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19.


ロザリアは森に向かって、ただひたすらに足を動かし続けた。
以前は行けなかったというのに、今日はまるで招かれているような気がする。
あの場所で誰かが呼んでいるような。
木々の隙間で時々その呼び声の気配を追い、一度も迷うことなく、あの場所までたどり着いた。

オリヴィエと一緒の頃はいつも、この時間には帰途についていたから、日の沈む景色を見るのは初めてだ。
オレンジ色の光が灰色の雲を照らし、まるで世界が金の波に覆われているように見える。
ところどころの雲の隙間から、降りてくる天使の梯子。
目を見張るような景色の中、ロザリアはじっと、その金の波を見つめた。
柔らかな青紫の髪が風に揺れ、青い瞳は光の中でオレンジ色に染まっている。
黄金色に輝く遠くの大陸。
人々の姿の中に、彼が探していたのはきっと、ありし日の愛した少女だったのだろう。
彼女と二人で幸せに暮らしていたかもしれない未来を、その中に見ていたのだ。
オリヴィエの瞳の中にあった悲しみが、今ならば、わかる。
愛を失うということを自分も知ってしまったから。

試験の残りはあとわずかだ。
今ならば、試験を辞退してもアンジェリークが女王になることに異論を唱える者はいないだろう。
アンジェリークこそが女王にふさわしいと、ロザリアは感じていた。
誰よりも愛することを知っている。
愛されたいとばかり願う自分とは、違うのだ。
少し冷たい風に、ロザリアはコートの襟を合わせた。
ここは風が通るせいか、思っていたよりも肌寒い。
いつでも暖かい腕に包まれていたから、そんな簡単なことさえ、思いつかなかった。


一方、急ぎ足で森を抜けたオリヴィエは、あの場所に立っているロザリアを見つけた。
夕陽を浴びて、黄金色に輝く彼女は、まるで金の翼を持つ女神のようだ。
「…綺麗だね…。」
自然と声が出ていた。
びくっとロザリアが身体を震わせたが、こちらを振り向こうとはしない。
オリヴィエはゆっくりと彼女に近づくと、背中からその身体に腕を回した。
「落ちたら怪我するって言ったと思うんだけど。」
うつむいたままの彼女から答えはない。
けれど、確かに感じる、ぬくもり。
オリヴィエは壊れものを抱くように、そっと彼女を包み込んだ。

「オリヴィエ様。どうして…?」
震えるロザリアの声を聞いてしまったとたん、魔法のように身体が動かなくなった。
あの日以来、彼女の姿を見ることも避けていたのだ。
名前を呼ばれただけで、これほど心が震えることを、忘れてしまっていた。
「ここは私が最初に見つけたんだ。 来ててもおかしくないでしょ?」
今までのことなど何もなかったかのように、わざと明るく言うと、ロザリアは何も言い返さなかった。


黄金色の日ざしがだんだんと赤みを帯びてきた。
二人の身体が同じ色に染まり、同じ温度に変わっていく。
「あなたに好きだと言ってもらえて、わたくしは嬉しかった。あれほどの幸せを今まで知りませんでしたわ。」
オリヴィエはロザリアの薔薇の香りのする髪にそっと顔をうずめた。
背中から抱きしめているから、彼女の顔は見えない。
見てはいけないのだ。
もしあの青い瞳を見たなら、きっと、本当の想いが零れてしまう。
罪深い、許されない想いが。

「わたくしは女王にはなりません。」
オリヴィエの腕に、そっとロザリアの掌が触れる。
背後から抱えるオリヴィエの胸に、その存在を確かめるように、彼女が身体を寄せてくる。
腕の中にある、たしかなぬくもり。
その暖かさを知りたくはなかったのに。

オリヴィエは彼女の身体をくるりと反転させると、正面から見据えた。
ぬくもりから離れたロザリアの背中を冷たい風が吹きあがる。
けれど下がるはずの体温は、彼の熱い瞳に見つめられて、すぐに熱くなっていった。
「女王にならないなんて…。女王になることは、あんたの全てだった。 子供のころからずっと、それだけを目指してきたんだろう?
 もうちょっとで夢が叶うんだ。 それなのに、投げ出してしまうのかい?」
「気がついてしまったんですわ。わたくしは、一人の方しか愛せない。そして、一人の方から愛されたい。
 宇宙全部に愛を注ぐなんてできない…。
 こんなわたくしが女王になることなどできません。」
オリヴィエを見つめ返すまっすぐな青い瞳。
迷いのない、その瞳がいつでもオリヴィエを惹きつける。

