1.
それはある報告から始まった。
「内戦が起きそうですって? あの惑星で?」
「はい、そのようです。」
王立研究院から急ぎでやってきた男は、はっきりと頷いた。
女王の間に集められたのは、女王アンジェリークと補佐官ロザリア。
それと9名の守護聖と教官・協力者のというごく近しい関係者だけ。
女王候補の二人は参加していない。
「困ったわね。」
女王は眉を寄せ、傍らのロザリアに視線を向けた。
「今更行かないわけにはいかないし、でも、危ないところには行かせたくないし…。」
「わたくしならかまいませんわ。 いざとなれば、逃げれば良いのですし。
そんな噂に怯んで、公式訪問を取りやめたとなれば、聖地の権威に傷がつきますもの。」
「でも…。 ロザリアに何かあったらと思うと、やっぱり心配だわ。」
女王は渋い顔をしたまま、中止とも言えずにいた。
ロザリアの言うことももっともだし、なによりもまだ噂の段階で、予兆も一切感じられない。
ここで公式訪問を取りやめた、となれば、その噂がかえって内戦の火種となりかねないのだ。
聖地においてはすべての決定権は女王にある。
しばらく、頭を抱えたアンジェリークは、やがて、うん、と大きく頷くと、皆の顔を見回した。
「護衛をつけましょう。 聖地で一番スーパーな護衛。 ロザリアを華麗に守ってくれるボディガードよ!」
なにをアホみたいなことを。
言いかけて、ロザリアは思い出した。
昨日までアンジェリークが読んでいた漫画が確かそんな内容だったのだ。
どこかの国のプリンセスとそのイケメンボディガードのラブストーリー。
下界で大人気と聞いて、ロザリアもぱらぱら読んでみたが、いかにもアンジェリークの好きそうな少女漫画だった。
あの夢見がちな潤んだ瞳…。
きっと今頃はロザリアと漫画のイケメンボディガードのめくるめく大恋愛物語を妄想しているに違いない。
こうなったアンジェリークは周囲の意見など耳を貸さない無双状態だ。
「そうね、スーパーな護衛なら、聖地で一番強い人じゃなきゃダメよね。」
アンジェリークはすっくと立ち上がり、高らかに宣言した。
「聖地で一番強い人を決めるバトル大会を開きましょう!
優勝者は出張の間のロザリアの護衛をしてもらうわ。 もちろん、寝食を共にしてね!」
「それは同室で、寝泊まりする、ということか?」
即座に突っ込みを入れたのはオスカーだ。
皆の瞳がギョッとオスカーに注目する。
「そうなるわね。 出張の間はロザリアに24時間つきっきりでいてもらうことになるから。」
「そんな! わたくしのプライバシーはどうなるんですの!?」
「身の安全が大事よ。ロザリア。 そうしてくれないとわたし、心配で聖地にいられないわ。
同じ部屋でずっと一緒に守ってもらわなきゃ。」
場合によっては、そっちのほうが危険なのではないか。
おそらくアンジェリークとロザリア以外はみんなそう思っただろうが、あえて突っ込むものはいなかった。
突っ込んだところで女王が引っ込むようなタイプではないと知っているし、なによりも。
女王の主催するバトル大会に優勝すれば、ロザリアと3泊4日の楽しい旅行が待っている。
そのことの方がその場にいた大多数の男子にとっては重要なことだったのだ。
かくして、バトル大会が幕を開けた。