Out of the blue

epilogue



数日後、ロザリアは聖地の博物館の宝物庫を訪れていた。
事件の反省から、今日は一人ではなくオリヴィエと一緒に来ている。
もちろん、あのダイヤを元に戻すためだ。

「アンジェから追求されて本当に大変でしたわ」
ため息をついたロザリアに
「私のところにも来たよ。『一緒の日に休むなんておかしいわ!ロザリアと一緒だったんでしょ?』ってね」
オリヴィエも笑いながら答えた。

実際、女王アンジェリークの猛攻に、何度か押しつぶされて、白状しそうになった。
けれど、オリヴィエは主星で限定エステ、ロザリアは病気で寝ていた。
真っ赤な嘘を二人で並べ、なんとか『偶然』で踏みとどまったのだ。

「これで元通りですわ」
ブルーダイヤのケースを展示室の棚に並べ、目録に丸印をつける。
ついこの間バツ印をつけたとき、絶体絶命の気持ちだったのが嘘のようだ。
にっこりと笑うロザリアに、オリヴィエの顔にも自然に笑みが浮かんだ。
博物館を出ると、聖地の暖かな太陽が、二人の上に降り注ぐ。

「結局、あのダイヤはあんたの家と関係あったの?」
オリヴィエが問うと、ロザリアは首を振った。
「わからないんですの。カタルヘナ家に書簡を送ったのですけれど、『家宝はたしかに当家に存在しますが、詳細についてはお答えできません』という回答でしたわ。・・・もう、父もいないんですもの。仕方ないですわよね」
雲を見上げたロザリアの横顔は、ハッとするほど儚げだ。
下界の時間は聖地に比べて、あまりにも早く過ぎ去ってしまうから。
いつかはロザリアに渡したいと願っていたブルーダイヤも、父の想いも、今は彼女の心の中に残っているだけだ。

「あ、そういえば、あの男がまたシュライヤに来いって言ってたよ」
話を変えようとして、オリヴィエがこぼすと、ロザリアは眉をぐっと寄せ、ものすごくイヤそうな顔をした。
「わたくしは行きたくありませんわ。あんな・・・変態のいるところ」
ロザリアにしてみれば、たくさんの女を侍らせたり、オリヴィエの身体を狙ったり、カシムはとんでもない変態なのだろう。
たしかにいい思い出、と言われれば、ほとんどないのだが。
なんとなく、気になるところはある。

「じゃあ、私一人で行ってみようかな」
「なんですって?本当に?」
なぜかロザリアは少し寂しそうに、睫を伏せて憂い顔を見せている。
「ん~、でもあんたがイヤだって言うなら止めるけどさ。でも、なんで?一人で行くのもダメなんて」
首をかしげたオリヴィエに、ロザリアがぽつりと呟く。

「だって、あの惑星は一夫多妻なのでしょう?あの男だって、綺麗な女性を6人も引き連れていて・・・わたくし、あなたが他の女性とそういうことをするなんて、そんなの絶対にイヤですわ」
「え?・・・それ、どういう意味?」

オリヴィエが聞き返すと、ロザリアは顔を真っ赤にして、いきなり走りだした。
補佐官のベールが風にふわりと舞い上がり、覗いた首筋までが赤く染まっていて。
それは今までとはまるで違う反応。
もしかしたら、友人のセーフティゾーンなんて、もうなくなっているのかもしれない。
オリヴィエの胸にくすぐったいような甘い想いが、むくむくとわき上がってくる。

「ああ、綺麗な空だね」
まるであのブルーダイヤのような。
まるで世界で一番大切な彼女の瞳のような。

オリヴィエはクスリと笑うと、小さくなっていく彼女の背中を追いかけたのだった。


FIN

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