お手をどうぞ

3.

「というわけで、わたくしとルヴァは婚約しましたの。」 
なにが、というわけで、だ、とその場にいたみんなが思った。
玉座の横に立ったルヴァは終始デレデレしているし、しっかりつながれた手がみょ~にムカつく。
ジュリアスもクラヴィスも、昨日のパーティでせっかくチャンスがあったのに、と一様に沈黙している。
ゼフェルはイライラとして、席を立って行ってしまった。
「くそっ!」 
足もとの壁を思いっきり蹴っ飛ばした。心の痛みに比べれば足のしびれは大したことはない。
ずっとロザリアを想って、近くにいて、ようやくいい感じになっていたのに。
ロザリアも自分に心を開くようになっていたのに。
せこいインチキの間にかっさらわれたことが悔しくてたまらないのか、落ち込んだゼフェルは私邸に引きこもってしまった。

ゼフェルのわかりやすい落ち込み方はともかく、オリヴィエはひそかにショックを受けていた。
昨夜、ルヴァにされた宣戦布告は確かに聞いた。
でも、のんびりしたルヴァのペースを考えれば、まさか一晩で!とだれでも思うだろう。
オリヴィエと目が合うと、ルヴァはでれっと相好を崩した。本当に見ていられない。
会議は早々にお開きになり、ロザリアにひそかに想いを寄せていた者たちはがっくりと肩を落としたのだった。


相変わらずの本の匂いとのんびりしたルヴァの顔が見えた。
「はあ~い、ルヴァ。 ずいぶんと頑張ったみたいじゃない?」 
オリヴィエはできるだけ普段通りの口調に努めた。
ルヴァもいつもどおりに、オリヴィエを部屋に招き入れる。
「いえね、私も信じられないんですよ。まさか、本当にロザリアと、その~、結婚できるなんてねぇ。」 
ルヴァは照れているのか下を向いて盛んに首を振っている。
オリヴィエは内心の動揺を隠してルヴァに尋ねた。
「ねぇ、なんて言って口説いたのさ。」 
ルヴァがちらりと上目遣いで見てくる。
いつもは気を落ち着かせる緑茶の香りが今日は妙にイライラした。

「そうですね~、ずっと前から、私を想っていたって言っていましたよ。知らずに想いあっていたんですね~。私たちは。」
ルヴァは緑茶をずずっとすすって続けた。
「なんでも、女王になろうか私を取ろうかと迷って告白しようとしたけれど、結局できなかった、と言いましてね。あ~、その時のロザリアの可愛らしかったこと・・・。」
ルヴァは持っていた本で顔を隠すようにして首を振った。
オリヴィエはなぜか頭痛がした。
そんな前から? 私に告白してきたのとどっちが前? 
頭の中をたくさんの疑問がぐるぐると回った。

「今はどちらかが退任しても結婚していれば聖地に残れるようにしようって、計画しているんですよ~。 ロザリアには本当に困りますよね~。」
ルヴァのノロケはオリヴィエの神経をチクチクと刺激した。
やけくそのように緑茶をがぶがぶと飲む。
少し渋いその味が心まで渋くさせるような気がした。

なぜ、あのときロザリアを拒んだんだろう。何か理由があったはずだけど。
ロザリアは本当に女王になるべき存在で、あんなにすばらしい資質を埋もれさせてしまうわけにはいかない。そんな守護聖としての責務? 
そんなわけない。
私を想ってくれていることは分かったけど、ロザリアの無理な頑張りはちょっと痛々しいくらいだった。
自分を偽るような恋が長続きするはずはない。いつかはその偽りに疲れて、恋を選んだ自分を恨むだろう。
その来たるべき未来が、あの時の私には見えた。
何より宇宙と引き換えにしたいほど、ロザリアを好きだなんて全く思わなかった。
そう、好きじゃなかったんだ。あのときは。

「今度こそみなさんがあきらめてくれるといいんですけどね~。私がロザリアと結婚できるんです。夢みたいですよ~。」
ルヴァは早口でそれだけ言うと、まだ飲みかけの湯呑をさっさと片付け始めた。
まるで追い出すようなその態度にオリヴィエは驚きつつ、仕方なく立ち上がった。
「じゃ、ね。」 
オリヴィエの言葉にルヴァは笑顔で手を振った。


