私の推し様!

Blue Rose Festival 2022


この扉を開けた瞬間から、女王試験が始まる。
ロザリアはごくりと唾を飲み込むと、グッと顎を上げ、背筋を伸ばして前を見据えた。
知的に輝く青い瞳と丁寧に巻かれた青紫の髪。
高価なレースをふんだんに使ったドレスや目を瞠る装身具など、どこをとっても非の打ちどころのない、堂々とした令嬢。
落ち着き払った表情も、この場に臆した様子は見られない。
ところが、今のロザリアの本心は、飛び出しそうな心臓を抑えるだけで精一杯の状態だった。

すぐそばに、あの子がいる。
金の髪のあの子が。

人生最大の緊張の中、
「ロザリア・デ・カタルヘナでございます」
身に沁みついたカテーシーは、心ここにあらずの状態でも、優雅にこなせた。
けれど、その後はなにがあったかは、ほとんど記憶がない。
たしか9人の守護聖と顔合わせをし、首座の守護聖から訓示を受けたはずだ。
それからディアに先導されて、数人の守護聖に挨拶をしたり、聖殿の中を案内されたのだが…。
守護聖の顔すら浮かんでこない。
足元がやけにフワフワして、気が付いたら、候補寮の自分の部屋の前。
そこで初めて、もう一人の女王候補である金の髪のアンジェリークに話しかけられた。

「あの、ロザリア、さん」
どきん、と、ロザリアの心臓が大きく飛び跳ねる。
「あのね、わたしも同じスモルニイの生徒なの。普通科だし、きっと知らないと思うけど…」
一大決心で話しかけたのか、アンジェリークの大きな緑の目はうるんで、ふっくらした頬が赤らんでいる。
まるで目が開いたばかりの子犬のような可愛らしさ。
「これから二人で同じ試験を受けるし、あのね、よかったら、ロザリアって呼んでもいい?」
ズキューン。
本当に可愛すぎて正視するのが辛い。
目のあたりにする可愛さの暴力に、うろたえたロザリアは
「ええ、かまわなくてよ」
つい、腰に手を当てて、ツンと冷たく返事をしてしまった。
あわわ、なんてことを!と背筋が凍ったが、
「嬉しい!わたしのこともアンジェって呼んでね」
アンジェリークは満面の笑みで、ロザリアの手をぎゅっと握りしめたのだった。


「はあ、もったいなくて手を洗えませんわ…」
自室に戻り、ばあやの淹れた紅茶を一口。
ロザリアはうっとりと自分の手を眺めた。
白く手入れの行き届いた、苦労を知らない令嬢の手だが、さっき、アンジェリークに握られた部分は、まだほんのりと熱を持っているような気がする。
ふっくらと柔らかくて、ロザリアよりもずっと暖かい手。
初めて触れたアンジェリークは、やはりロザリアの想像していたとおり、とても優しい感触がした。

アンジェリークは知らないと思っていたようだが、実はロザリアはずっと前からアンジェリークのことを知っている。
知っているというレベルでは語れないほど、強烈で熱烈で猛烈に。
むしろ、ロザリアはアンジェリークのことを、ずっと積極的に『推し』てきたのだ。



スモルニイの高等部入学式。
幼稚舎からスモルニイ育ちのロザリアは、新入生代表として壇上で挨拶をすることになっていた。
ずっと生徒会長の役職を努めてきたロザリアだったから、今更、校内の式典程度で緊張することもない。
けれど、念のため、いつもよりも早く登校し、挨拶の言葉を諳んじながら、散歩していたところ、偶然、中庭の奥にある女王の像が目に入った。
もともとスモルニイは女王を養成するための学校として設立されたという歴史がある。
そのせいか女王信仰が盛んで、今でも週に一度の礼拝があるし、いろんな行事が女王に捧げるもの、として運営されていた。
なかでもこの中庭の像はひときわ大きく、見上げるほどに優美な姿は、まさに女王の威光そのもの。
ロザリアもこの神々しく美しい女王の姿に、ひそかな憧れを抱いていた。

