Collaboration of B'z × Angelique
手の中のエルピス
『傷心』( 5th Mini Album「FRIENDS II」 収録 )
Illust by 美純様 Novel by ちゃおず
オリヴィエ×ディア、オリヴィエ×ロザリア
3.
空を幾多の星が流れ始めた。
新女王のサクリアによる宇宙の移動が始まったのだ。
表面上は何も変わらず、この宇宙に住む多くの人々はその変化に気づくこともない。
気付くのは守護聖や宇宙の行く末にかかわりのある人物だけだろう。
新しい宇宙に女王のサクリアが満ちてくる。
その波長にオリヴィエはなんとなく違和感を覚えた。
育成で幾度となく感じていた、アンジェリークのサクリアと微妙に違っている気がしたのだ。
女王として使うサクリアに戸惑っているのだろうか。
アンジェリークらしくもなく緊張しているのだろうか。
けれど、すぐに訪れた火急の呼び出しのおかげで、その違和感を確かめることはできない。
後ろ髪を引かれたまま、呼び出された謁見の間で、オリヴィエはすぐにその理由を理解した。
ジュリアスとクラヴィスの間に、新女王として立つ少女は間違いなくロザリアだったのだ。
「今夜、フェリシアが中の島に到着した。」
ジュリアスの声が響く。
「そして先ほど、無事、新女王の手により宇宙の移動も完了したところだ。
皆も安心してほしい。」
厳粛な面持ちで頷く守護聖達。
オリヴィエは静かに立つ彼らを横目で確かめた。
なぜ、彼らは何も言わないのか。
今朝まで、いや、ついさっきまで、中の島までエリューシオンがあと1つ。
フェリシアはあと3つほどの差があったはずだ。
「皆様、今日までありがとうございました。
これからは女王として、精一杯務めさせていただきます。 どうか手助けいただきますようにお願いしますわ。」
凛としたロザリアの言葉に皆が口々にお祝いを述べ始める。
和やかなムードの中、オリヴィエだけが何も言わずにその場に立ち尽くしていると、ふと、ロザリアが視線を向けた。
オリヴィエを認めて、一瞬目を見開いたロザリアは、すぐに笑みを浮かべた。
目を伏せるような、優しい笑みを。
一通りの祝いの言葉の後、ディアが始めた顛末話をオリヴィエは黙って聞いていた。
アンジェリークはある守護聖と結ばれ、女王試験を辞退したいと願い出たのだ。
今夜、アンジェリークに相談を受けたディアは、それを認め、急きょ、フェリシアにサクリアを送るように、ジュリアスとクラヴィスに命じた。
試験の勝敗を決定づけ、ロザリアを女王とするために。
そして、新女王ロザリアの手によって、宇宙の移動と旧宇宙の封印が行われたのだ。
「陛下。」
ジュリアスが進み出て、ロザリアを玉座へと導いた。
この瞬間から、ロザリアは『女王』となる。
彼女の背に輝くのは、まばゆい金の翼。
今までと同じドレスにも関わらず、玉座に座った彼女はたしかに女王の輝きを放っていた。
夜があけ、すぐに聖地で即位式が行われた。
改めて正装に身を包んだロザリアが新女王として前女王から宣誓を受ける。
オリヴィエは守護聖の列から、その姿をただ眺めていた。
ロザリアが女王になった。
その事実がなぜかオリヴィエの中で言いようのない苦い塊になっていて、上手く飲み込めないのだ。
女王になれば、今までのようにロザリアと話したり、ましてや体に触れることなど許されない。
だからなんだ、と頭の中で繰り返される同じ問答。
オリヴィエにとってのロザリアは、あくまで彼女の代わりに過ぎない少女だ。
やっと体が馴染んできたところだったのは事実だが、それこそ代わりはいくらでもいる。
なのに、この、塗りつぶされそうな閉塞感はなんなのだろう。
玉座のロザリアは一度もオリヴィエを見ない。
そのことにも苛立ってしまう。
ロザリアが朗々とこれからの聖地について語り始めた。
