PARADISE

心地良い波の音。
キラキラと光る眩しい水面。
吹き抜ける爽やかな風。
南の島特有の開放的な雰囲気は、日頃の疲れを吹き飛ばしてくれるような気がする。

パラソルの下で、広めのデッキチェアに横たわり、オリヴィエは目を閉じて波の音を聞いていた。
生まれも育ちも海とはまるで縁がなかったのに、なぜ波の音は、こうまで心を穏やかにさせるのだろう。
ジリジリと熱い日差しはパラソルの影でも、じんわりと首筋に汗が光る。
けれど、その汗も風がすぐに乾かしてくれる程度で不快ではなかった。

「楽園だねえ。」
ぽつりと呟くと、それに答えるかのように葉擦れの音がする。
普段の聖地では考えられないような穏やかな空気の中、オリヴィエはゆったりと休暇を楽しんでいた。

すると、
「泳ぎませんの?」
愛しい彼女の声がして、オリヴィエは目を開いた。

たた様より バースデイプレゼント

青空に溶け込むような青紫の髪が視界の隅に、さあっと風を奏でるように流れていく。
透き通るほど白い肌に桜色の頬。 何よりも印象的な青い瞳。
いつもよりも幼い表情に見えるのはポニーテールのせいだろうか。
クリッとした瞳でオリヴィエを見つめる様は、子猫のように無邪気で、年相応に可愛らしい。
きっと彼女もこの思わぬバカンスに浮かれているのだろう。
ウキウキした様子なのが、声だけでも伝わってくる。

「ん? そうだねえ。」
軽く上半身を起こしたオリヴィエは、ロザリアを一瞥して固まった。
チェアに寝そべるオリヴィエを見下ろしているロザリアは水着を着ている。
それ自体は海なのだから別におかしくはない。
だがその水着のデザインが…あまりにも刺激的なのだ。

とにかく布の面積が少ない。
腰に巻いたパレオのおかげで、下半身こそ覆い隠されているが、豊満な胸はほぼ丸見えだ。
紐程度の幅しかないホルターネックのブラは、かろうじて頂を隠してはいるものの、布の隆起でそれが在る事がわかってしまうほど小さい。
おまけに本人はまるで気が付いていないようだが…ブラの布の端から、わずかに薄桃の部分が覗いていた。
おそらく水着のサイズが合っていないのだろう。
無理に押し込んでいるせいで、かえってはみ出してしまっている感じが何とも言えず…危険だ。
裸よりもかえってエロティックに見えてしまう。
ロザリアにこんなに水着を着せることのできる人物をオリヴィエは一人しか知らない。
(陛下でしょ! ナニしてくれてんの!?)
オリヴィエは心の叫びをぐっと飲み込み、固まっていた顔を笑みに変えた。

「その水着、どうしたの?」
ロザリアは頬をバラ色に染め、小さく俯いた。
「あの、アンジェが…。 せっかく二人きりなんだから、これくらいのほうがオリヴィエも喜ぶって…。
 ヘン、かしら?」

やっぱり。
予想通りの女王の差し金にオリヴィエはため息をついた。
大方、「二人きりなんだから、これくらいじゃないと。」とかなんとかうまいこと言いくるめられて、ムリヤリこの水着を持たされたのだろう。
執務ではあんなに頭が回るのに、なぜ、こういうことにはこんなに疎いのか。
半ばあきれながらも、そんなロザリアが可愛くてたまらない。
女王がつい、からかいたくなってしまう気持ちもよーくわかるのだ。

「変じゃないよ。 …嬉しいけどね。」
言いながら、オリヴィエはロザリアの腕を引き寄せた。
「きゃ!」
急に引っ張られて、バランスを崩したロザリアは、よろめいてオリヴィエの上に倒れ込んだ。
勢いで、オリヴィエの腿の上にちょこんと横座りしてしまう。
ロザリアはあわてて立ち上がろうとした。

「ダメ。」
くすっと笑ったオリヴィエはグッとロザリアを抱きよせると、素早く唇を奪った。
驚いて逃げようとするロザリアの頭を押さえ、口づけをだんだん深いものへと変えていく。
ちゅっと音を立てて、唇を吸い上げ、角度を変えて、何度も重ね合わせて。
始めこそ、抵抗していたロザリアも、オリヴィエの舌先が唇をなぞりはじめる頃には、すっかりオリヴィエの口づけに溶かされていた。