「好きです…。オリヴィエ様…。 最後にきちんと言うことができて、よかった。」

彼女が下界へ降りれば、もう二度と会えない。 
愛する人を永遠に失う、あの感情を再び味わうのだろうか。永遠の闇に包まれていくような、あの苦しみを。
真実の心は、いつでもロザリアを求め、愛を叫んでいる。
彼女とここで出会い、別れることが運命だというのなら。
今度こそ、運命に逆らって、愛を貫きたい。
誰に許されなくても、宇宙がここで潰えたとしても。


「代わりなんかじゃない…。」
彼女の手首を掴んで引き寄せ、オリヴィエは腕の中にロザリアを抱きしめた。
わずかでも、離れていられたことが、今はもう信じられない。
この想いは偽りなく。
オリヴィエの全身がロザリアを求めている。
「あんたを愛してるんだ…。 誰の代わりでもない。 あんたを…。」
一度言葉に出してしまった想いは、溢れてとどまることができない。

オリヴィエはロザリアの頬を両手で包み込むと、冷えた唇を温めるように重ね合わせた。
柔らかな彼女の唇に触れるだけのキスを。
そして、全てを奪うような、零れ落ちる吐息までも残さず絡め取るような、激しいキスを。
唇から頬へ、耳へ、鼻先へ。そして再び唇へ。
離れていた分まで取り戻すように。
オリヴィエがようやく唇を離したとき、ロザリアは瞳を潤ませて彼の腕に身体を預けていた。
夢でも見ているようにぼんやりとオリヴィエだけを見つめている。
実際、ロザリアは今のキスが現実なのか夢なのか、わからなくなっていた。
夢ならば覚めてほしくない。

「オリヴィエ様…。」
ロザリアが腕に力を込めて、彼の身体を抱きしめると、それ以上の力で、オリヴィエが抱き返してくれる。
突然、ロザリアは自分の身体が宙に浮き、抱きかかえられているのだとわかった。
オリヴィエの首に手を回し、彼の連れて行きたい場所へ連れて行ってほしいと、身体で伝える。
彼の足はいつも二人が休んだ木陰に向かっているようだ。
頬をうずめた彼の胸の鼓動が信じられないほど早くて、ロザリアは不思議ほど落ち着いた。
柔らかな草の上に横たえられ、目を閉じると、オリヴィエの金の髪が頬に触れる。
暖かい唇になぜか涙がこぼれた。


いつの間にか空に星が輝いている。
彼の陶器のように滑らかな肩越しに見える一面の星空に、ロザリアは宇宙に包まれているような気がして、思わず息をついた。
身体に感じるオリヴィエの重みがふと和らいで、優しい口づけが降りてくる。
「寒い?」
「いいえ…。とても暖かいですわ…。」
素肌が触れ合う個所は、まるでその部分が火のように熱い。
彼の手や唇がロザリアの冷たかった身体を熱く変えてしまった。
少女らしい夢として思い描いていたこととは、確かに違っていた。
天蓋のついたベッドも、艶やかなサテンのシーツも、人々の祝福もない。
あるのは、愛する人と星空だけ。
それでも、ロザリアは、最高の喜びに震えて、彼を迎え入れていた。

オリヴィエは草の上に美しく流れる青紫の髪のひと房を摘むと、指を絡ませた。
愛おしくて、愛おしくて、彼女の瞳に映る星でさえも嫉妬してしまいそうだ。
身体中に口づけを落とし、何度熱を注いでも、まだ想いの数百分の一すら伝えていないような気がする。
全てが欲しい。全てを与えたい。
この想いと引き換えならば、なにも惜しいモノはない。
オリヴィエは小さく祈りをささげた。
何も知らない彼女には、どうか罰を与えませんように。
知りながら罪を犯した自分にこそ、全ての罰を与えてくれますように。
安らかに眠るロザリアの瞼にオリヴィエはそっと口づけた。



