セカンド・ヒロイン

2.

定期審査の朝、ロザリアが部屋に迎えに行くと、案の定、アンジェリークはまだ髪もぼさぼさで、ブラウスのリボンを結ぶのに悪戦苦闘している最中だった。
「あ〜ん、ロザリア〜。」
「朝食は?」
「まだだよ〜。 時間ない〜。」
「仕方ないわね。 ジュースだけでも飲みなさい。」
「うん。」
ロザリアはばあやに頼んで、オレンジジュースを持ってこさせると、アンジェリークに手渡した。
あと10分でも早く起きれば、朝食も少しは食べられるのに。
片手にジュース。 片手に靴下。
零しそうでハラハラしていると、捨てられた子犬のような目で見あげられ、ロザリアはブラシを手に取った。
ふわふわの金の髪はどこまでもやわらかく、手触りがいい。
アンジェリークがジュースを飲み終える前に、パパッと髪をまとめたロザリアは、こまごまとした彼女の荷物も全部さっと鞄に詰め、時間ぴったりに部屋から連れ出した。

女王の間に勢ぞろいした面々の前で、儀礼的に審査は進む。
「ロザリア。」
首座の守護聖ジュリアスが重々しく口を開き、ロザリアは姿勢を正した。
「今回、そなたのフェリシアはエリューシオンに比べ、発展の度合いが低かった。
 勝利したとはいえ、このような状況は望ましいものではない。
 なにゆえかは、理解しているのか。」
厳しい口調と表情に、他の出席者たちは息を潜め、ロザリアの返答を待っている。

本当なら、褒められてもいいはずなのに。
ロザリアは内心ため息をついた。
たしかに、今回、フェリシアの建物の増加は10。 エリューシオンは13だから、増加数は負けている。
けれど、総数で言えば、フェリシアは22。 エリューシオンは14なのだ。
ロザリアの圧勝と言ってもいい。

ロザリアは小さく息を吸い込んだ。
慣れている。こんな状態も。
小さいころからこうだった。
ロザリアがなにかをした時、出来て褒められることはないのに、出来なければ責められる。
今更それを不満に思うことはないけれど、やはり理不尽だ、と思わなくもない。
現に今、『負けてはいるが、よく頑張っている』と褒められたアンジェリークは嬉しそうに、ランディやマルセルたちとほほ笑み合っている。
なのに。
ロザリアはたった一人で糾弾されているのだから。

ロザリアはすうっと息を吸い込むと、ジュリアスをまっすぐに見つめ、静かに答えた。
「はい。 現状の停滞は次のステップへの移行時期だからです。
 この先、土壌があまり豊かではないところへ、民の移住を広げていかなければいけません。
 そのために一時的に人口を抑え、安定化を図っております。」
的確かつ冷静に自身の意見を述べる。
当たり前のことを普通にしているだけなのに、周囲の視線は冷たい。
まるで尋問されているみたいだ。
「…そうか。 展望があるならばよい。」
その後もジュリアスから2,3の質問を受け、ようやく審査は解散になった。

帰り際、
「ロザリア、わたし、このまま、リュミエール様のお屋敷に遊びに行くの。
 よかったらロザリアも一緒にどう?」
無邪気に声をかけてきたアンジェリークに、ロザリアは少し迷った。
誘われたことは嬉しいし、実際、特に予定もない。
けれど、アンジェリークの背後には、当のリュミエールとランディ、マルセル、ゼフェル、ルヴァ、といった面々が並んでいる。
皆、アンジェリークの信奉者たちだ。
もっとも今のところ、ロザリアには特に親しい守護聖はいないのだから、当たり前なのだが…。
とにかく、彼らにしてみればロザリアの存在は邪魔でしかないはずだ。

そう思って、
「わたくしは遠慮…。」
言いかけた時。
「へえ、リュミちゃん家に行くの? じゃあ、私もお邪魔しちゃおっかな。」
どこから現れたのか、オリヴィエの声。
しかも、背後からがっちりとロザリアの肩を抱いている。
なんとなく逃げられない雰囲気を感じて、ロザリアはリュミエールの屋敷に行くことになってしまった。