その女王像の前に、一人の少女が立っている。
見たことのない顔だから、きっと高等部からの新入生に違いない。
中等部までは幼稚舎からの持ち上がりだから、学園内の生徒はみな顔見知りだ。
集合場所を間違えて、中庭まで入り込んでしまったのかもしれない、と推測したロザリアは、彼女に声をかけるべきか迷った。
淑女のマナーとして、たとえ同じ学校の生徒であっても、みだりに知らない人に話しかけるのはよくないからだ。

じっと像を見上げていた少女は、ふいに手を合わせ、女王に祈るようなポーズをとった。
金色の髪がふわりと風に揺れ、スカートの裾もさやさやとなびく。
偶然なのか、まっすぐに差し込んだ朝日が彼女の全身を包み込み、まるで金色のオーラを纏っているようだ。
単純に美しいというよりも、神聖で厳かな空気。
ロザリアが驚きで、一瞬、目を瞬かせると、纏った光の粒が彼女の背中に集まり、翼のような形を作る。
金色に輝く翼を持つ少女。
もしも天使が存在するのなら、それはきっとこんな姿をしているに違いない。
そう思わせるほど、暖かく優しい光が、彼女の全身からあふれだしている。

見惚れて声を出せずにいると、
「アンジェ!」
遠くから、女性の声がして、彼女が目を開いた。
大きくてキラキラした緑の瞳が周囲を見回すころには、光の粒は霧散していて、さっきまでの神聖さの名残はない。
「あ、お母さん!」
彼女が声をのする方へと駆けていき、人気がなくなると、ロザリアはやっと足が動くようになった。

「今のは…なにかしら?」
女王像を見上げても、像はいつものように優雅な笑みを浮かべているだけだ。
たまたま彼女の金の髪に、朝日がきらめいただけなのか。
偶然、なのか。
ロザリアは不思議な気持ちに包まれながら、式の行われる講堂へと向かったのだった。


あの時の少女が『アンジェリーク・リモージュ』だと知ったのは、それから数か月後。
新入生たちのざわめきも和らいで、学園が落ち着きを取り戻して来た頃だった。
突然、学園の廊下中に、『猫をもらってください』のポスターが、べたべたと貼り出されたのだ。
もちろん、学園の掲示物は許可制になっていて、個人的に利用することは許されていない。
「注意しなければいけませんわね」
成績優秀で特待生の会長は、こんな些末なことには興味がなさげだったが、スモルニイの規律を守ることは生徒会業務の一環だ。
ため息交じりに、掲示物を出した生徒を探すように指示すると、副会長が意気揚々と犯人探しを始めた。
取り巻きを引き連れて、校内を練り歩き、ポスターのことを聞きまくる。
捨て猫を保護して、新しい飼い主を探す、という行為自体は、とても尊い。
ポスターの内容が内容なだけに、同情的な生徒も多かったのだが、尋問された生徒たちは皆怯えながら、副会長たちに従うしかなかった。

一年生ながら生徒会メンバー入りしていたロザリアは、副会長にあまりいい印象を持っていなかった。
裕福な商家の令嬢だが、以前、たまたま通りがかった時、外部生に対するいやがらせ行為を目にしてしまっていたからだ。
外部生、とは、高等部からの入学生で、一般家庭の子が多くなっている。
多種多様な立場や考えを共有することで広い見聞を持つ、というスモルニイの理念から、高等部と大学は大きく門戸を開いているらしい。
けれど、幼稚舎からの特別クラスは、名家の令嬢がほとんどだから、それなりの壁はある。
実際のところ、本当の名家の令嬢というのは、ロザリアを含め、あまり身分差を気にしていないのだが、中途半端な家柄なのに幼稚舎あがり、というのが一番たちが悪い。
自分たちの劣等感が、さらに弱いものへ向かい、いやがらせなどの形になって表れる。
その典型的な例が、副会長とその取り巻き立ちだった。


