日の曜日。
作り終えたお弁当を手にルヴァ、オリヴィエと合流した。
いつもながらの晴天と過ごしやすい気温。
髪を攫う風も穏やかで、まさにピクニック日和。
「いいお天気でよかったですね!」
「ええ~、本当に」
アンジェリークはルヴァの隣をちゃっかりとキープして、にこにこと笑っている。
時々、お互いに目を合わせては照れたように頬を染める姿は初々しく、見ているロザリアまでなんだか恥ずかしくなってくる。
「ふーん、なかなかいい雰囲気だね」
いつの間にか、ロザリアの隣にいたオリヴィエがこっそり耳打ちしてくる。
「ええ、とても」
ロザリアは素直に頷いた。
オリヴィエの口調にはからかうような気配はなかったし、二人の邪魔をするようでもない。
「それじゃ、あの二人はほっといて、私達は私達で楽しく過ごそうか」
ね、と同意を求めるように、オリヴィエはロザリアの顔をのぞき込んでくる。
綺麗なダークブルーの瞳に、ロザリアはドキドキしてしまった。
思わず顔を背け
「き、今日はお化粧してらっしゃいませんのね」
ついそんなことを言ってしまうと、オリヴィエはケラケラと笑い
「して無くないよ。いつもよりナチュラルメイクなだけ。ホラ」
オリヴィエが指さした唇は、たしかに少しパールがかっていて、柔らかな日差しを弾いてキラキラと輝いている。
艶めいた唇と薄いラベンダーのアイメイク。
オリヴィエの言うとおり、ナチュラルな雰囲気のメイクなのに、むしろいつもよりも素敵に見えるのはなぜだろう。
長い睫の落とす影によって色味の変わるダークブルーの瞳だとか、さりげなく、ロザリアの手にしていた荷物を持ってくれる手の整えられたネイルだとか。
今までロザリアの周りにいた男性とは違う、不思議な雰囲気を持つ人だ。
「…綺麗ですわ」
ロザリアがこぼした言葉に、オリヴィエはさらに目を細めて微笑んだ。
「うふ、あんたもやっぱり女の子だね。湖についたら、このリップ塗ってあげるから。どうせならちゃんとメイクさせてよ。あんたの素材、前々からスゴくいいと思ってたんだよね」
微妙な勘違いを与えてしまったような気もしたが、ロザリアは訂正しようとは思わなかった。
奇妙な胸のドキドキを自分自身が勘違いしないように。
・・・あの水の冷たさを忘れてはいけないのだから。
「ルヴァ様!あっちに魚がいますよ!」
「ああ~、そうですか。釣り道具を準備しますから、少し待ってくださいね~」
「逃げちゃいますよ!」
「ああ~~」
湖に着いてからも、ルヴァとアンジェリークは楽しそうに水の流れの止まったほとりに座り、並んで釣り糸を垂れている。
普通なら退屈な魚を待つ時間も、二人にとっては貴重なおしゃべりの時間になるのだろう。
木々の隙間から漏れる光に照らされたアンジェリークの金の髪はキラキラと光って眩しく、緑の瞳も芽吹き始めた若葉のように輝いている。
普段は地味な印象のルヴァも、アンジェリークを愛おしげに見つめる瞳が熱っぽい。
二人の気持ちは、言わずもがな。
なるべく邪魔をしないように、と気遣ったロザリアは、少し離れて滝を眺めていた。
滝からは冷たいしぶきが飛んできて、イヤでもあの日のことを思い出してしまう。
前回とは違うことをしているおかげで、ここまで順調に女王への道を歩めているのに、ロザリアは少し悩み始めてもいた。
今、育成もそこそこ順調で、建物数でエリューシオンを大きく引き離している。
守護聖たちとの仲も険悪だった前回に比べれば普通だし、守護聖たちもだれかが特別にどちらかの大陸に肩入れしすぎていることもない。