真夜中を過ぎた頃。
コツコツとヒールの音が聞こえてきて、アンジェリークは目をこすった。
ロザリア達を待って、着のみ着のまま、いつのまにか眠ってしまっていたのだ。
布団をきていなかったせいか、ぶるっと身体が震えるし、変な姿勢を続けたせいで、関節が痛い。
それでも、アンジェリークは勢いだけで飛び起きると、廊下へ躍り出た。
「ロザリア!」
割れ鐘のようにガラガラな自分の声に驚いたけれど、そんなことは無視して、ロザリアの首にしがみついた。
「どこ行ってたの~~~!!!」
泣いちゃダメ、と思いながらも、滲んでくる瞳。
アンジェリークはぎゅっとしがみついたまま、黙り込んだ。

「ごめんなさい。」
ロザリアはアンジェリークの背中を何度も撫でた。
優しい手の動きに、ロザリアの中の苦しみが消えていることが分かる。
暖かな慈愛のサクリアが、アンジェリークのそれと感応するように輝きを増していくと、金の光が二人を包み込んだ。
「ロザリア…。オリヴィエ様と?」
「ええ。」
混じり合う金色の暖かな光。
「じゃあ、もう帰るなんて言わないよね?」
「でも…。」
「でも、も、だって、もないの! わたしから離れるなんて許さないんだから!
 わたし、ロザリアが大好きなの! 一緒じゃなきゃ、イヤなの!」
「あんたって、ホントに…。」
ロザリアは撫でていた掌でアンジェリークの背中を力強く抱いた。
同時に、アンジェリークから暖かな光が流れ込んでくる。
「わたくしの大切な親友だわ。 ありがとう。わたくしと出会ってくれて。」


ロザリアがアンジェリークと抱き合っているのを、後ろから見ていたオリヴィエは、肩を叩かれて振り向いた。
グレイの瞳が気遣わしげに、オリヴィエを見つめている。
オリヴィエが微笑むと、ルヴァは彼の腕を掴み、アンジェリークの部屋へと連れ込んだ。
有無を言わさないその勢いに、オリヴィエは引きずられていくしかない。
バタン、と後ろ手にドアを閉めたルヴァは、心ここに在らずといった風情で、うろうろと部屋を歩き回った。
なにから言おうかと、迷っているのだろう。
ルヴァの心配が胸に痛い。

「あんたの言いたいことならわかってる。
 でも、黙ってて欲しんだ。ロザリアにだけは。」
オリヴィエは辛そうな笑みを浮かべると、まだ歩きまわるルヴァに言った。
許されないことだとわかっている。 
ルヴァのような人格者に、到底理解できないだろうことも。
それでもなお、止めることのない想いがあるのだ。
ルヴァはぴたりと足を止め、長い長いため息をついた。

「きっと、あなた方はそうなるだろうと思っていましたよ~。 恋の力は恐ろしいものですから。」
自分もアンジェリークと出会って、変わったことが多い。
今、ここにこうしていること自体、おそらく大きな変化だろう。
前回の女王試験のときには、何もできなかったのだから。

「どんな罰も私が受ける。 ディアに言いたいなら言ってもいい。
 ただ、ロザリアにだけは言わないでほしんだ…。
 もしあの子が私との関係を知ったら、きっと自分自身を許さない。
 あの子がいない世界に、私も生きていけないんだ…。この宇宙がどうなっても…。」

言葉の中に込められた強い想い。
もし引き裂こうとしたなら、彼は迷わずに命さえ捨てるだろう。
足を止めたルヴァは再び、深いため息をついた。
けれど、そのため息がなぜか楽しげに聞こえて、オリヴィエは首をかしげた。
説得しようと思っていたわけではない。
素直な自分の想いを、誰かに伝えたかったのだ。
ルヴァならば、わかってくれるかもしれないと思った。

ルヴァは困ったように眉を寄せて、うつむいている。
「まさかこんなに早く…。 いえ、あなた達の想いが強いことは十分わかっていたつもりだったんですが…。
 本当に、わかっているつもりでも、人の心というのは、常に謎ですね。」
何やらぶつぶつと言い続けているルヴァに、今度はオリヴィエがため息をついた。
言いたいことは伝えた。
実際のところ、ルヴァは誰にも言わないだろうと確信している。
早くロザリアのところに戻ろうと足を動かしたオリヴィエに気がついたのか、ルヴァが顔を上げた。