リュミエールの屋敷は水の守護聖の名の通り、澄んだ水と空気にあふれていた。
庭の木々は生き生きと緑の葉を茂らせ、大きな噴水には常に虹がかかっている。
風がそよぐと辺りに散る水しぶきが涼しげで、宝石を撒いたようにきらめく。
繊細かつ優美な彫刻や造形物の数々。 美しく咲き乱れる色とりどりの花。
ロザリアは特に美しく響く水琴の音に聞きほれていた。

「お茶をどうぞ!」
アンジェリークがにっこりと差し出してくれたお茶を、オリヴィエは「ありがと。」と受け取った。
リュミエールのとっておきのハーブティ。
立ち上る豊かな芳香を吸い込んだオリヴィエは、ふっと笑みをこぼした。
たしかコレはものすごく辺境のごく狭い場所でしか採れない、超貴重種のハーブだったはずだ。
「私には絶対譲ってくれなかったのにねぇ。」
どうやらリュミエールは、かなりアンジェリークのことを気に入っているらしい。

女王試験も数か月を過ぎ、守護聖達の間でも、二人の女王候補への評価が別れつつあるのは事実だ。
オリヴィエはどちらにも興味がなかったが…。
輪に囲まれて、楽しそうに笑うアンジェリーク。
一方、一人で噴水の前でぼーっとしているロザリア。
どちらが好かれるか、なんてことはオリヴィエでなくてもすぐにわかるだろう。
所詮、守護聖といえども、人間で、男なのだ。

「何見てんの?」
カップを両手に、オリヴィエはロザリアに近づいた。
驚いたように目を丸くして振り返ったロザリアに、オリヴィエは片方のカップを差し出す。
「リュミちゃん特製ハーブティだよ。 美容と健康にイイらしいから、あんたも飲んでみて。」
「ありがとうございます。」
ロザリアはカップを礼儀正しく受け取ると、そのままハーブティを口に含んだ。
洗練された所作が美しいが、ロザリアはどこか戸惑っているように、オリヴィエをチラチラと見ている。

「あの、オリヴィエ様は、あちらでお話されませんの?」
「ん? あ〜、まあ、あっちはあっちで楽しそうにやってるじゃない?」
「そうですけれど…。」
「それとも、私がココにいたら迷惑?」
からかうように聞くと、ロザリアは小首をかしげた。
「迷惑だなんて…。 でも、わたくしはとくに面白いことも言えませんし、退屈ではないかと。」
「面白いことって…。別に私は漫才聴きたいわけじゃないんだからさ。
 あんたに面白いことをしてもらおうなんて思っちゃいないよ。
 あんたこそ、一人じゃつまんないでしょ?」
「別にそんなことは…。」

言いながら、ロザリアはちらっとアンジェリークの方を見た。
一人でいることをつまらないとは思っていない。
けれど、他人から見ればつまらなそうに見える、ということもわかる。
年少組とアンジェリークの騒ぐ声、お子様たちをたしなめるルヴァやそんなルヴァを慰めるリュミエール。
楽しげな笑い声も聞こえてくる。
こんな状況にも慣れているけれど。

ロザリアの目に一瞬浮かんだ微妙な色に、オリヴィエの中のなにかが騒いだ。
たとえば、今まで失くしていたピースがぴたりと合わさって、止まっていた時計が動き出すような。
不思議で、どこかくすぐったいような感覚に、知らずに頬が緩む。
「ふふ。悪くないね。」
オリヴィエは風に揺れる前髪をかき上げると、物思いに沈むロザリアの横顔を見つめていた。