けれど、このままで本当にいいのだろうか。
なにか、大きな変化がなければ、運命の歯車は、アンジェリークを女王にしてしまうのではないか。
いいようもない焦燥感。
そして。
ロザリアはちらりとアンジェリークとルヴァを見た。
ロザリアが女王になれば、アンジェリークはどうなるのだろう。
前回ではほとんどつきあっていなかったアンジェリークが、今は大切な友達になっている。
もしも、ロザリアが女王になることで、彼女にあんな苦しみと哀しみと絶望を与えてしまうのだとしたら。
あの幸せそうな笑顔を壊してしまうのだとしたら。
自分だけのことを考えられなくなったら、とたんに迷いだしてしまったのだ。
「どうしたの?ココに皺」
つん、と綺麗な指先で眉間を突かれ、ロザリアは顔を赤くした。
「お、オリヴィエ様はなにを?」
質問を質問で返して、これ以上の質問を避ける。
オリヴィエはうーんと腕を伸ばして、大きくのびをしてみせた。
「ちょっと散策してたんだけど、やっぱり暇でさ。あんたにメイクさせてもらおうと思って戻ってきたってワケ」
「え?!」
「さっきの約束。忘れてないよね?さ、ココに座って」
オリヴィエはすたすたと足を進め、ちょうどいい木の影からロザリアを手招きしている。
断る理由も見つからず、ロザリアはその木の陰に腰を下ろした。
座ったロザリアの向かいにオリヴィエが座り、なにやらごそごそと荷物を探り始める。
小さなウエストポーチくらいのバッグから、次々とメイク道具が出てきて、ロザリアは笑ってしまった。
「もしかして、全部、メイク道具なんですの?」
「ん~、携帯とハンカチくらいは持ってるよ」
ということはそれ以外は全部そうと言うことか。
オリヴィエは手のひらで筆を数回撫でると、
「まずはベースからだけど、こんなに綺麗な肌なら、そこまで塗らなくていいね」
ロザリアの頬に指を添える。
ふわりとオリヴィエから花の香りがして、ますますロザリアの顔が赤くなった。
「リップはおそろいになっちゃうけど、これね。アイメイクはこういう淡い感じがいいかな」
目を閉じているせいか、オリヴィエの吐息や、ちょっとした指の動きまでよくわかる。
彼が動くたびに花の香りがして、とてもいい香りなのに息苦しい気がするのだ。
ふわふわと頬に触れる柔らかな筆が少しくすぐったくて微笑んでしまうと、オリヴィエは
「くすぐったい?敏感なんだね」
びっくりするほど耳元で囁かれて、ロザリアの身体が震えた。
時間の感覚がまるでなくて、長かったのか、短かったのか、とにかく、ロザリアにとってはあっという間で。
「目を開けて。最後にリップ塗るから」
イタズラっぽくウインクをされて、ロザリアの顎にオリヴィエの指がかかる。
こういうシーンを、恋愛映画で見たことがある。
見つめ合う恋人同士が唇を重ね合うシーン。
もちろんそれとは違うけれど、ロザリアは唇を這う筆の感触に胸を躍らせた。
「はい、できたよ」
オリヴィエから渡された鏡に映る自分の姿に、ロザリアは目を丸くした。
「あんたは髪も瞳もブルー系だから、そこを柔らかくするイメージにしてみたんだけど」
満足げなオリヴィエに、なにか言いたいのに、上手く言葉が出てこない。
あまり好きではないつり上がった瞳がアイラインのおかげで少し下がり気味に見え、きつい印象が和らいでいる。
唇も艶を含んだパールでふっくらして、暖かみがある。
「すごくいいと思わない?」
こくこくと頷いて、オリヴィエを見つめる。
