World is ours

あれはオリヴィエが守護聖になってすぐのこと。
めんどくさい執務を秘書官とやらにくどくどと説明され、いい加減うんざりして部屋を抜け出した時だ。
なりたくもなかった守護聖なんて役目を押し付けられ、やりたくもない宇宙の平和とやらを維持するために働かされる。
とんだ貧乏くじを引いた。
当時はただそれだけしか思えなくて、とにかくなるべく面倒なことは避けていこうとだけ決めていたのだ。

誰にも見つからないように、窓から出て、聖殿の壁際を忍び足で進み、適当なところに座り込む。
仰々しい衣装がどうにも潜みにくいけれど、ちょうど大きな木があって、外からは見えにくいだろう。
オリヴィエは長く息を吐き出すと、壁にもたれたまま、天を仰いだ。
どこまでも青い空はまるで仮初めのようで、おきれいな守護聖たちもなんとなく現実感がなくて。
自分だけが場違いなような、そんな気がして、なんだかいたたまれない。
ぼんやり空を眺めていると、壁の向こうから、人の話し声がする。
耳をそばだてたオリヴィエは、この場所がちょうど補佐官室の窓の下だということに気が付いた。


そっと身体を伸ばして、窓の中を覗き込むと、そこには予想通り補佐官のディアともう一人。
金色の髪を軽く一つにまとめた大柄な男、緑の守護聖カティスがいた。
「もう、カティス、ダメだと言っていますでしょう?」
いつも穏やかなディアが少し目を吊り上げ、怒ったような声をあげている。
それもそのはず。
カティスはディアを背中から抱きしめ、耳たぶを食みながら何かを囁いているのだ。
片手でディアの体を誘うような手つきで撫でているところまで、はっきりと見えた。
これはかなり親密な、いわゆるそういう関係なのだろう。

カティスが強引にディアの顎に手をかけ、唇を奪っている。
音までは聞えないものの、生々しいキスシーン。
2人の舌が絡み合い、こぼれた唾液がディアの口角を伝って光っている。
長いキスで、すっかりディアの瞳は潤み、カティスの手が、ドレスのファスナーを下しても、もう抵抗する気はないようだ。
するりとドレスが肩をすべり、胸のふくらみがあらわになりかけたところで、オリヴィエは覗くのをやめて、窓の下に座り込んだ。
かなり脱がすことに手馴れたカティスの様子からして、2人は何度も行為を重ねているのだろう。
成人まで下界、それもそこそこに荒んだ場所で暮らしていたオリヴィエは、男女の営みについて、それなりに知識も経験もある。
今更、覗いて興奮するほどウブでもない。

「いけませんわ」
「そうかな?君の身体は嫌がっていないようだぞ。ほら、こんなにすごい」
「や、そんな」
カティスの愛撫にディアはされるがままになっているらしい。
鼻にかかった甘い声や、カティスの楽しむように煽る声がぼそぼそと聞えてくる。
やがて
「ああ、んあ…」
押し殺した喘ぎ声が窓越しにうっすら聞こえてきて、さすがのオリヴィエも驚いた。
よくよく耳を澄ませば、ぱんぱんと肌のぶつかる音までしている。
まさかこんな、補佐官室という場所で、本番までおっぱじめるとは、完全なる予想外。

聖地という場所は、完全に無垢で、清浄な世界だと思い込んでいた。
微笑みを絶やさない柔和で優美な補佐官と、兄貴風の強い緑の守護聖はビジュアル的にお似合いだし、カップルだと言われてもプラトニックなイメージしか湧かないけれど。
「あん、や」
聞えてくる喘ぎ声は、とても生臭く、人間味がある。
ここも案外、普通の人間が普通に泣いたり笑ったりして、暮らしているのかもしれない。
オリヴィエは、初めて、この聖地でもやっていけそうな気になっていた。



あれから数年。
女王試験が行われ、聖地の人間も様変わりした。
オリヴィエも中堅と言われる立場になっている。
慣れと言われればそれまでだが、それなりに執務にもやりがいはあるし、充実した毎日だ。