「ん…。」
呼吸に合わせて開いた唇の隙間から、舌を滑り込ませる。
逃げようとするロザリアの舌を絡め取り、吸い上げては、歯の裏までなぞっていく。
優しい動きを繰り返していると、されるがままだったロザリアの舌が、そろそろと動き始めた。
誘うようにオリヴィエが舌を引くと、そっとロザリアの舌がオリヴィエの口内に忍び込んでくる。
すかさず、それを絡み取り、今度は強引なほど荒々しく蹂躙した。
波の音よりもはっきりと聞こえる、淫靡な水音と、荒々しい呼吸音。
長いキスに溶かされて、呼吸すらままならない。

ふと、唇が離れて、ロザリアはオリヴィエの胸に倒れ込んだ。
息があがったまま、恨めし気にオリヴィエを睨み付けても、オリヴィエは楽しそうに笑みを浮かべている。
「こんなところで…恥ずかしいじゃありませんの!」
明るい太陽の下。
キスをしている間は夢中だったけれど、気が付けばかなり恥ずかしい。

「なーに、今更? あんただって知ってるでしょ?
 このリゾート島の半分は聖地専用エリアで、一般の観光客はこっちには入ってこられないんだよ。
 崖や森に囲まれてるから、迷い込むようなこともないし。
 ようするに、私達がここでなにしてても、だーれにもわからないってコト。
 ・・・ね? こっち向いて。」

オリヴィエはロザリアの片足を持ち上げると、ロザリアが驚いている間にさっと自分の身体をその足の間に滑り込ませた。
「ちょっと、オリヴィエ!」
オリヴィエの身体をまたぐように腿の上に座らされたロザリアは、さっきよりも顔を赤くして、強く睨みつけた。
足を開かされて、オリヴィエに馬乗りになっているような状況は恥ずかしすぎる。
そして、間近に迫るオリヴィエの端正な顔。
からかうように細められた上目づかいの瞳は、いつもよりも化粧っ気がない分だけ、男っぽい色気にあふれている。
本当にキレイで、見惚れてしまうほどだ。
何度もベッドを共にした関係なのに、胸がドキドキして苦しくなってきた。

「おろしてくださいませ・・・。」
俯いて消え入りそうな声で訴えても、もちろん、オリヴィエが離すはずはない。
むしろ、そんなロザリアは、オリヴィエにとって『可愛い』以外の何物でもなくて。
もっと苛めたくなってしまう。


「私を誘ったくせに、いまさらそんなこと言うの?」
オリヴィエは指を伸ばすと、ロザリアの水着からこぼれている、頂の薄紅を丸くなぞった。
その感触に、
「え? …嘘…。」
慌てて、ロザリアが自分の胸元を見ると、色づいた部分がわずかに水着からはみ出している。
そこをゆっくりと撫でるオリヴィエの指の動きが艶めかしくて、ドキリとすると同時に、顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。

アンジェリークに「たまにはロザリアから誘惑してみたら?」と、この水着を渡された時、ロザリアはたしかにそのつもりだった。
恋人になってから初めての旅行。
いつも子供扱いばかりするオリヴィエの前で大胆にふるまって、驚かせてみたい。
けれど、いざ、彼の前に出ようとしたら、恥ずかしくて。
パレオで隠そうと思って試行錯誤を繰り返してみたものの、小さめのパレオでは下半身を隠すのがやっとだったのだ。

「こんなふうに見せつけて、わざとだよね?」
「や…。 そんなつもりじゃ…。」
オリヴィエはゆっくりと弧を描いて、何度もその部分に指を滑らせる。
すると、頂には触れていないのに、だんだんとロザリアの胸の蕾が硬く立ち上がり、薄い水着の布を押し上げてきた。
それでも、まだ周囲だけを焦らすように撫で続けると、
「ん。」
堪え切れない吐息がロザリアの口からこぼれ、もっともっと、と、ねだるように腰がゆらめく。

「ふふ、触ってほしいの?」
ロザリアは真っ赤になった顔を両手で覆い隠すと、子供のようにイヤイヤと首を振った。
けれど、それは拒絶ではなく、陥落の合図で。
オリヴィエはピンと立ち上がった蕾を布地ごと、きゅっと摘み上げた。

「やっ・・・!」
ロザリアの背が反ると、オリヴィエの眼前に豊かなふくらみが付きだされる。
オリヴィエはふくらみを掌で押し上げるように揉みしだき、親指と中指で蕾を摘まみながら、人差し指の爪先で優しくひっかいた。
摘まんでは押しつぶし、こりこりと指の腹で擦って。
布地越しのもどかしい刺激に、ロザリアの腰が揺れて、腿にキュッと力が入る。
オリヴィエは頂を覆っていたわずかな布を指先で除けると、つんと主張している蕾を口に含んだ。
わざと唾液を多く絡ませて音を立て、舌先で転がせば、
「ああん!」
抑えきれない嬌声がロザリアの口からこぼれ始める。