調査の結果、すぐに、ポスターの犯人は浮上した。
というよりも、噂が流れて、犯人が自主的にポスターをはがしたのだ。
「申し訳ありませんでした!勝手に掲示板を使っちゃいけないって知らなくて…」
副会長とその取り巻きである書記、会計にはさまれて、アンジェリークは小さくなっていた。
権力のある先輩に囲まれているというのは、新入生にとって、ひたすら恐怖だろう。
「貴女、自分がなにをなさったかわかっているの?」
「生徒会に無断で、そういうことをしていいと思っているのかしら?」
「これだから、外から来た人たちは…」
口々に浴びせられる嫌味に、緑の瞳は怯えて潤み、カタカタと体を震わせている。
何度も頭を下げる姿は、ひどく痛ましかった。

ロザリアは生徒会室の片隅で、ただその様子を眺めていた。
アンジェリークが副会長に連れられて入ってきたとき、すぐに、あの女王像の前にいた少女だとわかった。
キラキラとした金の髪に赤いリボンした可愛らしい女の子。
こうしてみると、大きな緑の瞳が目立つ程度のごく普通の顔立ちで、神聖な空気などみじんもない。
本当に本当に『普通』の女の子だ。

「猫の貰い手も無事に見つかったので、ポスターもはがしました。本当にご迷惑をおかけしました」
再び、アンジェリークが頭を下げると、会長はほっとした様子で
「そう、貰い手が見つかったのね。それはよかったわ」
と微笑んだ。
続けて、
「次からは、きちんと許可をとりなさい。ポスターの無断使用はともかく、貴女の行いは賞賛されることだわ」
優しい言葉をかけている。
どちらかと言えば、クールな容貌で、一見怖くも見える会長の優しさに、アンジェリークは一気に感情がゆるんだのか、じわりと涙ぐんだ。

「あ、ありがとうございます。猫ちゃんたちも助かって、本当によかったです」
「そうね。私も猫好きだから安心したわ」
「え、そうなんですか?」
「ええ、家でも3匹飼っているの」
アンジェリークはすっかり元気を取り戻して、にこにこと会長と猫談義を始めた。
猫好きなのも初耳だが、いつも厳しい会長があんなに楽しそうに話している姿も初めて見た。
くるくると緑の瞳を輝かせて、朗らかに笑うアンジェリーク。
彼女の周囲は、ほっこりと暖かな光がともっているような気がする。
それから、ロザリアはアンジェリークのことが気になってたまらなくなってしまった。


普通科のアンジェリークとは、普段の授業で会うことはまずない。
たまにある特別授業や合同授業で、その姿をちらりと見る程度だ。
アンジェリークの周囲には、いつも友人がたくさんいて、楽しそうに笑っている。
「あんなふうにおしゃべりしながら歩くなんて、外部生はお行儀が悪いわね」
ロザリアのクラスメイト達の中には、そんな陰口を叩く者も少なくはなかった。
たしかに、ロザリアたち特別クラスの令嬢たちは、マナーに厳しく育てられていて、アンジェリークのように大声で笑ったり、はしゃいだりといったことはない。
それに、クラスメイトとはいえ、家同士の繋がりがものをいう世界では、真の友情が育つ可能性は低いのだ。
現クラスも、大貴族であるロザリアを筆頭に、しっかりとしたカーストが生まれている。
「はしたない」
ひそひそと噂するクラスメイトたちに、ロザリアはうっすら怒りすら感じていた。
アンジェリークの笑顔はとてもまぶしくて、可愛い。
何故か惹かれてしまう。
事実、あのめんどくさい副会長ですら、アンジェリークと気軽に挨拶を交わすようになっているではないか。
いつの間にか、学園の中で、アンジェリークの姿を垣間見る瞬間を、ロザリアは心待ちにするようになっていた。