「あの、オリヴィエ?」
「ん?」
さらに腕の中には愛しい女性がいて、その柔らかさを堪能している今、控えめに言っても幸せにちがいない。
「わたくし、書類を届けに来ただけなんですけれど」
「うん、さっきもらったやつでしょ。明日までだよね。わかってるよ」
「でしたら、そろそろおお放しくださいませんこと?」
「わざわざ書類一枚を持ってきてくれたってことは、あんたも私に会いたかったってことだと思ったんだけど」
「え?!」
明らかにロザリアは狼狽している。
図星を刺されて照れているのか、ほんのり耳が赤く染まっていた。

「まあまあ、どうせもうすぐお茶の時間だし、一緒に休憩しようよ。いいでしょ?」
「…それでしたら、まあ…」
ロザリアが渋々ながらも了承したのを見て、オリヴィエは腕に力を込めた。
鼻に触れる彼女の髪から、バラの香りが漂ってくる。
さらに薔薇の中に隠れている香りは、まるでオリヴィエを誘うように甘い。
もっともこれは、オリヴィエ自身の欲望がそう感じさせているだけかもしれないけれど。


オリヴィエは彼女の顎を軽く持ち上げると、ちゅっと音を立てて唇を重ねた。
ついばむように優しく、なんども繰り返して。
はじめこそ戸惑っていたロザリアも、それに合わせて、角度を少し変えたり、自分から寄せてきたりと戯れを楽しんでいるようだ。
長く重ね合わせてから、オリヴィエは彼女の唇の間にするりと舌を忍ばせた。
ためらいがちにも、ロザリアはオリヴィエの舌を受け入れ、絡み合う深いキスが始まる。
くちゅくちゅとお互いの唾液が行き交い、甘い吐息がこぼれてくる。
今までの付き合いでわかったことだが、ロザリアはキスが好きらしい。
舌先で上あごを舐められるのが特に感じるようで、ぞくぞくと身体を震わせるのだ。

「ん…」
オリヴィエはロザリアの口中を存分に犯していく。
つうっと唾液があふれても、オリヴィエはキスをやめない。
ロザリアの頬が次第に薄紅に染まり、しがみつく手に力がこもり始めてくると、オリヴィエは抱きしめていた手の片方で、彼女の腰をまさぐり始めた。

「…!オリヴィエ?!」
卑猥な動きに気が付いたロザリアが、あわてていさめようと手を伸ばすけれど、キスでふさがれた状態では思うようにはいかない。
オリヴィエは器用に、ロザリアの長いドレスをたくし上げると、太腿から臀部へと手を伸ばした。
下着の際、すれすれのところをゆっくりと撫であげると、ロザリアが腰をくねらせる。
やわやわと揉んではさすり、時折、きわどいところまで指を走らせて。
強い拒絶がないことに安堵したオリヴィエは、下着の中に手を入れて、彼女の滑らかな臀部を撫でまわした。
ロザリアはまだ気が付いていないようだが、すでにオリヴィエの下半身は大きく膨らみ始めている。

キスだけじゃ足りない。
触れるだけじゃ足りない。

オリヴィエは舌をからませて、彼女から声を奪うと、ドレスのジッパーに手をかけた。
「…だめ!」
さすがにロザリアが身をよじって抵抗してきたが、オリヴィエはぐっと臀部と足を捕らえて、動きを抑え込んだ。
言っては何だが、ロザリアの補佐官のドレスは、脱がしやすい。
ジッパーを下して、少し布地を引っ張れば、簡単に豊かな胸がオリヴィエの眼前にまろび出てくる。

「や…!」
ロザリアはなんとかオリヴィエの腕から逃れようしたが、すばやくキスを解放したオリヴィエの唇はすでにロザリアの胸の頂きを食んでいて。
唇の間に挟まれ、舌先で転がされた蕾はピンと硬くなっている。
「ふふ、気持ちよくなってきた?」
「だめ…ですわ」
唾液をまとわせて、なおも舌先で転がすと、ロザリアから抑えきれない嬌声がこぼれてくる。
手のひらから溢れる豊かなふくらみを揉みほぐし、臀部を撫でまわす手も休めない。
きゅっと唇で挟んで蕾を強く吸い上げるたびに、ロザリアは大きく背をそらして首を振っている。
態度は拒絶だが、凛としていた青い瞳は潤み、吐息すらも甘く色づいて、快楽に身をゆだねているようだ。
わざと音を立てて、舌先での愛撫を続ければ、ロザリアは膝をこすり合わせ、もじもじと腰をくねらせはじめた。