オリヴィエは掌をゆっくりと下へと滑らせると、パレオの結び目を解いた。
はらりとデッキチェアに広がるパレオ。
パレオの下に隠されていた水着のショーツ部分はオリヴィエの予想通り、きわどい。
細い左右のひもで結ぶだけで、隠れている部分もギリギリだ。
すっと布地の上に指を滑らせ、花芯を探ると、ロザリアの身体が震える。
そのまま、布地を横に避け、割れ目に指を這わせた。

「もうこんなになってるよ。」
濡れて光る指先を見せられて、ロザリアは首を横に振った。
胸を弄られ始めてからずっと、下腹部が疼いて、奥から蜜があふれてしまっていたのだ。
わかっていたけれど、改めて見せつけられると恥ずかしくてたまらない。

くすっと笑みを浮かべたオリヴィエの指はさらに大胆になってロザリアを暴いていく。
あふれた蜜を指に塗り、花芯に広げるように擦りつけた。
繰り返し擦られ、爪先で弾かれて。
ロザリアの身体は勝手にビクビクと震えてしまう。
姿勢のせいなのか、ベッドの上での時よりも、はっきり、くちゅくちゅという水音が聞こえてくる。
きゅっと指で花芯をつぶされて、全身に電流のような快感が走り抜けると、つま先がぎゅっと丸まって、足に力が入らなくなった。
「ん、ん。」
誰もいないビーチとはいえ、明るい日差しが降り注ぐ中、ロザリアは必死に声を殺している。
目を潤ませて我慢している様子は可愛いすぎて、つい意地悪したくなってしまう。
悪い癖だと思いつつ、オリヴィエは潤んだ秘所につぷりと指を埋めた。

「きゃ! あ、ん・・・・。」
指を動かすと、ロザリアの腰が揺れ、オリヴィエの肩につかまっている手にぎゅっと力が入る。
親指で花芯を弾きながら、感じる個所を探り当てると、ロザリアはもう声を抑えられなくなったようだ。
「んん、あ、ん。 や・・・。」
それでも我慢しようと唇を噛むロザリアの後頭部を手繰り寄せ、キスで声を奪った。
口中を舌で犯し、ナカで指を動かすたびに、どんどん蜜があふれてきて、下になっているオリヴィエの腿にまで伝わってくる。
あと少しでイク、というところで、オリヴィエは指を抜いた。

潤んだ瞳で見つめてくるロザリアの腰を両手で持ち上げ、すでに硬く立ち上がっていた自身を入り口にあてがう。
オリヴィエが手を離すと、
「やああっ…。」
重力に従って落ちるロザリアの中心を、オリヴィエのモノが侵入していく。
一気に深いところまで貫かれたロザリアは、激しい快感に背を反らせて、かるく達してしまった。
途端にぎゅっとモノを締め上げられて、オリヴィエも眉を寄せる。
ただでさえ、彼女のナカはキツイのに、こんなに強い締め上げを加えられては、すぐに吐きだしてしまいそうだ。
ヒクヒクと痙攣するように締められ、誘うように蠢いて。
じっと彼女の身体を抱いて挿れているだけなのに、そこは絶えずオリヴィエを刺激してくる。
たまらずに、彼女の腰を掴むと、下から激しく打ち付けた。

ポニーテールの髪が律動に合わせて揺れる。
「あ、もう、や…。」
ぐちゅぐちゅと結合部から零れる激しい水音。
強すぎる快感にロザリアは目を閉じ、されるがまま、オリヴィエに身体を預けるしかない。
オリヴィエが腰を打ち付けるたびに、ロザリアのナカはギュッと締まり、奥へ奥へと誘いこんでくる。
余裕なんてまるでなくて、ひたすら貪るように彼女を突き上げた。
お互いの身体に汗がにじみ、ロザリアの胸の谷間を雫が伝い流れていく。
突き上げながら、汗をなめとると、わずかな潮気があった。

オリヴィエが動きを速め最奥を突くと、ひときわ大きく背をのけぞらせて、ロザリアが声をあげる。
「ああっ! ダメ…!」
言葉と同時にのぼりつめたロザリアのナカがぎゅっと震える。
奥がさらにきつくなり、オリヴィエの先端をしごくように蠢いた。
搾り取られる感覚に、オリヴィエも我慢できず熱を吐き出す。
震えながらオリヴィエの胸に倒れ込んできたロザリアの身体を抱きとめると、そっとその背を撫でた。