ロザリアの相手が決まったことで、がぜん合同結婚式は現実になってきた。
もちろん女王の結婚には反対のものが根強く、その説得にロザリアは多くの時間を取られるようになっていた。
その間も通常の執務は続いていたので、忙しさは倍になっている。
それでも、ロザリアはなんとか結婚を認めさせようとあの手この手で交渉していた。
ルヴァもそのために走り回っていて、聖殿はいつでもあわただしい空気に包まれていた。

それでもゼフェルはふてくされたように執務すらさぼっていて、ロザリアへの想いが本当なのはともかく、少々手を焼いてもいた。
そんな中、ロザリアはちょっとしたお願いのためにゼフェルの執務室にいった。
「なんだよ。」 
ゼフェルの態度は最悪だ。いつもながら散らかった部屋でロザリアは自分の座る場所をなんとか確保すると、ゼフェルに向き直った。

「ちょっと、耳を貸してくださいませ。」 
ロザリアに手招きされて、ゼフェルはロザリアの口元に耳を寄せた。
何ともいえず甘い薔薇の香りとくすぐったい感触にゼフェルは知らずに赤くなる。
その耳にロザリアはこそこそと何かを話した。
その間ゼフェルは青くなったり、赤くなったり、にやにやしたりしていたが、やがて顔が輝くと、大きくうなずいた。
「まかせとけよ!」 
ロザリアはにっこりほほ笑むと、「お願いいたしますわ。」 と言った。
ロザリアにしてみれば、ゼフェルの機嫌を直す魔法を100以上は知っていて、実際にゼフェルは120%浮上した。
そのロザリアの笑顔はゼフェルにとって、何よりの特効薬になったのだった。


「結婚しても女王であることに変わりありませんわ。」 
この一言で結婚は確定した。
結局、反対は無駄なことなのだ。ロザリアは正しいと思ったことは決して曲げない。理念を変えるのは無理なのだ。
頭の固い人々でさえ、その硬い意志に結局は折れることになったのだった。
女王は絶対無二の存在。ロザリアの高笑いが聞こえてくるようだった。

とうとう結婚式の日取りが決まった、という大ニュースをオリヴィエはなぜか聖地新聞で知った。
会議が開かれるわけでもなく、こんな大事なことを一人で決めてしまうところはいかにもロザリアらしい。
1ヶ月後のその日付は聖地の祝日となり、みんなが結婚式に来れるようになっていた。
ロザリアは守護聖を集めると、1枚のプリントを手渡して、それぞれに結婚式での仕事を割り振った。
ジュリアスとクラヴィスは花嫁の父親役、オスカーは警備、マルセル、リュミエールは受付、ゼフェルは音響。オリヴィエの名前は衣装になっていた。

「なぜ、私がこの役なのだ?」
不服そうなジュリアスに 「首座ならば当然だ・・・。」 とクラヴィスは快く引き受けてくれた。
「わたくしたちはこれくらいしかお手伝いできなくて、申し訳ありませんね。」というリュミエールにマルセルが「がんばりましょうね。」と声を掛け合った。
そして、ゼフェルは何やら薄気味悪いくらい上機嫌で、全く話を聞いていない。
この間までのあの荒れようはなんだったの?と言いたくなる。

「ではみなさん、申し訳ありませんが、よろしくお願いしますね~。」 
ルヴァが頭を下げると、守護聖たちは頷いた。
なんだかんだ言ってもみんなロザリアもルヴァも好きだった。
もちろんアンジェリークとランディも。
この2組のためにできるだけのことはしようという空気になっていたが、オリヴィエだけは何となくもやもやしていた。

ロザリアはいつからルヴァが好きだったんだろう?
そんなことを考えてルヴァをまともに見ることもできない。
「オリヴィエ、ロザリアを頼みますね。いや~、もちろんもともと、きれいなんですけどね、ウエディングドレスはまた、楽しみですからね~。」
いつか見たドレス姿を思い出す。まるで女神のように輝いて見えた、あのとき。
ルヴァのために? 気に入らない。 
オリヴィエは考えたことをあわてて否定した。