「どうかした?」
蕾を食みながらオリヴィエが尋ねると、
「な、なんでもありませんわ」
ロザリアは小さな子供のように首を振っている。
くすっと笑みを浮かべたオリヴィエは、右手を臀部から足の付け根へと滑らせた。
「あ」
ロザリアがびくりと体を震わせ、オリヴィエを見つめる。
再びキスで言葉を封じたオリヴィエは、下着の隙間から、ロザリアの秘所へと指を伸ばした。
「んん…!」
抗議するようにオリヴィエの身体を押し返しても、腕と足でがっちりと抑え込まれている状況は変わらない。
それに、オリヴィエの巧みなキスで引き出された官能が、無意識で愛撫を受け入れていた。

くちゅ。
オリヴィエの指が動くと、明らかに粘度の高い水が絡みつく音がする。
「んふ。気持ちよくなってくれてるんだね。…嬉しいよ」
ロザリアは答えないけれど、耳まで真っ赤になって荒い息を吐く顔が彼女の快感を伝えてくれた。
オリヴィエは蜜口に指を浅く沈め、ゆっくりとナカをなぞっていく。
蜜を絡め、花芯をくにくにと捏ねると、ロザリアの身体ががくがくと震えてくる。

「ん、あ」
必死に声を殺しているロザリアの姿は、鮮烈なほどの劣情を誘ってきた。
愛しいはずなのに、苛めて、啼かせたくなるのだ。
花芯を嬲り、キスや胸の頂きを食む愛撫を繰り返すと、ロザリアはもう抵抗する気力を失ったようだ。
とろんとした青い瞳にはしっかりとした欲望の色が宿り、オリヴィエを誘うように腰がくねる。
くちゅくちゅと指が動くたびに出る水音は、さらに粘り気を増してオリヴィエの指を濡らした。

「もう、わたくし…」
息をするのも苦しげに、ロザリアが懇願する。
その美しくも淫らな表情に、オリヴィエは口角をあげる微笑みを浮かべ、
「なに?どうしてほしいの?」
意地悪く指の動きを止めずに花芯をこすり続けていく。
与えられる快感にロザリアの腰は小刻みに揺れ、どっと蜜があふれだした。
このままだと、すぐ絶頂に達してしまうだろう。
「あ、ん、いや…もうお願いですの…」
ロザリアの顔が泣きそうに歪むと、オリヴィエは彼女の身体を抱え上げ、執務机の上に軽く乗せた。


「ねえ、もう我慢できないよ。今すぐ…あんたの中に入りたい」
ロザリアの足の間に身体を押し込んだオリヴィエは、彼女のドレスをたくし上げ、足を大きく開かせると、両腕を首の後ろに回させた。
「しがみついていいから」
こくんとロザリアが頷いたのを合図に、オリヴィエは執務服の隙間から硬く滾った自身を取り出した。
先ほどまでの愛撫で、オリヴィエ自身の切っ先にもうっすらと欲望がにじんでいる。
彼女の下着をとるのももどかしく、腿まで下しただけの状態で、オリヴィエは一気に自身を秘所へと打ち込んだ。

「や、あ…!」
ロザリアのナカがぎゅうっとオリヴィエを締め付ける。
「はあ、あんたのここ、すごく熱くて、とろとろでたまんないよ…」
軽く腰を動かし、彼女のナカを探ると、肉襞がオリヴィエの雄にぴったりと絡みついてくる。
彼女の蜜壺がオリヴィエの形に馴染んできているのだろう。
密着して蠢く蜜壺は、じっとしていても、扱かれているような強烈な快感を連れてくる。
オリヴィエはゆっくりと腰を動かし、ロザリアを責め始めた。
浅く、深く。
入り口付近をこするように。
ぐっと奥へ先端のゴリゴリした部分を押し付けるように。
抽挿を繰り返していると、甘い蜜がますます溢れてきて、出入りするオリヴィエの雄をぬらぬらと卑猥に光らせた。