「アンジェリークは、妻として、彼の屋敷で暮らすことを許可します。
…補佐官としてではなくて、お友達として、聖殿に来てもらえるかしら?」
「うん! ありがとう、ロザリア。」
二人の間ではすでに約束ができていたのだろう。
アンジェリークは公式の役職にはつかず、伴侶となる守護聖の私設秘書ということになるらしい。
もちろんそれには、女王の世話係的なものも含まれているのだろう。
二人の少女を暖かい空気がつつむ。
そして、ロザリアは続けた。
「補佐官として、ディアを任命します。
先代同様、わたくしに仕えるように。」
オリヴィエは瞬間、息を飲んだ。
ロザリアの言葉が信じられずに、思わず玉座の彼女をじっと見つめると、初めて、視線が重なった。
綺麗な青い瞳。
深い哀しみと…同じくらいの愛がオリヴィエに向けられていた。
慌ただしく、夜が訪れる。
私邸でグラスを傾けていたオリヴィエは、夜風に揺れるカーテンの向こうに人影を認めた。
見慣れた影はためらうことなくカーテンをたくし上げ、部屋の中へと入ってくる。
長いローブで全身を隠していても、オリヴィエにはその人影の正体がわかっていた。
フードを下ろすと現れたのは、予想通りの薄桃の長い髪。
穏やかな笑みを浮かべた彼女がゆったりとした足取りでオリヴィエのもとへと近づいてくる。
オリヴィエは胸に倒れ込むように体を寄せてきたディアを抱きしめた。
貪るように交わされる口づけ。
オリヴィエが舌を唇に割り入れると、すぐに彼女は答えるように舌を絡めてくる。
唇の裏、歯茎、歯の裏まで舐めあい、唾液をからませては飲み込む。
口中を犯し合うような貪欲な口づけは長い間続き、どちらともなく唇を離したときには二人の唇の間に銀の糸が引いた。
彼女がクスリと笑い、銀の糸を舌でなめとる。
貞淑な昼の顔とは違う淫らな顔。
今の聖地ではオリヴィエだけが知る顔。
オリヴィエはローブと一緒に一気に彼女のドレスをはいだ。
こうなることをはじめから期待していたのだろう。
彼女のドレスは薄く、肩から簡単に胸までをはだけることができるものだった。
ボリュームのある柔らかなふくらみが目の前に現れると、オリヴィエはすでに硬く立ち上がっている先端を口に含んだ。
舌先で転がし、時に強く吸い上げると、彼女の体がびくんと震える。
掌で大きくふくらみを揉みしだき、指の先でもう片方の先端を摘まみ上げる。
慣れ親しんだディアの身体。
どこが一番彼女を悦ばせることができるのかも、当然知り尽くしている。
一方的に別れを告げられたあの夜からも、何度も思い出していた。
口で胸を愛撫しながら、オリヴィエは手を下腹部へと滑らせていく。
蜜にあふれている彼女の秘所に指を入れ、花芯をこすり上げた。
「はあん…。」
くちゅくちゅと音をたてて、中をかき混ぜると、喘ぎ声が彼女の口からこぼれてくる。
蠱惑的でとろけるような声は、あの夜までと少しも変わらない。
「オリヴィエ…。」
ねだるように名前を呼ぶ、その甘い声に、オリヴィエの胸にチリっとした痛みが湧いた。
『オリ、ヴィ、エさ、ま…。』
途切れ途切れに、それでも、想いのこもった声で、彼の名を呼んだ少女。
彼女の声は甘いというよりも、いつも切羽詰まっていた。
たどたどしく彼の舌を追いかけてきた幼いキス。
潤んだ青い瞳で必死に彼を見つめて、痛みを受け入れていたロザリア。
どうして、こんな時に、思い出すのだろう。
オリヴィエは指で中をこすりながら、再びディアに口づけた。
ディアの手がオリヴィエ自身を握り、絶えず指先が快感を与えてくるせいで、今にも破裂しそうだ。
唾液の絡む音、花弁から蜜のあふれる音。
淫らな水音と男女の匂いが部屋中を満たしていく。
オリヴィエはディアの両足を抱え上げると、自身を中に一気に沈めた。
花芯と中を同時にこすり上げ、彼女の性感を責めたてていく。
嬌声と身体を打ち付ける音が一層激しくなる。
快楽がすべてを支配する時間。