やっと
「ありがとうございます」
一言だけを絞り出し、鏡の中の自分の姿に見惚れていると。
「きゃー!!!!」
突然アンジェリークの声が響いた。
「大きな魚!すごいです!ルヴァ様」
ばしゃばしゃと派手な水音がして、ルヴァが釣り竿を懸命に引いている。
よほどの大物なのか、ルヴァの身体は左右に振れ、踏みしめた足下がずるずると湖の方へと引きずられているようだ。
「あらま」
オリヴィエは素早く立ち上がると、ルヴァの手助けに向かおうとした。
けれど、それよりも一瞬早く、大きくしなった釣り竿が湖の湖面から飛び出し、赤い大きな魚が空を泳ぐ。
釣り糸が大きく弧を描いて、湖に魚が打ち上げられた。
びちびちと、湖の畔の草むらで跳ねる魚は、ゆうに50cmを超える大物だ。
「すごい!すごいですね!ルヴァ様!」
「いや~、こんな大物、始めて釣り上げました。貴女のおかげですよ、アンジェリーク」
魚を囲んで大喜びの二人。
駆け出そうと浮かしかけた足を戻したオリヴィエは、再び、ロザリアの隣に腰を下ろした。
「なんだ。心配することなかったね」
くすりと笑うオリヴィエの横顔は、前回の女王試験では見たことのなかったもの。
この胸の高鳴りも前回は知らなかった。
アンジェリークとルヴァは魚を囲んで、写真を撮って、おおはしゃぎだ。
テンションがあがっているせいか、手を繋いでいることにも気がついていない様子で、冷静になった時に写真を見返したら、きっと青くなるに違いない。
「ねえ、あんたはアンジェリークとルヴァをどうしようと思ってるの?」
「え?」
さりげなく尋ねられたことに、ロザリアは絶句した。
『どうしようと思っているか』
ただ、アンジェリークがルヴァを好きだとわかったから、二人が両思いになれればいい。
ついでにアンジェリークの関心がルヴァだけに向くことで、他の守護聖たちが贈り物をしなくなればいい。
とくにそれ以上の事は何も考えていなかった。
けれど、きっと、オリヴィエの求める答えは、それよりももっと先のことだ。
「私はジュリアスみたいに、女王候補は恋愛しちゃダメとかは思ってないよ。人を好きになるってすごく素敵なことだと思うし。やめようと思って止められるようなもんでもないしね。だから」
オリヴィエはロザリアの瞳をしっかりととらえ、視線を重ねた。
「アンジェリークが女王よりもルヴァを選ぶなら、応援したいと思うよ」
もしも女王よりもルヴァを選ぶなら。
ロザリアは心臓がぎゅっとなにかに掴まれたような気がした。
ロザリアが確実に女王になる方法がたった一つ存在したのだ。
それも誰一人傷つかず、むしろ皆が幸せになる方法。
「オリヴィエ様、わたくしもそう思いますわ。…アンジェリークとルヴァ様には幸せになって欲しいですもの」
キラリと輝いた青い瞳にオリヴィエは息をのんだ。
強い光はどこか危うげな影を帯びていて惹きつけられる。
彼女がなにを考えているのかわからないけれど、共に堕ちるのも悪くないとさえ思った。
「あ、ロザリアとオリヴィエ様、二人で何を話しているんですか?」
ひょいっと顔を覗かせたアンジェリークがニヤニヤと二人の間に割って入った。
こういう図々しさも、アンジェリークなら許せてしまう空気がある。
二人の間に収まったアンジェリークはどこか満足げだ。
「あれ?ロザリア、なんだか感じが違う!」
アンジェリークは緑の瞳をいっぱいに見開いて、ロザリアの顔をじろじろ眺めている。
「ひょっとしてオリヴェ様のメイクですか?
