「で?」
目を細めたリモージュが冷ややか~な視線を投げる。
今日の女子会は聖獣宇宙の女王の間。
テーブルには暖かなハチミツミルクティーが並んでいるのに、部屋の空気はどこか寒い。
…約一名の周囲を除いては。
「だから! 誤解だったんデス。
エルンストはワタシがしたくなさそうだって勝手に思い込んでたらしくて。
幼馴染ってこういうところがイマイチですよネ。
いつまでも子供のころの関係性が抜けないっていうか。」
大げさに肩をすくめて見せながらも、レイチェルの顔は終始にやけている。
吹きすさぶブリザードもなんのその。
うっとりとした瞳は、恋する少女そのものだ。
「恋人っていいよネ…。
好きなときにキスできるって、最高に楽しいヨ。」
呆れ顔のロザリアがコレットに視線を向けると、コレットは眉を八の字にして、小さく首を振って見せた。
二人がそっとため息をついても、レイチェルは気づかない。
あのイルミネーションの日から、ずっとレイチェルは浮かれていた。
もちろん執務をおろそかにすることはないが、周囲はかなりの困惑だ。
エルンストに恋愛話を振りにくいこともあって、レイチェルをぬるく見守っているのもよくないのだろう。
一緒にいる時間が長いコレットがその影響を一番受けていて…もう慣れたという、疲れた笑みをロザリアに向けている。
「ワタシはエルンストが嫌がってると思ってたんだよネ。
やっぱり思ったことはちゃんと言いあわないと!
あ~、らしくなく乙女モードになったのが失敗だったヨ。
ワタシはワタシ! ロザリア様達とは違うもんね。
これからもドンドン行っちゃうし!」
ガタッと椅子を揺らしたロザリアの腕をコレットが優しく引き留める。
柔らかく首を横に振るコレットの目は菩薩のようで…ロザリアも大人しく腰を戻すしかない。
一度、ミルクティで喉を潤したレイチェルは、またあの時のことを想いだしたらしい。
「はあ、恋ってす~て~き~。」
脳内でどんなミュージカルが上演されているのか。
一度覗いてみたい気もするが…。
想像しかけたリモージュもロザリアもコレットも、タイツを履いた王子姿のエルンストが登場したところで、ぶるっと体を震わせた。
「とりあえず、新宇宙も平和そうでなによりですわ。」
「はい…。 本当に平和です…。」
ロザリアのため息に消え入りそうな声で返事をするコレット。
うんうんと頷いて、ケーキをつつくリモージュ。
この後、純粋に執務上の要件で、エルンストがこの部屋を訪れるのだが…。
彼の人生初めての『冷やかされる』という体験が待っていることを、もちろんまだ知る由もないのだった。
FIN