午後になり、ロザリアはチョコレートをみんなに配って回ることにした。
最初に向かったのは、女王の間。
友チョコを一番に贈り合うのは、二人が聖地でバレンタインを始めてからの慣習になっている。
アンジェリーク用に作ったチョコレートはイチゴのピューレを使ったトリュフだ。
「ありがとう! ロザリアのチョコ、楽しみにしてたんだから!」
ホクホク顔のアンジェリークはすぐに一つを摘まんでいる。
チョコを齧ると生のイチゴをたっぷり使ったピューレがトロリとあふれてきて、アンジェリークは両頬を抑えて感動していた。
「んん~美味しい!」
「ありがとう。」
チョコのお供に紅茶を淹れていると、ほわほわと紅茶の香りの混じる湯気が立ち上る。
「ね、ロザリア。」
「なにかしら?」
香りを楽しんでいたロザリアの背後にアンジェリークがにじり寄った。
「本命チョコ。 今年はあげるんだよね?」
「な、なんのことかしら?」
動揺のあまり、ポットの注ぎ口がぶれて、危うくこぼしてしまいそうになりながらも、何とか踏みとどまる。
そんなロザリアにアンジェリークは、くすくすとわらった。
「なんのことじゃないわよー。
今年こそあげるんだよね? オ・リ・ヴィ・エに。」
「え、あ、え?! どうして?!」
「どうして、って…。 もしかして今年もあげないの?
わたしにはそっちのほうが意味不明だけど。」
「意味不明だなんて…。」
準備していた、という言葉が飛び出しそうになるのを押しとどめたロザリアの顔を、アンジェリークは別の意味に受け取ったらしい。
ふう、と大げさなため息をついた。
「いいかげん、ちゃんと答えてあげないとオリヴィエだって待ちくたびれるわよ。
いくら返事はいつでもイイって言ったとしても、もう3年でしょ?
さすがにひどくない?
どうしてちゃんと伝えないの?」
「…わかっていますわ。」
ずばずばと正論で告げられると、返す言葉がない。
拗らせすぎの恋の全ての原因はロザリアにあるのだから。
ロザリアが補佐官になってすぐ、オリヴィエから想いを伝えられた。
女王試験の間、不器用なロザリアを支えてくれていたオリヴィエ。
彼の側にいると、不思議と気持ちが安らぐ。
もちろん安らぐだけではなく、ときめきや戸惑いもあり、それらを含めた感情全てが『恋』なのだということに、鈍感なロザリアも気が付いていた。
だから、オリヴィエからの告白はロザリアにとっても夢のような出来事だったのだが。
その時のロザリアは返事を保留したのだ。
補佐官の職務と恋。
そのどちらも上手くやっていく自信がロザリアにはなかった。
「補佐官としてきちんと執務ができるようになるまで、恋をしている余裕がないんですの。」
オリヴィエのことは特別に想っている。
けれど、今のまま付き合い始めれば、きっとどちらも中途半端になってしまう。
それがロザリアにはよくわかっていたのだ。
自分の気持ちを素直に伝えたロザリアの返事にオリヴィエは怒ることもなく、
「そういうのもあんたらしいね。
じゃあ、もしもあんたが恋をしたくなったら、一番最初に教えてくれる?