「あたり~。この子ってば素材がいいから、すっごく楽しめたよ」
さらりと褒め言葉を口にして、ロザリアにウインクをしてくるオリヴィエ。
「えー、なんかアヤシイ~」
アンジェリークは、ロザリアとオリヴィエを交互に見て、にやりと含みのありそうな笑みを浮かべた。
ただでさえ、恋バナ大好きなアンジェリークに、このままでは変な誤解をされてしまう。
焦ったロザリアが、
「あんたこそ、ルヴァ様と楽しそうだったじゃない。それにあの魚はどうしたんですの?」
軽く冷やかしたのに、アンジェリークは無邪気に笑うだけだ。
「あのお魚さん、ルヴァ様が湖に帰したの。こんな大きな魚が湖にいることがわかっただけで嬉しいって」
「ルヴァらしいね」
オリヴィエがくすりと頷いて、アンジェリークも大きく首を振って同意している。
「ルヴァ様、優しいですから」
「ん?それはアンジェにだけかもよ?普段はあの通りの朴念仁だからね」
オリヴィエが指さした先では、ルヴァが再び釣り糸を垂れながら、こっくりこっくりと舟をこいでいる。
ターバンの上に、小鳥が二羽止まって求愛行動していることにすら気がついていないようだ。
「大変!あのターバン、すごく大事なものなんだってルヴァ様が仰ってました!糞でも落とされたらきっとショックだわ」
アンジェリークは慌てて、ルヴァのところに戻ると、小鳥のためにお弁当のサンドイッチのパンの欠片を振りまいた。
チチチ、とターバンから離れて、パンを突つつく小鳥。
アンジェリークがロザリアとオリヴィエに向かって、ピースサインを出している。
そのあともお弁当を食べ、四人でおしゃべりをして一日をゆったりと過ごしたのだった。
アンジェリークとルヴァを特別な関係にして、女王試験から降りてもらう。
そう決めたロザリアは、今まで以上に二人の仲を取り持つようになった。
まずは外堀を埋めるため、二人の仲の良さをそれとなく周囲にアピールしてみる。
「え?そうなのかい?アンジェリークとルヴァ様かぁ。ちょっと意外だけど、俺も応援するよ」
前回の試験でアンジェリークに一番ご執心だったランディも、あっさりと二人を認めてくれた。
オスカーも
「ルヴァを選ぶとは、お嬢ちゃんも意外に男を見る目があったな」
余裕の笑みでそんな返しをしてくるほどだ。
あっさりと受け入れられたことに、少し拍子抜けしたロザリアだが、これも今までの自分の努力の成果だと思うことにした。
守護聖達となるべくバランス良く接する。
前回のように、皆がアンジェリークを祭り上げるような状況にならないように、頑張ってきたのだ。
「今日はルヴァ様をお尋ねしないんですの?」
偶然、聖殿の廊下でアンジェリークに出くわしたロザリアは、軽い気持ちで声をかけた。
あのピクニックのあたりから、二人の仲は本当に急速に近づいていて、もうロザリアが一緒でなくても、午後のお茶を毎日しているらしい。
毎晩、夕食時に聞かされるのろけ話で、二人の進展具合は筒抜けだ。
甘い恋バナなど、かつては全く興味が無かったロザリアだが、アンジェリークのことになれば話は別。
女王試験とは関係なく、彼女の恋の行方が気になるのは、ロザリアにとって、アンジェリークが大切な存在になりつつあるからだと自覚している。
今まで友人らしい友人はいなかったし、生まれつきの許嫁が多い上流階級では、イヤな噂話の方が多い。
純粋に乙女心が刺激される恋の話が気になる年頃なのだ。
「・・・うん。ちょっと・・・今日は」
なぜかアンジェリークの返事は歯切れが悪く、いつも輝いている緑の瞳も沈んでいる。
もしかしてケンカでもしたのだろうか。
ふとそんなことが頭をよぎったが、あまり根掘り葉掘り聞くのもマナー違反のような気がした。
それに、あのルヴァが声を荒げたり、アンジェリークに辛く当たる姿が想像できない。
「そうね、ルヴァ様にもお忙し日がおありでしょうしね。じゃあ、今日のお茶はわたくしとしましょう。ばあやが焼いた美味しいケーキがありますのよ」
ロザリアは長い巻き髪を背に払い、いかにも仕方がないわね、といった風情でアンジェリークに誘いをかけた。
いつもなら、ケーキという単語だけで飛び上がるほど喜ぶアンジェリークなのに、今日はどこか上の空で