翌朝。
ロザリアは図書館へ行こうと支度を始めた。
調べたいことも溜まっているし、借りたい本もある。
せっかく一日自由に過ごせる貴重な日の曜日なのだから、ゆっくり勉強したかったのだ。
常春の飛空都市は外にいるだけで気持ちがいいから、午後は庭先で借りてきた本を読んでもいい。
一日のスケジュールをぼんやりと頭の中で考えていると、寮から出たところで、ばったりとオリヴィエに出くわした。
日の曜日は女王候補と守護聖が親睦を深める日でもあるのだから、彼らがココを訪れるのは別に当たり前のことだ。

「ごきげんよう。」
花束を手にしたオリヴィエにロザリアは笑いかけた。
「一足遅かったようですわね。 アンジェリークならランディ様と出かけていきましたわ。」
「ふうん。 そうなんだ。 まあ、私にはナイスタイミングってコトだけど、お子様たちも頑張るねぇ。」
「ええ。 オリヴィエ様も頑張ったほうがよろしいと思いますわ。」
アンジェリークは可愛いのだから、ライバルはいっぱいだ。
ただでさえオリヴィエは少し出遅れている気がする。 

昨日、リュミエールの屋敷で話をしたことで、ロザリアはオリヴィエにほんの少し親しみを感じていた。
他の守護聖達とは全くといっていいほど、プライベートな会話はしていない。
誰もロザリアには聞いてこないし、ロザリアも聞こうとしなかったからだ。
それもいつものこと。
スモルニイでも、遠巻きにひそひそと噂話をされることはあっても、その輪の中には入れてもらえなかった。
才色兼備で非の打ちどころのないお嬢様は、常に高潔で、噂話のような低俗なものには興味がない、と思われていたから。
噂される側であって、噂をする側ではない。
そういう見えない線引きを、常に感じていた。
昨日だって、もしもオリヴィエがいなければ、楽しそうなアンジェリーク達を見ているだけで終わっていただろう。
だからオリヴィエが話かけてきてくれたことに、ロザリアは素直に感謝していた。
たとえそれが、『ぽつんとしている可哀想な子を放っておけない』という中途半端な優しさだったとしても。

ふと、ロザリアの目はオリヴィエの持つ花束に吸い寄せられた。
ピンクやオレンジのガーベラをメインにした可愛らしいブーケ。
アンジェリークに似合いそうなチョイスは、さすが美しさを司る守護聖だけのことはある。
「で、あんたは今日、予定があるの?」
「わたくしですか? 図書館に行くつもりですけれど。」
「図書館?! こんなにいい天気なのに?!」
「いいお天気だからですわ。 気持ちがいいほうが頭も働きますでしょう?」
「…変わった意見だね。 それ、賛成するのルヴァぐらいじゃない?」
「知恵を司るルヴァ様も同じでしたら、光栄ですわ。」

軽く会釈をして、そのままするりと横を抜けようとしたロザリアの目の前に、オリヴィエが花束を差し出した。
「要するに予定はないってことだよね。 じゃあ、今日は私とデートしようよ。 付きあってくれるでしょ?」
ぐいぐいと、ブーケを押し付けてくるオリヴィエ。
意外と押しの強い彼に、ロザリアはなんとなく流れでブーケを受け取ってしまっていた。
アンジェリークのために用意された花であっても、花に罪はない。
このまま捨てられてしまうくらいなら、ロザリアの部屋にでも飾られたほうが幸せだろう。
「ありがとうございます。 遠慮なく頂きますわ。」
ブーケを抱えニッコリと笑ったロザリアに、オリヴィエもにっこりと笑みを返す。
ばあやに花を活けておくように頼んで、オリヴィエとロザリアは庭園へと向かった。


人々の視線が痛い。
ロザリアは初めてのデートに、いたたまれない気持ちを抱えて、オリヴィエの少し後ろを歩いていた。
飛空都市に来てからはもちろん、生家でも異性と二人で歩いたことなどない。
それが…こんなに目立つオリヴィエと一緒だなんて。
「どうかした?」
楽しそうに話しかけてくるオリヴィエは、よく見れば私服姿だった。
いつもの女性的なスタイルではないが、上質なシルクのシャツと細身のシルバーグレーのパンツは地味ではない。
派手な色目のストールをさりげなく巻きつけているのも、とてもファッショナブルだ。
ロザリアはオリヴィエの誘いに乗ったことを、すでに後悔していた。
図書館に行くつもりだったロザリアの服は、実にありきたりな白いワンピースで、特にオシャレでもない。
並んでいるのが恥ずかしいほど、不釣合いだ。