「はあ」
主星でも1,2を争う豪奢なカタルヘナ邸の自室で、ロザリアはため息をついた。
薔薇を浮かべた優雅なバスに体を浸し、ゆったりと休息の時間をとったものの、なぜか気持ちは落ち着かない。
シルクのネグリジェに身を包み、ドレッサーの前に腰を下ろすと、ロザリア付きのメイドのアーニャが、髪にブラシを通してくれる。
腰まで届く長い髪を、丁寧に梳るあいだ、つい、出てしまったため息を、アーニャが耳ざとく聞きつけた。
「どうかなさいましたか?お嬢様」
もしも、これがばあやなら、こんなふうに聞いたりはしなかっただろう。
アーニャは最近、田舎の別荘から主星の本宅に移動になったばかりで、年もロザリアに近かった。
だからこそ気安く、声をかけることができたのだ。

「どう、もないのだけれど…。そうね、少し気になることがあるのは本当ですわ」
「お話することで楽になることもありますよ。わたしでよければいくらでも聞きます」
「そうね…」
普段なら使用人に心のうちを明かすことなどしないロザリアだが、ここ最近の悩みはすでに大きくなり過ぎて、自分で持て余しているほどだ。
どうしても誰かに話してみたい、という衝動が抑えられなかった。

「最近、とても気になる人がいるんですの」
「え!」
びっくりしてブラシを落としかけたアーニャにロザリアは小さく首を振った。
「たぶん、アーニャが考えているようなことではないのだけれど…。でも」
ここで一度、ロザリアは言葉を切り、考えた。
けれど、結局は上手い言葉ではぐらかすよりも、素直に伝えようと決める。
「つい、その人のことを目で追ってしまったり、出会えたら嬉しくて、一日ドキドキしたり、笑顔を見たら、わたくしまで楽しくなったり…」
「え~と、それは恋では?」
すかさずアーニャが突っ込む。
「恋、ではないの。 それはありえない関係なのよ」
「はあ」
どこをどう聞いても、それは恋しかありえない。
けれど、ロザリアは頑としてそれを認めない。
とすれば、恋とは読んではいけない関係…アーニャの頭にピンとひらめいたのは。

「恋じゃない、でも、それって、好き、ではありますよね? 会いたいとか笑顔を見ると嬉しいとか、好きでしかないですよね」
「やっぱりそうなのかしら?」
『好き』という言葉には広い意味があるから、『恋』よりは当てはまっているのかもしれない。
でも、相手は女の子。
しかも話したことすらない。
そんな女の子に対して『好き』という感情を持つのは、おかしい気がする。

「好き、でもいいのかしら? 絶対に相手からは好きになってもらえる可能性なんてないんですのよ」
「ダメ、なんてことは絶対にないと思います! それに、両想いになるだけが好きの最終形態じゃありません!」
アーニャはロザリアの葛藤を、ちょっとだけ誤解してしまっていた。
『好きになってはいけない』『思いを返してくれない』
ちょうどアーニャ自身も同じ思いを抱えていただけに、すっかり同類と思い込んだのだ。

「わたしも実は好きな人のために田舎から主星に出てきたんです!」
「そうなんですの?」
「はい!わたしの好きな人は、田舎ではライブもないし、会う機会がゼロなんです。 でも、主星では毎週末、ライブがあって、握手会とかチェキ会とか、夢のようなイベントもあるんです」
アーニャはいわゆる地下アイドルオタクで、田舎の別荘地ではめったに会えないアイドルに会いたい、ただその一心で、忙しくて敬遠されがちな本邸への配属を希望したのだ。
「彼は本当に宇宙一最高でカッコよくて歌もダンスもすごいんですよ~。 もう毎日会いたくて、ライブハウスとかうろうろしてるんですけど、なかなか普通には会えません…。 でも、毎日動画で一緒に歌って踊ってますから! あとでお嬢様にもぜひ彼を見ていただきたいです!」
熱い告白をしばらく続けたアーニャだったが、ロザリアの表情がまだ暗いことに気が付いた。