「うん・・・でも・・・今日はいいわ」
そのままとぼとぼと歩いて行ってしまった。
遠ざかる背中も丸まって、やはり元気がない。
ロザリアは首をかしげながら、アンジェリークを見送った。
「おかしいですわよね」
ロザリアはさっきのアンジェリークの様子を、オリヴィエに話して聞かせていた。
あのピクニック以来親しくなったのは、アンジェリークとルヴァだけではなく、ロザリアとオリヴィエも同じだ。
お茶の時間、特に約束せずに現われたロザリアをオリヴィエは歓迎してくれた。
お茶だけでなく、ネイルをしてくれたり、メイクやファッションの話をしたり。
おそらく、今のロザリアにとって、オリヴィエはアンジェリークの次に仲がいい存在だ。
今、ロザリアはどの守護聖とも上手くやっているから、特別に話しにくい人物はいない。
けれど、オリヴィエ以外の守護聖といると、どうしても、前回の事を思い出してしまうのだ。
『完璧な女王候補が笑わせる』『そもそも資質が足りなかったのだ』『負けたんだね。恥ずかしい』
冷たい言葉と侮蔑の目。
今は違うとわかっていても、ロザリアの心の奥底には、あのときの恐怖がある。
無関心だったからとはいえ、オリヴィエとは前回の思い出がほとんどないことが大きかった。
「・・・そっか」
ロザリアの話を聞き終えたオリヴィエは、紅茶のカップを口元に寄せた。
もともと紅茶は好きだが、ロザリアがよく来るようになって、茶葉をより選ぶようになっている。
人工的なフレーバーよりも、茶葉そのものの香りが高いもの。
カップから立ち上るナチュラルな香気が心地よい。
「あのさ、ロザリア」
「なんですの?」
突然の呼びかけに、ロザリアは小さく首をかしげた。
そんな姿は年相応の美少女らしく、可愛らしい。
「あんた、ルヴァとアンジェリークをくっつけようとしてる?」
「ええ」
「どうしてさ」
「だって、二人には幸せになって欲しいですもの。オリヴィエ様も応援するっておっしゃいましたわよね?」
あのピクニックの日にも同じような話をした。
あのとき、オリヴィエはたしかに『アンジェリークが女王よりもルヴァを選ぶなら、応援したい』と言ったはずだ。
「まあね。たしかにそう言ったけど」
「ええ、わたくしもしっかり覚えておりますわ」
ロザリアは青い瞳でオリヴィエを見つめている。
揺るぎない強い意思を持った瞳。
いろんな思惑がよぎる瞳だが、その蒼はとても美しい。
小さく首を振って、オリヴィエはため息をついた。
「あのさ、あんたも知ってると思うけど、女王候補と守護聖の恋愛はタブーと言われてるんだよ」
「ええ、もちろん知っていますわ。でも、人の気持ちはそんなもので縛られるものではありませんでしょう?アンジェリークとルヴァ様は想いあっていますもの」
「そりゃ想いあうのは自由だし、止める必要も無いけどさ。だけど、それが許されるかどうかはまた別の話」
「・・・どういうことでしょう」
オリヴィエの言葉を噛みしめるように、ロザリアは口元に手を当ててうつむいた。
なにか、勘違いをしているのだろうか。
アンジェリークが女王候補を降り、ロザリアが女王に立つ。
これ以上に素晴らしい方法はないと思ったのに。
「ジュリアスにバレたみたいだよ。それでアンジェは叱られたみたいだね」
「まあ・・・!」
まさか、そんなところから補正が入るとは全く予想していなかった。
オリヴィエは肩をすくめ
「バレたらそうなるとは思ってたんだよね。あのジュリアスにギャーギャー頭ごなしに言われたら、さすがのアンジェも凹むでしょ」
元気がなかった原因はそれだろう。
けれど、ロザリアにとっては、もっと切実な問題がある。
もしも、これでアンジェリークがルヴァを諦めて、女王になる決意をしたら。
また、負けてしまうかもしれない。
足下が冷たい水に浸るような気がして、ロザリアのカップを持つ手が震えた。
「まあ、私はあの二人がそんなことでへこたれるとも思わないけどね。・・・って、ロザリア、あんた顔が真っ青だけど、大丈夫?」
オリヴィエが心配そうに顔をのぞき込んでくる。
ロザリアは青い顔のまま、
「大丈夫ですわ。少し気分が悪くて」
言い訳を探しながら、オリヴィエの部屋をあとにしたのだった。