「ね、あそこに座らない?」
オリヴィエは木陰のベンチを指さした。
傍らのロザリアは候補寮を出てから、ずっと黙ったまま、つまらなそうにしている。
突然の誘いに戸惑っているのかもしれないし、試験中のハードな毎日で疲れている彼女を歩き回らせるのも気の毒だ。
とりあえずおしゃべりをして、ロザリアの気持ちを和らげようと考えた。
「そうですわね。 …あそこなら人目に付きにくそうですし。」
ロザリアはさっさとオリヴィエを追い越して、ベンチに座っている。
座る前にきちんとハンカチを敷く彼女をオリヴィエは微笑ましいと思った。

「アンジェリークとは上手くいってる?」
開口一番、そう尋ねたオリヴィエに、ロザリアは内心、ほんの少しだけ寂しさを感じていた。
やはり彼もアンジェリークのことを知りたいのだ。
さすがランディやマルセルよりも人生経験豊富なだけはある。
誘いに来たアンジェリークが不在で作戦を変えたのだろう。
まずはロザリアで情報収集とは。

「そうですわね。 アンジェリークはとても可愛いですわ。」
「へえ。 じゃあ、仲良くやってるんだ。」
「ええ。 なんだか放っておけないような気になってしまって。
 つい世話を焼いてしまうんですのよ。 これもあの子の魅力なのかもしれませんわ。
 なんだか嫌いになれませんの。」
「そうかもね。 あぶなかっしくて目が離せないとこあるよね。」
オリヴィエはきゃはは、と楽しそうに笑っている。

「昨日も定期審査の前、アンジェリークを迎えに行ったら…。」
「へえ。 そんなことしてるんだ。 わざわざお迎え?」
驚くオリヴィエに
「…放っておいたら、あの子、いつまでも寝ているんですもの。 遅刻だなんて女王候補の不名誉になりますわ。」
ロザリアはさも仕方がないという風に答える。
「あんたらしいよ。 で、迎えに行ったらどうなったの?」
「それが…。」

オリヴィエの絶妙な合いの手や話を引き出す話術で、ロザリアはすっかり饒舌になっていた。
主にアンジェリークとのこと。そして育成やフェリシアのこと。
オリヴィエの思惑はどうであっても、おしゃべりが楽しいと思ってしまった。

「あ、そういえば、さっきの花なんだけどね。 薔薇じゃなくてガーベラにしたのはさ…。」
言いかけたオリヴィエを遮るように、
「あ!ロザリア! オリヴィエ様とデートなの?」
木のフェンスを乗り越えるようにして、ひょこっとアンジェリークが現れた。
外から見つかりにくいという事は、こちらからも見つけにくいという事。
本当に声をかけられるまで、ロザリアもオリヴィエも、アンジェリークに気が付いていなかった。
アンジェリークは女の子らしい可愛い服を着て、オリヴィエとロザリアを交互に眺めている。
楽しいことを見つけた子供のようにキラキラした緑の瞳は、とても眩しくて魅力的だ。

「デート、かな? ねぇ、ロザリア?」
思わせぶりなオリヴィエの口調に、ロザリアは勢いよく席を立った。
デート、と、はっきり言えないオリヴィエの気持ちはよくわかる。
気になる少女の前で他の女の子とデートをしているなんて、思われたくないに決まっている。

