅入られていた。
思わずそっと頬に手を伸ばすと、その手を取られ、指先に口づけられる。
熱い吐息がかかると、身体までジワリと熱くなってきた。

「俺を愛してるか?」
オスカーの問いに、ロザリアは頷いた。
「愛して、いますわ。」
「どれくらい?」
「・・・はかる事なんてできませんわ。」
「じゃあ、俺の方が強いってことになるが、いいのか?」
「でも、絶対、わたくしの方が長いですわ。」
言い合って、二人の目が合い、同時に微笑みあった。

それから重ねられた唇は、それまでの隙間を埋めるように、長く続いて。
そして、ロザリアはといえば、『責任』を果たすために、その日の夕刻まで、オスカーから離れることができなかったのだった。


FIN