いよいよ、当日になり、オリヴィエは衣裳係のために走り回っていた。
「先にアンジェリークの準備を。」というロザリアの申し出で、まずはアンジェリークから花嫁の姿に変えていく。
アンジェリークのふんわりしたドレスは彼女の可愛らしさを際立たせていて、オリヴィエですら花嫁を送り出す父のような気分になった。
メイクを済ませ、ベールをつけると、もう素敵な花嫁で、入ってきたランディは声を失った。

「きれいだ・・・。」 
震える声でベールをめくる。
見てはいけないような気がしたが、他に行くところもない。
そのめちゃくちゃ当てられそうな場所で、オリヴィエはこれからはじまる結婚式のことを考えていた。
もうすぐロザリアはルヴァの妻になる。
あの完璧な女王候補の仮面の下の素顔がようやく見れるようになって面白くなってきたのに。
オリヴィエは自分のもやもやを持て余しながら、ロザリアの部屋に向かった。

すでにドレスを着たロザリアが珍しくにこやかに出迎えてくれた。
アンジェリークとは対照的な体に沿うラインのドレス。とても大人の貫録があり、さすが女王といった雰囲気を醸し出している。
「お願いしますわ。」 
人間性はともかくロザリアはオリヴィエのメイクの腕は高く評価しているのだろう。
そうでなければ、この晴れの日に頼んだりしないはずと、オリヴィエは思った。
そのご期待には精一杯こたえたい。

後ろを向いたロザリアのきれいなうなじが目に入る。この細い両肩が宇宙を支えているのだ。
そして、いつも宮殿で肩で風を切ってヒールを鳴らすロザリアを思い出す。
高飛車で頑固でちょっと鈍いところや、人を小馬鹿にしたようにツンとした態度も思い出せばすべてがカワイイ。
候補のころの「みんなに好かれたい」という気負いのなくなった自由なロザリアは、一生懸命可愛く見せようとしていたあの頃よりずっと可愛いのだ。
ぼんやりしながらも手を動していると、ロザリアは静かにされるがままになっていた。
出来上がったロザリアは本当にきれいでオリヴィエは胸が苦しくなる。
美しさは表面的なものだけじゃない、心の内面から来るもの。
女王になったロザリアには、確かに内面の美しさがあった。


式のためにオリヴィエは教会の一番後ろに座った。
女王と補佐官の式は驚くほど小さな古い教会で行われることになっていた。
出席者も守護聖しかいない。
TV中継くらいはすると思ったけどと、きょろきょろあたりを見回した。

背後にある、あの怪しげな配線は何なのだろう。
1週間前からゼフェルはこの教会に泊まり込み、何やら準備に励んでいた。
「古い建てモンだからよ~。電気関係がイカれてて参ったぜ。」 
ぶつぶつ言いながら執務室と教会を何度も往復していたのも知っている。
結婚式に一体何の電気がいるのか?
せいぜいBGMくらいじゃないかと思うんだけど、とオリヴィエは通路の中ほどに置かれた大きな黒い箱にも多少の恐怖を感じつつ、始まりを待った。


そして、おごそかに式は始まった。
ゼフェルのスイッチオンの動作とともに静かな音楽が流れてくる。
ジュリアスと腕を組んだロザリアと、クラヴィスと腕を組んだアンジェリークが同時に入場してきた。
一対の絵画のような完全な組み合わせ。
綺麗とか汚いとかそんな小さい物差しではとても計れない。それは完ぺきに美しかった。
向こうで待ち受ける新郎は二人とも目をキラキラさせて、こんなに美しい花嫁はこの世にいない、と完全に酔いしれている。
ルヴァの顔を見ていると、なんだか苦い気持ちがする。大切なことを忘れてきたような気持ち。

オリヴィエの隣を静々とロザリアが歩く。その顔を見て、オリヴィエはぎょっとした。
ロザリアはとても奇妙な表情をしていた。まるで、あのときのような。
ロザリアとジュリアスはバージンロードの真ん中まで来ると、ぴたりと立ち止った。
不審に思ったアンジェリークがロザリアに声をかけたとき、通路の黒いボックスが突然割れ、天井で大爆発が起こった。
もうもうとする煙にオリヴィエは立ち上がった。
考えるよりも前に体が動いて、気づいたら、煙の中に飛び込んでいた。