待ってるからさ。」
ぱちり、と、とびきりのウインクをしてくれたのだ。
それから、ロザリアは補佐官の執務を懸命にこなしてきた。
いろんな事件が重なり、それはそれは大変な時期もあったけれど、ようやく宇宙も安定してきた今年こそ、と、思っていたバレンタイン。
それなのに…。
泣きたくなる。
アンジェリークの元を後にしたロザリアは、順に執務室を廻り、チョコを配っていった。
すでに恒例になっているから、みんなの反応もだいたい予想通り。
引き止められて困るようなこともなく、いつもの感謝とチョコのお礼を一言二言交わして終わる。
そして、ロザリアはいよいよ夢の執務室の前に立った。
手にしているのは残り一つの義理チョコの入った紙袋。
すうっと息を吸い込むと、ロザリアはドアをノックした。
するとすぐに
「はーい。 開いてるよ。」
いつもの軽い口調が聞こえてきて、ロザリアは覚悟を決めてドアを開いた。
「おや。 ロザリアじゃないか。」
オリヴィエは少し目を丸くしたかと思うと、執務机から立ち上がり、ロザリアをソファへと促した。
優しい笑みはいつも通りで、今日が何の日か、なにかを期待しているのか、まるでわからない。
「ちょどそろそろ休憩しようと思ってたんだよね。
あんたも一緒にお茶をどう?」
マスカラのたっぷり乗った睫毛でパチンとウインクされて、ロザリアは戸惑った。
ちらりと部屋の時計を見て、マズい時に来てしまったと焦る。
オリヴィエとお茶をすることは珍しくないから、この時間に部屋に来れば、当然誘われることを予想しておくべきだった。
いつもなら嬉しい誘い。
でも今日は。
「いえ。 まだたくさん執務が残っていますの。
すぐに戻らなくては。」
なるべく落ち着こうとしたばかりに、つい声が硬くなる。
奥の間へ行きかけていたオリヴィエは、ロザリアのその言葉に、少し残念そうに肩をすくめたが、すぐに笑みを返してくれた。
「そっか。 ま、今日は忙しいよね。
で、私のところに来てくれたのは、なんで?」
悪戯っぽく目を細めて、ロザリアを見つめるオリヴィエの瞳。
艶やかなグロスの唇も楽し気に弧を描いている。
ロザリアは思わず目を伏せて、チョコの入っている紙袋の紐をぎゅっと握りしめた。
「あの、これを。
いつもありがとうございます。」
紙袋からチョコを取り出し、オリヴィエに差し出す。
俯いたままのロザリアにオリヴィエの顔は見えないけれど、彼がわずかに息を飲んだのがわかる。
そして吐き出された小さなため息には、明らかに落胆が滲んでいて。
それでも、オリヴィエはロザリアにその気持ちを知らせたくなかったのか、すぐに明るい笑い声をあげた。
「バレンタインのチョコ? ふふふ。 アリガト。」
ひょいとロザリアの手からチョコを受け取り、袋越しに匂いを嗅いでいる。
「クッキーかな?」
「…ええ。」
「後で食べるね。」
「…ええ。」
歯切れの悪い返事しかできないまま、たわいもない話をしていると、オリヴィエがあの話を切りだした。
「そういえばさ、ジュリアスのところに置いてあったチョコ、見た?」
ドキリとロザリアの鼓動が早くなる。
「ええ。見ましたわ。」
「すごくオシャレなラッピングで、センス良さそうなチョコじゃなかった?
いったい、誰なんだろうねえ。 あのジュリアスにチョコなんてさ。」
オリヴィエは楽しそうに、あのチョコにまつわるみんなの反応などを聞かせてくれる。
オスカーが研究院で指紋を調査すると言って、ジュリアスに拒否されたこと。
ゼフェルが本当に爆弾じゃないのかと心配して、金属探知機を運び込んできたこと。
ルヴァがチョコにまつわる毒殺の話を始めて、ジュリアスが青ざめたこと。
どれも笑い話なのだが、ロザリアにはほとんど届いていなかった。
チョコを渡した瞬間の、オリヴィエのため息が耳について離れない。
こんなことなら何も渡さずにいたほうがマシだったかもしれない。
それに、オリヴィエはロザリアのチョコをセンスがいいと言ってくれていた。
あんなことにならなければ、今頃はあのチョコを渡して、二人で特別な時間を過ごしていたかもしれないのに。
自分の愚かさに対する後悔で、本当に涙が出そうだ。