「ああん…。」
オリヴィエをぎゅっと締め付けて、ディアがのけぞる。
欲情に潤む桃色の瞳も、シーツに広がる、薄紅の長い髪も、見事なまでに妖艶で美しい。
何度も思い浮かべた彼女との情事。
それなのに。
「違うんだ…。」
いつの間にか口にしていた。
快感に漂いながら、それでも言わずにはいられなかった。
目に映る薄桃の光景が、今のオリヴィエにとっては、ただ空々しくしか見えなくなっていたから。
身体が快楽を覚えるほど、心が冷めていく。
オリヴィエの欲しいもの。
それは。
オリヴィエだけを見ていた瞳。 白い体を包む長い髪。
綺麗で純粋な青。
『違うよ。』
オリヴィエが言うと、ロザリアはいつも困ったような顔をしていた。
どうしていいのかわからず、途方に暮れたように青い瞳を揺らして。
オリヴィエがどれほど手荒く扱っても、彼女は彼を想い続けてくれて。
いつからだろう。
声を上げさせるようになったのは。
目隠しも手を縛ることもやめたのは。
彼女の手がぎゅっとオリヴィエの背中を抱くのを…愛おしいと思ったのは。
今更ながら知った自分の愚かさに、ぞくりと体が震える。
同時にオリヴィエは熱を吐き出した。
「あの人、もういないんですって。」
情事の余韻がディアを饒舌にしているのかもしれない。
しどけなくベッドに横ずわりした彼女は薄桃の髪をかき上げて、呟いた。
「ここを出てすぐに、事故、で。 …待ってるって言ったのに、ひどいわ。」
言葉は恨みがましいのに、ただ彼女からは哀しみだけが伝わってくる。
「だから、ここにいてもいいと思ったの。
ロザリア…新女王陛下がどうしても、と望んでくれましたし。
ねえ、…あなたがそうさせたの?」
オリヴィエは答えられなかった。
かつてはそう思っていたのだ。
新しい補佐官が誕生しなければいい、と。
なにも言ったことはなかったし、ロザリアがすべてを知っていたとも思わない。
けれど、彼女が何を想い、女王になる決意をしたのかはわかる。
ただ逃げ出して、アンジェリーク一人を聖地に残すようなことはできなかったのだ。
生真面目で悲しいほどに純粋なロザリアなりに考えた結論なのだろう。
女王になり、ディアを補佐官にすること。
…オリヴィエが再び、彼女との日々を取り戻せるように、と。
「私、やっぱりここを出ますわ。
あなたももう私は必要ではないでしょう?
アンジェリーク、あ、前女王のことよ。 彼女も私を待っていてくれていると思うの。
…あなたのこと、弄んだつもりじゃないわ。
ただ…寂しかったの。
彼が私を置いて行ってしまったから…。」
ディアが心から愛していた『彼』。
彼を失った寂しさをオリヴィエで埋めていたことを、今はもう恨む気持ちなどない。
自分も同じことをした。
ディアを失くした寂しさをロザリアで埋めようとした。
「お詫びにこれをおいていくわね。」
ディアが取り出したのは小さな金のカギ。
「女王の私室のカギですの。 これを使えば、誰にも知られずに、あの子のところへ行けますわ。」
動かないオリヴィエの手にディアは小さな鍵を握らせる。
意外なほど小さな鍵はディアの懐で温められていたのか、金属の特有の冷たさは感じられなかった。
「さようなら。」
オリヴィエの頬に唇が触れる。
狂おしいほど愛した人との最後の別れは、あっけないほどあっさりしていた。
もうとっくに終わっていたのだ。
彼女との間に残っていたのは、愛していた日々の残像に過ぎなかったのだ。
蜃気楼を追い続けた旅人が、本当のオアシスを見失い、永遠の暗闇に堕ちていったように。
オリヴィエもまた、目の前の想いに目をつぶったのだ。
追い続けていたものの答えを知り、オリヴィエは手の中のカギをぎゅっと握りしめた。
ロザリアに会いたい。
そして許されるならもう一度、この手に抱きたい。
カギを手にオリヴィエは屋敷を飛び出した。
ただ一つの真実の言葉をロザリアに伝えるために。