「ロザリア!」 
大声で叫んで姿を探した。もし、ロザリアに何かあったらと思うと心臓がギュッと掴まれたように苦しい。

「なんですの?」 
背後から声が聞こえて振り向くと、そこに両手を腰にあてて顎をツンとそらしたロザリアがいた。
その目が、いかにも胡散臭い者を見る感じだったので、オリヴィエは苦笑する。
「あんたこそ、どうしたのさ。 これはいったいなに?」 
ロザリアはそのポーズのまま、くいっと顎を上に向けた。上を見ろ、と言いたいらしい。
オリヴィエは言われるままに上を見た。大穴の開いた天井からのぞく青空に「アンジェリーク&ランディ 結婚おめでとう!」の文字が浮かんでいた。
大きなアドバルーンに結びつけられたそれは、ピンクのハートの風船に囲まれてふわふわ漂っている。

「これ、あんたが・・・?」 
オリヴィエはぽかんと空を眺めながら言った。
「そうですわ。」 
それがどうした、とでも言いそうな口調にオリヴィエは開いた口がふさがらない。
「わたくしからのちょっとしたプレゼントですわ。それに、ランディも試験に合格したようですわね。」 
おさまった煙の向こうで、ランディがアンジェリークをかばうように倒れているのが見えた。

「とっさのときにアンジェをちゃんと守りましたわ。きっと、最後までアンジェを守ってくださいますわね。」
ロザリアの視線の先には幸せな恋人同士がいて、二人の世界を作っている。
「うまくいったよな!」 
ゼフェルが走り込んできた。 
ロザリアは頭の上で大きく丸を作ると、ゼフェルの両手をしっかりと握った。
「さすがですわ!計算通り、中には瓦礫が落ちていませんもの! ゼフェルにお願いして、本当によかった!」 
ロザリアの弾んだ声に、ゼフェルは照れたように笑っている。
彼の一週間の作業はすべてこの演出のためだったのだ。

「ねえ、もしかして、みんな知ってたわけ?」
私以外は。
「そうですわね、ジュリアスとクラヴィスとルヴァにはお話ししましたわ。協力していただかないといけませんでしたもの。
 それに、リュミエールとマルセルには、誰も教会に入れないようにとお願いしましたし、オスカーには何があっても戦いじゃないから安心して、と。」
やっぱり私だけが知らされてなかったのか、と、ため息が漏れた。
そんなオリヴィエにロザリアはふんと鼻を鳴らして言った。
「一人くらいは驚かないとつまらないでしょう?」
なんという女王様! 
オリヴィエは空に浮かぶバルーンをじっと睨みつけた。
その抜けるような青空に、オリヴィエは心のもやもやがスーッと晴れていくのを感じていた。


「さあ、式の続きを始めますわよ。」 
ロザリアの声に神父様も守護聖も着席する。
ロザリアはそのままオリヴィエの隣に腰を下ろした。
よく見れば、ルヴァも手近なところに座っている。
「あんたは行かなくていいの?」 
こっそり声をかけると、ロザリアはまた、あの奇妙な表情をしていた。

(あなたの隣に座っていたいの。) 
思わず口からこぼれそうになる言葉をロザリアは長手袋の両手でしっかりと押さえた。
早く結婚してしまえ、みたいなセリフを言うオリヴィエが本当に憎らしい。
爆発の中探しに来てくれたときは、本当にうれしかったし、少し期待もしたのに!
やっぱり、オリヴィエなんて信じられない・・・。

指輪の交換が始まる。
「アンジェ・・・。」 
つぶやく声は本当に寂しそうで、それでいて嬉しそうで、たぶん一言で言えない感情が心に渦巻いているのだろう。
オリヴィエはそっとロザリアの肩を抱こうとした。
とたんにその手をバチン、と叩かれる。
恐ろしい目で睨むロザリアを前にオリヴィエは少し離れて座りなおした。