「違いますわ。 たまたまそこで会っただけですの。
 アンジェは? ランディ様と一緒だったのではないの?」
「うん! あっちで子供たちと一緒にフリスビーしてるの。
 でも、ちょっと喉が渇いて、あそこの売店に行こうとしたら、ロザリアを見つけたのよ。」
アンジェリークの視線につられるように、庭園の広場に目を向けると、確かにランディが子供たちや犬と一緒に遊んでいるのが見える。
ロザリアは前に流れていた巻き髪を、上品に背中へとはらった。
同時に、ごくりとつばを飲み込むロザリアに、オリヴィエは首をかしげる。
ロザリアは何をする気なのだろう。 …あまり良いこととは思えない。

案の定、ロザリアが言いだしたのは、とても意外な事だった。
「わたくしもフリスビーをしてみたいですわ。 あんたは少しここで休んでなさいよ。」
「え!ロザリアもフリスビーするの? じゃあ、わたしも一緒に!」
「あんたはここにいなさい。 ちょっと練習したいから、少ししてから来なさい。」
「え〜。」
「よろしくて? 30分は来ないで頂戴。」

すたすたとロザリアは広場の方へ歩いていってしまう。
挨拶すらなしのロザリアに、オリヴィエが肩をすくめていると、したり顔のアンジェリークと目が合った。
「ふーん、オリヴィエ様、結構残念そうですね。」
「ん? わかる?」
ぱちんとウインクを返すと、アンジェリークはくすくすと笑う。
「わかりますよぉ。 だって、あちらばかり見ていらっしゃるじゃないですか。」
たしかに…ロザリアが気になって仕方がない。

ロザリアがランディに声をかけ、それから始まったフリスビー…というには、あまりにぎこちない動き。
そもそもロザリアの服も靴も運動には不向きだ。
けれど、ロザリアはムキになったようにフリスビーを追いかけている。
ランディも子供たちも犬も、一緒になって駆け回って。
初めは堅苦しい雰囲気だったのが、次第に大きな声がオリヴィエのところまで聞こえてくるようになる。

「あんなふうに笑うんだね。」
こぼれそうなほど大きな口を開けて笑うロザリアはオリヴィエにとっては新鮮だった。
人形のようにすまして笑うロザリアしか見たことがなかったから。
「え、ロザリアは笑う時は笑うし、怒る時もすごいですよ。
 めちゃくちゃコワイです。」
「そうなんだ。」
目を細めたオリヴィエにアンジェリークが立ち上がる。

「そろそろわたしも遊んでこよっと! オリヴィエ様はどうしますか?」
「私は、ここで見てるよ。 ロザリアに、疲れたら戻ってくるように言っておいて。」
「はい! …頑張ってくださいね。」
妙な具合で励まされて、オリヴィエはひらひらと手を振った。

アンジェリークが広場へと走り寄って、ロザリアに耳打ちしている。
それに反応したのか、顔を赤くして、怒っているロザリアの姿。
一体、アンジェリークが何を言ったのか、気になるけれど。
一層ヒートアップした、フリスビーらしきゲームが再開して、賑やかな笑い声が聞こえ始めた。
しばらくして、息を切らせて戻ってきたロザリアは、なぜかとてもそっけなくて…あとで、アンジェリークを問い詰めなくては、とオリヴィエは誓っていた。


その夜。
「痛い…。」
走ったのなんて本当に久しぶりだった。
ロザリアはバラの香りのバスタブに浸かりながら、ふくらはぎや腿をマッサージしていた。
筋肉が疲労でパンパンに硬くなっているのがわかる。
このままでは明日の筋肉痛は免れないだろう。
でも、あの時はああするのがよかったのだ。 …ああするしかなかった。

思いがけずアンジェリークに会って、オリヴィエは困った様子だった。
ロザリアとのことを誤解されても気の毒だし、きっとアンジェリークと二人きりにもなりたかっただろう。
あの気配りが、せめて花束のお礼になっていればいいのだけれど。
「あ。」
そういえば、オリヴィエは花のことを何か言いかけていた気がする。
オリヴィエはとてもいい人のようだから、また今度、アンジェリークの好きな花を教えてあげよう。
今度があれば。


←back to top