「お嬢様?もしかして、引きました?」
止まっていたブラシの手を慌てて動かして尋ねると、ロザリアはため息交じりに首を振る。
「いいえ、あなたの好きは素晴らしいと思いますわ。でも、お相手は男性でしょう?」
ここでさらに、アーニャはロザリアの悩みを理解した。
「お嬢様は女オタなんですね!」
「はい?」
「女子が女性アイドルを好きになることです! それ、全然珍しくないですよ! わたしの推しにも男オタいますし」
「推し?」
「あ、わたし達の間では、好きな人を『推し』っていうんです。 とくに彼のことは『最推し』とも言います」
「そうなんですの…」
「『推す』という気持ちはただの好きではないんです。見返りを求めず、ひたすらただただ相手を思って、愛されるよりも愛する方を選ぶ。 究極の愛じゃないですか? だからこれは恋よりも尊い! 男とか女とか、生きてるとか死んでるとか、次元の違いとか、すべてを超越して愛することが『推す』なんです!」

なんて熱い。
いつものロザリアならば、アーニャの発言のツッコミどころを見逃すことはなかっただろう。
けれど、今のロザリアにはまさに目からウロコ。
知らなかった世界に足を踏み入れたことですっかり目がくらんでいた。
なにより、悩んでいたことを全肯定されて、自らもすべてを受け入れられるような、仏のような気持ちになっていたのだ。

「推す…それはとても尊いことなんんですのね」
「そうです。ただひたすらに推しを思って、推しの幸せを祈って行動する。とても尊い行為です」
気が付けば、梳かされすぎて、ロザリアの髪はつやつやになっていた。
けれど、髪以上にツヤツヤなのは、ほぐされたロザリアの心だ。
ブラシを終えたアーニャは、いつも寝る前にロザリアが飲むハーブティを二人分淹れた。
長い夜のための大事な準備。
その夜、ロザリアは『推し事』について、アーニャから詳しくレクチャーを受けることになったのだった。


それから、ロザリアの生活は一変した。
もちろん、学園の生活で、ことさら何かをするわけではない。
相変わらず、移動教室ですれ違うだけ、合同授業で姿を見るだけの日々だ。
けれど、ロザリアは、ひそかに『推し事』すなわち『推しのためにできること』を始めていた。
甘い物好きなアンジェリークのために、生徒会権限で学食にデザート類を追加したり。
アンジェリークの好きな花を花壇に植えたり。
再び猫の里親探しをしていたときは、こっそり里親をあっせんしたりもした。
校内のことばかりではない。
ある時は、アンジェリークの寄り道先のアイスクリームショップが閉店しそうになっていると聞きつけて、店ごと買い取った。
帰り道、友人たちとアイスクリームを食べているアンジェリークはとても可愛くて、どうしてもその店をなくしたくなかったのだ。
アイスばかりではつまらないだろうと、通り道にクレープショップや雑貨屋などもオープンさせたら、期待通り、アンジェリークは喜んで寄ってくれるようになった。

アンジェリークの笑顔を見ると、胸がきゅんとして、もっと喜ばせたくなる。
「これが推し、というものなのね」
ロザリアは今までの自分の生活が、いかにつまらないものだったかと思い知った。
毎日、学園に通い、当たり前のように勉強し、習い事をこなし、社交界デビューのためのレッスンをする。
将来だって、おそらく、カタルヘナ家にとって有益な相手と結婚することになるのだろう。
母も祖母も、そうやって生きてきた令嬢だから、決まり切った人生だとわかっている。
でも、心は自由で、この尊い思いは誰にも邪魔されることはない。
これからもずっと、たとえ学園を卒業しても、アンジェリークを影から推し続けていく。
ロザリアはそう決意していたのだ。



それがまさかの、この突然の女王試験。
『最推し』とこんなに近く、同じ立場で過ごす日が来るだなんて、誰が想像しただろう。
こんな美味しいシチュエーションは、アーニャが貸してくれた『薄い本』ですら、ベタ過ぎると敬遠されていた。
推しと一つ屋根の下の生活。
ライバルとして競い合う日々から湧き上がる、友情!努力!勝利!
それは今まで妄想してきたどんなストーリーよりも、素晴らしい日々に違いない。
ロザリアは舞い上がる気持ちを引き締めるように、ぐっと両こぶしを握りしめて、新品のベッドにもぐりこんだのだった。