「あ、ん」
声を殺すことに一生懸命なのか、ロザリアは揺さぶられるまま、しがみついている。
オリヴィエが打ち付けるたびに、豊かな胸がぶるんぶるんと大きく揺れ、そのエロティックな光景を眺めるだけで、雄ははちきれそうに硬さを増した。
じゅぷ、じゅぷ。
溢れる蜜がオリヴィエにまとわりつき、淫らな水音を立てる。
おそらく、ロザリアもこのシチュエーションに興奮しているのか。
いつもよりも多くの蜜がこぼれ、腰がもっと、もっとと、訴えるように淫らに動いている。
欲望のまま、オリヴィエが激しく腰を打ち付けると、ぱんぱんと肌のぶつかりあう音が部屋に響いた。

「んっあ、もう、ダメ…!!」
ロザリアの蜜壺がぎゅうっと強くオリヴィエを締め付けると、ぶるぶると震えだした。
首に回っていた手からふいに力が抜け、ロザリアは身体ごと後ろに倒れこみそうになってしまう。
激しい絶頂感で、身体に全く力が入らないのだ。
オリヴィエはふらついた彼女を自分の胸元へと抱きこむと、さらに腰を振った。
イッたばかりの蜜壺に容赦なく雄を擦り付け、ひたすらに快感をむさぼる。
絶頂で細かく震えながらも、さらなる快感を拾ったのか、ナカが大きくうねり、オリヴィエを搾り取ろうとしてきた。

少しでも長く彼女のナカにいたいのに。
爆発する欲望には耐えられない。

オリヴィエが全部を彼女に注ぎ込もうと、腰をぐっと押し付けると、途端に熱が最奥へ吐き出された。
彼女とだから得られる、最高の快感。
これ以上の幸せも快楽も、この世界にはきっと存在しない。
オリヴィエはしばらく繋がったまま、荒く息を吐くロザリアの身体を抱きしめていた。


服を直したロザリアは、ぷりぷりと怒っている。
激しい行為の名残で頬が薄紅に染まり、青い瞳も潤んでいるせいで、怖くはないどころか、むしろエロティックではあったが。
「もう!こんなところで…しかもこんな時間に…」
今更ながら、明るい昼間の執務室で、肌を曝してしまったことが恥ずかしいのか、オリヴィエの顔から目を背けている。
それがたまらなく愛おしくて、思わず抱き寄せると、ロザリアは警戒したように身体を固くした。
それでもオリヴィエはかまわず、ロザリアの耳もとに唇を寄せる。

「あんたのせいだよ。私をこんなふうにしてさ。…好きすぎて、いつでもシたくなっちゃうんだ」
「な…!」
ロザリアは絶句したけれど、ますます耳を赤くしたから、たぶん照れているのだろう。
「ね、あんたはどうなの?私と…シたくならないの?」
わざと意地悪く問いつめると、ロザリアは困ったようにうつむいたままだ。
けれど、しばらくして、ちらりと上目づかいでオリヴィエを見ると
「…いやでしたら、とっくにあなたの頬を張り飛ばして逃げ出していますわ」
そんな可愛いことを言う。

「じゃあ、もう一回」
ついオリヴィエが本音をこぼすと、ロザリアはするりと腕から抜け出した。
つん、とオリヴィエの頬を人差し指でつつき、
「…夜までお待ちになって」
言い捨てて、本当に逃げ出したロザリアに、オリヴィエはくすくすと笑うしかなかった。



聖なる場所に住んでいるというのに、頭の中は煩悩と欲望でいっぱいだ。
いつだって、ロザリアを抱きたいし、できれば、永遠に繋がっていたい。
彼女と快楽に堕ちていたい。
守護聖と崇められながら、なんて生臭く、人間くさい感情に支配されているのだろう。

かつて見た恋人同士がハッピーエンドを迎えたかどうかはわからないし、普通に考えれば、聖地と下界の時の流れの違いに引き裂かれてしまったはずだ。
この後、自分たちにも同じ運命が訪れるかもしれない。
未来なんて誰にもわからないんだから。

でも、今はただ彼女を愛していたい。
彼女に、愛されていたい。
世界は2人のものであると、信じていたい。
オリヴィエは、隣ですやすやと眠るロザリアの髪に、そっとキスを落としたのだった。


Fin
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