ロザリアは式の間中、そんな顔のまま、アンジェリークとランディの幸せそうな様子を眺めていた。
いろんな気持ちを隠そうとするときに、あんな表情をするんだ、とオリヴィエは初めてわかった。
その呆れるほど尊大な態度の裏に深い慈愛の心が隠れていることに、もうみんなとっくに気付いている。
それなのに必死でそれを出さないように隠そうとしているロザリアがとてもかわいく見えた。


とどこりなく式を終えて、フラワーシャワーのために外に出ると、たくさんの人が集まっていた。
みんなの祝福を受けて輝くように笑うアンジェリークをロザリアは遠くから眺めた。
話したいことはすべて話したつもりでも、寂しい。
これからはアンジェの隣にいるのは自分ではなくてランディなのだ。
(初めてできた、わたくしの本当の友達。あなたの幸せのために、わたくしができることはこれしかなかったのよ。)
ロザリアは大切な友達の門出に決して泣いたりしないようにグッと、顔を上げた。


「どうでしたか~。私たちの演出は~。」 
白いタキシード姿のルヴァがオリヴィエに声をかけた。オリヴィエは肩をすくめてルヴァを見る。
「どうもこうもない、最高にエキセントリックだったよ。なんで、あんなこと?」
「そもそも、合同結婚式自体がロザリアのでまかせですからね。アンジェリークとランディを結婚させるための方便ですよ。」
ああ、そういうこと。
女王の結婚にまぎれて、補佐官の結婚はあまり問題視されなかった。
もし、補佐官だけならものすごい反発があっただろう。
そしてアンジェリークはその反発に耐えられるほど強くない。
「ロザリアの計略勝ちですかね~。」 
ルヴァも満足そうに微笑んでいる。
(要するに、私はまんまとはめられたわけだ。) 
あの、無敵の女王様に。


一人で立ちつくすロザリアはじっと涙をこらえているようだった。
そばに近づくと、ロザリアはオリヴィエに視線も向けずに話しだした。
聞くのが当然と言わんばかりの態度が彼女らしい。
「これでアンジェはずっとランディのそばにいられるわ。もし、わたくしのサクリアがなくなって、聖地を出る時が来ても、結婚していればアンジェは残れるようにしたの。
アンジェはカワイイお嫁さんが、きっと一番似合うから。」 
もうそんなことを考えているのか、とオリヴィエは驚く。まだ女王になったばかりなのに。

「もし、あんたより先にランディがサクリア消失になったらどうするのさ。アンジェも一緒に出てっちゃうよ。」
ロザリアは突然ツンと顎を上げていつもの小馬鹿にしたような目つきになった。
「その時はランディを聖地に残しますわ。だって、わたくしはまだ女王ですのよ。できないことなんてありませんわ。」
まるで勝利宣言のような言葉にオリヴィエは笑いが止まらない。
むっとしたロザリアが何か言おうと口を開きかけた時、オリヴィエは片膝をつき、ロザリアに恭しく片手を出した。

「さあ、お手をどうぞ。」
オリヴィエの心にいつのまか君臨していた、天下無敵のかわいいかわいい女王様。
もし、彼女のサクリアがなくなっても一人で聖地を出るなんてことはさせない。
どこまでも従っていくから。
ロザリアは少し驚いた顔をしたが、その手を優雅に取るとゆっくり歩き出した。

「こらー、なに、手、つないでんだよ!」 
ゼフェルが突然割って入って来て、オリヴィエははじき出される。
「お子様の癖に、邪魔するんじゃないよ!」 
オリヴィエもゼフェルを押し返す。
その隣でルヴァが「行きましょうかね~。」とロザリアに声をかけた。
「抜け駆けすんな!」 
今度はゼフェルとルヴァがもみ合いになり、そのすきにオリヴィエはロザリアの手を取って走り出した。
あわてて追いかけるゼフェルとルヴァを残りの守護聖がやれやれと言った雰囲気で眺めている。

聖地の今日は大安吉日。
オリヴィエはつないだ手に少し力を込める。
それに気付いたロザリアの瞳がどんな色をしているか、確かめたい。
まだその中に愛は残っている?
そのために走った。

FIN
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