しばらく、そうして抱きあっていると、聞こえてくる波のリズムと合わさるように、鼓動もリズムを取り戻していく。
オリヴィエはロザリアの水着を元通りに直そうと背中を撫でていた手を下へと動かした。
内腿に指が触れると、びくりとロザリアは身体を震わせる。
「…もう!」
そして、急に顔をあげると、青い瞳でオリヴィエを睨み付けた。
「こ、こんなところで、あなたって人は…!」
さっきまでのアレコレが思いだされてくると、ロザリアの顔は熱くなって、言葉も出ない。
いくら人目がないとはいえ、屋外で。
昼間から。
けれどロザリアにとって、一番恥ずかしいのは、このシチュエーションではなく、自分自身の気持ちだった。

時々、とくにベッドの上でのオリヴィエは意地悪になることが多いけれど、ロザリアが本当に嫌だと思う事は絶対にしない。
さっきだって、もしロザリアが本気で拒絶していたら、オリヴィエはきっとやめてくれていたはずだ。
それがロザリア自身もよくわかっているから…恥ずかしくてたまらない。
嫌じゃなかったのだ。
ここがどこかも忘れてしまうほど。
時間なんて気にならなくなるほど。
オリヴィエに求められること、愛されることは、いつだって、ロザリアをたとえようもないほどの幸福感で満たしてくれる。

真っ赤になって、再びオリヴィエの胸に額をつけたロザリアの背を、オリヴィエは優しく撫でる。
それはそれは愛おしいものを確かめるような手で。
「ね、明日はショッピングに行こうよ。」
ロザリアを抱きしめたまま、オリヴィエは彼女の耳にささやきかけた。
「明日は向こう側のビーチで遊ぶ予定だったのでは?」
不思議そうに尋ね返すロザリアにオリヴィエはニヤリと微笑んだ。

「その水着で向こうのビーチに行ったら大変なことになるけど、イイの?」
「大変なこと? …きょ、今日みたいな失態はおかしませんわ!」
ロザリアなりに今日のことを反省しているのは伝わってくる。
けれど、その程度の反省で、許すつもりなどオリヴィエには毛頭なかった。
自分の前以外では二度と着てほしくない。 …着せるつもりもない。

「だって、その水着見てたら、さっきの事思い出して、またしたくなっちゃうかも。」
「え?」
「でも、あっちのビーチだと、やれそうなのは、どこかの岩場とか木蔭くらいしかないし、今度こそ誰かに見られちゃうかもねえ。
 まあ、そういうのも燃えるっていうんなら、私も付きあうけどさ。」
「な、なんですって?!」
真っ赤な顔でうろたえるロザリアにオリヴィエは内心笑いだしたい気持ちを必死にこらえた。
見せろと言われても見せるはずがないのに。
快感に震えるロザリアを見るのは、未来永劫、自分だけしか許さない。

黙り込んだロザリアに、
「じゃあ、明日の予定は買い物で決まりだね。」
言いながら、オリヴィエは彼女の膝裏に手を入れると、勢いよく抱き上げた。
お姫様抱っこで、パラソルの下から飛び出すと、南の島特有の眩しい日差しが身体を焼く。
お互いにあまり陽射しに強い肌じゃない事もわかっているが、今だけは特別だ。
オリヴィエはそのまま、波打ち際へと走り出した。

「きゃ!!!」
ざぶざぶと波を掻き分け、二人で海へ身体を沈める。
ほどよく冷える水の温度が火照った身体に心地よい。
「オリヴィエ! なになさるの?!」
「泳ぎたい、って言ったのはあんたでしょ?」
「わ、わたくしは、泳ぎませんの?って聞いただけですわ!」
「だから、その答えがコレ。」
オリヴィエが悪戯っぽくウインクすると、ロザリアの顔に笑みが広がる。
守護聖でも補佐官でもなく、ただ当たり前の恋人同士のようにふざけ合って。
たゆたう波の狭間で、自然と唇が重なった。

たしかにこの地は楽園だ。
眩しい日差しと爽やかな風。 美しい景色と美味しい食べ物もある。
けれど、それ以上になによりも。
「オリヴィエ! こっちに綺麗な貝がありますわ。」
オリヴィエだけを見つめて、笑ってくれる彼女がいる。
きっとそれこそが最高の楽園の条件なのだと、オリヴィエは感じていた。


Fin
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