しばらく世間話をした後、礼儀通りの挨拶をして、ロザリアはオリヴィエの部屋を後にした。
とても彼の顔を見られなくて、最後までうつむいたまま。
補佐官室に戻ったロザリアは、他に何も考えずに済むようにと、執務に没頭したのだった。
執務の終わりの時刻。
オリヴィエはロザリアにもらったチョコを手に、今度こそ大きなため息をついていた。
「どう見ても義理、だよね。」
指先で摘み上げた透明な袋の中にはごくごく平凡なチョコチップクッキーが3枚。
別にチョコの分量で愛が計れるわけでもないが、これは明らかにチョコの量が少なすぎる。
ラッピングもおそらくみんなと同じだろう。
他の守護聖、みんなと。
つい最近、ロザリアとお茶をした時のことを思い出してみる。
彼女の好きなダージリンと主星で流行の店から取り寄せたマカロン。
二人きりのティータイムはもう珍しいことでもないけれど、好きな女の子と一緒であれば、どうしても気分は浮きたってしまう。
補佐官になってすぐの告白は、もちろんまだ保留で、ロザリアとオリヴィエは今のところただの同僚だ。
けれど、このところの彼女との時間の過ごし方を思えば、以前よりも期待を持ってもいいだろう。
きっともうすぐ。
焦ってはいけないと思いながらも、その時を待ち遠しいと思っている自分がいて。
にこにこと年相応の笑みを浮かべて、女王の話をするロザリアに、オリヴィエも笑みを浮かべながら相槌を打っていた。
「このマカロン、とても美味しいですわ。」
「ホント。 さすがに主星で一番人気なだけはあるね。 美味しい。」
「…オリヴィエは甘いものが苦手なのではありませんの?」
ふと真剣みを帯びた声に、オリヴィエは片眉を上げた。
「別に嫌いじゃないよ。 美味しいものは好きだし。
食べすぎないように気をつけてるだけ。」
「では、チョコレートも嫌いではありませんのね?」
「チョコはむしろ好きかも。 だからあんまり近寄りたくないんだよね。 太っちゃう。」
きゃはは、といつものように陽気に笑って見せながら、オリヴィエは胸が高鳴るのを感じていた。
何かを考えるようなロザリアの顔に、自然と近づくバレンタインデーの事が頭に浮かんで。
もしかして、ロザリアがオリヴィエに特別なチョコレートをくれるのではないかと思い込んでしまったのだ。
…待ち続けた日々の答えと一緒に。
「まだ、ってことなのかな。」
つい声に出してしまうと、どうにもやりきれない想いがする。
ロザリアにとって、オリヴィエはまだ、『義理チョコ』程度の存在なのだろうか。
もしかすると、他の男に『本命』を渡しているのだろうか。
期待していた分だけ、思考が後ろ向きになる。
ふと視線を落とせば、さっきロザリアが立っていたところに、きらりと光る何かが落ちていた。
拾い上げてみると、いつもロザリアが付けているイヤリングの片方だ。
チョコを届けてくれた時に落ちてしまったのだろう。
探しに来ないところを見ると、きっと彼女はイヤリングを落としたことに気が付いていないに違いない。
すでに補佐官室は照明が落ちていて、ロザリアは帰宅しているようだ。
彼女が残業をしないとは珍しいし、そういえば、さっきも顔色がよくないような気がした。
…何か悩み事があるのかもしれない。
気になりだすと止まらなくて、オリヴィエはイヤリングをポケットに入れると、帰り支度を始めた。
残業をする気にならず、ピッタリの時刻に聖殿を出たロザリアはダイニングで食事の準備をしていた。
通いのメイドがあとは温めるだけにしてくれているから、準備自体は大した労力ではないのだが、今日はなんだか食欲がない。
気持ちの問題だから食べなくてはいけないと思うが、胸のつかえが収まらないのだ。
ロザリアはスープを温めていた火をいったん止めて、ダイニングの椅子に座り込んだ。
チョコを作ったあまりの材料がまだ戸棚に残っている。
それを見てはため息をついて、後悔ばかりを繰り返して。
ぼんやりしていると、玄関のチャイムの音が聞こえてきた。
「こんな時間に…?」
思い当たる訪問者はないけれど、緊急の用件かもしれないと、立ち上がったロザリアは、三度目のチャイムと同時にドアを開けた。
