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常春の飛空都市は、今日も晴天で、ひたすらに青い空が広がっている。
ぽっかり浮かんだ白い雲は、なんとなく鯨の形に似ていて、ほっこりしてしまう。
天気が良すぎて、こっそり執務室を抜け出したオリヴィエは、中庭の裏の芝生でごろりと寝転がっていた。
ふわりと吹く優しい風に、紛れて流れてくる花の香り。
つい、うとうとしてしまいそうになるが、それを妨げるのは、賑やかな声だ。
「ロザリアー!こっちにもミミズがいるよー!」
「マルセル様、大丈夫ですか?」
「この小石をとるのを手伝ってくれるかい?アンジェリーク」
「はい!この岩もどけた方がいいですよね?」
「あー、そんだけ大きい岩なら、このメカを貸してやる。こうやって動かすとな……ほら、取れたじゃねぇか」
「ゼフェル様のメカ、すごーい!」
静かでサボりの場所として最適だった中庭が、最近はお子様組のたまり場になっていて、そこに女王候補達も加わっている。
庭の手入れ、らしいが、遊んでいるようにしか見えない。
今日は5人揃って、なにかの植え替えをするらしく、いつも以上にバタバタと大騒ぎだ。
オリヴィエはちらりと声のする方に目を向けた。
明るい太陽の下で、無邪気に笑うロザリア。
手袋をしているものの、ミミズを平気で掴む姿は、まだはしゃぎたい盛りの少女そのものだ。
あの日、たった一人の世界で本を読んでいた彼女は、侵しがたい神秘性があり、とても美しかった。
けれど、今の生き生きしている彼女もまた、まったく違うのに同じくらい美しいのは、なぜだろう。
「あー!」
不意の風に帽子を飛ばされたアンジェリークが、大声を上げながら、必死で手を伸ばした。
けれど、帽子はアンジェリークの手をするりとすり抜けて、宙に舞い上がる。
ひらひらと吹かれて、ぽとり、と落ちたのは、ロザリアのすぐ隣。
「拾いに行くから、待ってて!」
アンジェリークは立ち上がると、膝を払い、帽子を取りに行こうとする。
ところが、アンジェリークが帽子にたどり着くよりも早く、手早く汚れた手袋を外したロザリアが、その帽子を拾い上げのだ。
ついさっきまで、アンジェリークの頭に乗っていた帽子を。
「まったく、あんたって子は本当におっちょこちょいなんだから」
掴んだ帽子をアンジェリークの頭にぽんと乗せて、ロザリアは微笑んだ。
「…ありがとう。ロザリア」
アンジェリークがあまりにも真剣な声で、目を潤ませて言うから。
ロザリアはようやく、そのことに気がついた。
きっと今までなら、拾う事なんてできなかっただろう。
誰かが被っていた帽子を、直接手で触れるなんて、できなかった。
なのに、今、飛んできた帽子にごく当たり前に触れて、アンジェリークの頭に乗せることができた。
何も考えず、ただ。
そうすることが自然だと思ったから。
「…いいえ、わたくしこそ、ありがとうですわ」
飛空都市の空気はとても綺麗で、ここに暮らす皆はとても優しい。
だから、ロザリアが触れて、傷つく物はきっとない。
そしてもし、傷ついたとしても、今のロザリアなら、自ら癒やすことができるだろう。
「ホント、いい天気だねぇ」
賑やかな声を子守歌に、オリヴィエは笑いながら、目を閉じたのだった。