「はあい。ロザリア。」
「オリヴィエ?!」
そこに立っていたのは、オリヴィエで、ロザリアは目を丸くしてしまった。
なぜ?と問うよりも先にオリヴィエが口を開く。
「忘れ物。 私の執務室にコレが落ちててさ。 探してるんじゃないかと思ってね。」
オリヴィエがポケットから取り出したのは、ロザリアが付けているはずのイヤリング。
慌てて耳に手をやれば、片方が外れていることに気が付いた。
「まあ、わざわざ届けてくださったんですのね。
…もしもお時間があったら、お茶でもいかがかしら?」
突然の訪問への驚きが過ぎると、今度は嬉しさが勝ってくる。
どんな理由でも好きな人が会いに来てくれたと思えば、勝手に頬が緩んでしまうものだ。
ロザリアの弾んだ声に、オリヴィエもくすりと笑って
「じゃ、ちょっとお邪魔しようかな。」
巻いていたストールを外した。
「こちらへどうぞ。 すぐにお茶を持ってきますわ。」
ロザリアに通されたのは、奥のリビングだ。
何度か遊びに来たこともあるが、ロザリアらしい落ち着きと優美さを兼ね備えた部屋はとても居心地がいい。
外したストールを傍らに置き、ソファに座ったオリヴィエは、手持無沙汰を慰めるように、ぐるりと部屋を見回した。
この間遊びに来た時から、部屋はとくに変わった様子もない。
オリヴィエがプレゼントしたアクセサリーホルダーも以前と同じ場所に飾られていて、なんだかほっとしてしまう。
ふと視線を落とした時、たまたまそのチェストの横にあるゴミ箱が目についた。
ロザリアにしては珍しく、ゴミがたくさん入っている。
あふれている紙に見覚えがあるのは、さっきまで何度も見ていたチョコの包み紙だからだとわかった。
きっと昨夜チョコの準備をしたゴミが残っているのだろう。
「あれ?」
思わず声が出たのは、もう一つ、ゴミ箱からわずかに垂れているリボンの切れ端のせいだ。
幅広の金のオーガンジー。
結べばさぞ豪華になるだろう。
オリヴィエはソファから立ち上がり、ゴミ箱からリボンを引っ張り出した。
見れば見るほど、それは今日、ジュリアスの執務室で見た、あのチョコについていたものに似ている。
ついでにがさがさとゴミ箱を探って、オリヴィエはさらに驚いた。
ピンクの包装紙。
それもまたジュリアスのチョコと…よく似ている。
偶然。
思い込もうとして、即座にありえないと、自分自身で突っ込んだ。
オシャレだと思ったから、そのリボンと包装紙ははっきり脳裏に残っている。
見れば見るほどジュリアスのプレゼントと同じものに間違いない。
手にリボンと包装紙を持ったまま、オリヴィエはらしくなく呆然と立ち尽くした。
考えられるのはただ一つ。
あのチョコを贈ったのがロザリアという事だけ。
「お待たせしましたわ。」
背後からの声にオリヴィエが振り返ると、ロザリアがティーセットのトレイをテーブルに乗せていた。
「本当にお茶だけでごめんなさい。」
恥ずかしそうにほほ笑むロザリアが振り返った瞬間、その青い瞳が驚きで見開かれた。
視線の先にはリボンと包装紙。
二人の間の空気が完全に止まってしまったような時間は、ほんの数秒だろう。
「それは、どこに…?」
声が震えてしまったのは、オリヴィエが見たことのない表情をしていたからだ。
見てると胸が詰まるような、そんな顔。
オリヴィエはふっとため息のような笑みをこぼすと、
「ごめん。 ゴミ箱からはみ出てるの見つけちゃった。」
リボンと包装紙をロザリアに掲げて見せた。
「あのさ、これとよく似たリボンと包装紙、私、今日見たと思うんだよね。」
ドキリ、とロザリアの心臓が掴まれた様に痛くなる。
すうっと血が下がって、足が震えてきた。
「ホラ、ジュリアスの部屋でさ。
贈り主のわからないチョコレート。 あれとそっくり。
…もしかして、同じ、なのかな?」
オリヴィエはだらりと腕を下げて、ロザリアをじっと見た。
けれど、一瞬、グッとゆがんだ顔はすぐに明るい笑みへと変わっていく。
「まさかあんたがあのチョコの送り主だったなんてね。
どうして黙ってたのさ。 ちゃんと渡したら、ジュリアスだって絶対喜んだのに。
恥ずかしかったの?」
いつものような軽い調子で、笑いながら、リボンを弄んでいるオリヴィエだったが、ふと、その手が止まった。
小さく吐き出された息。
「…私のことを気にしてるなら、いいんだよ。
あんたが恋をして、それで幸せになれるなら、私はそれで、構わないんだから。
ジュリアスを好きになったなら、そう言ってくれたらいい。」
オリヴィエの言葉を聞いていたロザリアは、無意識のうちに、彼の方へと走り寄っていた。
そして、オリヴィエの手からリボンと包装紙を奪い取ると、ぎゅっと両手で握りしめた。
「違うんですの…!」
どう言ったらいいのか。
頭の中が混乱して、全くまとまらないまま、ロザリアは大声を上げた。
今までの人生で、こんなに大きな声を出したことはなかったかもしれない。
こんなに何も考えずに話してしまう事も。
けれど、一度こぼれ出した声はもう止まらなくなっていた。
「あれはオリヴィエのために作ったチョコレートなんですの。
オリヴィエにバレンタインの告白をしたくて、作った…。」
ロザリアは今日の出来事を、オリヴィエに語りはじめていた。
朝一で持って行ったチョコレートを落としてしまっていたこと。
いつの間にか、そのチョコレートがジュリアスのところにあったこと。
どうしても自分のモノだと言いだせなかったこと。
しかたなく、義理チョコを小分けしてオリヴィエに渡したこと…。
混乱しているせいで、順序もバラバラ。
とぎれとぎれの言葉を何度も言い直して。
それでもオリヴィエは一度も口を挟むことなく、ロザリアの話を聞いてくれていた。
「本当は今年こそ、あなたに伝えたかったんですわ…。」
遅くなってしまったけれど、あの時と同じ気持ちをまだオリヴィエが持っていてくれるのなら。
待たせてしまって、本当に今更なんですけれど。
好き、なんですの…。 オリヴィエのことが…。」
言ってしまった。
こんなはずじゃなかった。
ちゃんと手作りのチョコレートを渡して、今までのお礼と、想いを、伝えるつもりだった。
それなのに。
こんなムードも何もない形で、何の考えもなしに、気持ちだけを押し付けてしまうなんて。
次の言葉が見つからず、うつむいてしまったロザリアの手にオリヴィエの手が触れる。
ぎゅっと握りしめていた指をそっと外して、オリヴィエは手の中のリボンを取り上げた。
「…ホントは私にくれるつもりだった?」
こくんと頷いたロザリアの髪を、さらり、とオリヴィエの指が耳にかける。
その優しい手つきに、触れられた個所が熱を帯びた。
「じゃあ、私はせっかくのチョコを食べ損ねたってこと?」
ふたたびこくんと頷いたロザリアのうなじにしゅるりとオリヴィエがリボンを回す。
目の前にオリヴィエの身体が近づいて香りを間近に感じると、自然と顔が赤くなった。
ドキドキが止まらなくて、心臓が壊れてしまいそうだ。
オリヴィエのくすりと笑う吐息が耳のすぐ横で聞こえる。
「もうチョコは諦めるしかないけどさ。」
オリヴィエはそのままリボンをロザリアの頭のてっぺんに持ち上げると、そこで結んだ。
ふわふわの金のオーガンジー。 カチューシャのような大きなリボン。
「チョコの代わりにもっと甘くておいしいモノをくれるなら許してあげる。」
「え?!」と返事をする間もなく、ロザリアの額に暖かいものが触れる。
それがオリヴィエの唇だと気が付いて、ロザリアはますます頬を真っ赤にして額を抑えた。
突然の出来事に頭が付いていかない。
オリヴィエの言葉の意味を考える暇もなく、
「まあ、返事はイエスしか聞くつもりないけどね。」
ぎゅっと強く抱きしめられたかと思うと、突然唇が重なった。
軽く、ついばむように角度を変え、何度も何度も触れ合う唇。
チュッと音を立てて、やっとオリヴィエが唇を離す頃には、ロザリアの足は立っているのがやっとの状態だった。
「ん、チョコよりコッチの方がずっと甘い。」
間近から妖艶な笑みを向けられて、さらにロザリアの体温が上がる。
「もっともっと食べさせて。
お預けされてたぶんも、ね。」
これから始まりそうなのは、今のキスよりももっと甘い時間。
オリヴィエの香りに包まれながら、ロザリアは彼の腕に身を委ねていったのだった。
FIN