「あなたとロザリアは何の関係もありませんよ。 全くの他人です。
 これを調べるために、今日、わざわざ主星まで行って来たんですよ~。
 なのに、一番にあなたにお知らせしようと思ったら留守だし、アンジェリークからは泣きながら電話してくるし、まったく大変でした~。」

うんうんと頷いたルヴァの肩をオリヴィエはぐっと掴んだ。
力を込めた指先が血の気を失い白くなる。
「ちょっと! 今、なんて言ったの?」
強い力にルヴァの顔が歪んだ。
けれど、ルヴァはそのことを咎めることもせず、オリヴィエに向かって微笑んだ。

「あなた達に血のつながりなんてありませんよ。オリヴィエ。 あなたの勘違いです。」
「勘違い…? そんなバカな!!
 確かに証拠はなかったけど、否定できる理由もなかったはずだよ?!」
肩を掴んだまま、揺さぶられたルヴァは、目を白黒させながら、ポケットから、2枚の写真をとりだした。

「これは、あなたも知っていますよね。 結婚式の写真です。
 たしか、あなたの師匠がデザインしたドレスでしたよね~。ロザリアに似て、とても綺麗な人です。」
純白のウェディングドレスを着て、微笑むリアーヌ。
隣に立つ夫と腕を組み、晴れやかな表情は、まさに花嫁にふさわしい。
カタルヘナ一族と新郎新婦が映る、その一枚の写真には見覚えがあった。
オリヴィエがロザリアとの関係を確かめに行った時に、ロザリアの父が見せてくれたものだ。

「そして、こっち。 婚約式の写真です。」
こちらでのリアーヌはオリヴィエの作った青いドレスを着ている。
彼女の瞳と同じ、サファイヤブルー。
ここでの彼女は婚約者のそばに静かにたたずんでいた。
一族が映る同じような2枚の写真だが、こちらには見覚えがない。
怪訝そうに顔を上げたオリヴィエに、ルヴァが頷いた。
「婚約式の写真は、あなたが訪ねた後に探して出てきたモノなんだそうです。
 守護聖が調べに来た、ということでね。 ロザリアの父君が整理して下さったんですよ。」
「で、これがどうかしたの?」
ロザリアに似た青い瞳が写真の中から見つめてくる。
彼女への愛を失くしてしまったことを責められているような気がして、オリヴィエは目を逸らした。

「気が付きませんか? あなたの記憶が確かならば、この2枚の写真が撮られた日時は、たった1カ月しか離れていないことになります。」
婚約式の1ヵ月後が結婚式。
何度も頭の中で考えていたから、間違いない。
「おかしいでしょう? たった1カ月で、この子が、こんなに大きくなりますか?」
ルヴァが指差した先に、金の髪をした子供の姿がある。
婚約式の写真では母親に抱かれていた赤子が、結婚式の写真では立ち上がり、母親にしがみついていた。
「同じ子供…?」
「ええ。 たった1カ月でこんなに大きくなったら、それこそホラーでしょう?
 なので、確認していただいたんですよ。
 そうしたら、ね。 この2枚の間に、実際は、1年半の間があるんです。」
「なんだって?」

オリヴィエは2枚の写真を両手に持って、まじまじと見比べた。
大人にとって、一年半の年月は大差がない。
けれど、さっきの子供以外にも、大きく変わっている子供たちが何人かいる。

「婚約式のすぐ後に、カタルヘナ家では不幸がありました。 先代当主の奥方が亡くなられたんですね。
 そこで、結婚式が延期になったんです。ただ、すでに婚約式を終えていたので、そのまま新生活は続けられた。
 わかりますか? この結婚式の時に、すでに彼女は実質的に奥方だったんですよ。
 昔のことですから、そういう忌事はあえて記さなかったんでしょうね。 写真が唯一の証人だったわけです。」

婚約式の一年半後の結婚式から7ヶ月後に生まれた子供。
それが真実なら、その子供は間違いなく、夫であるカタルヘナ家の子供だ。
「私とロザリアは、愛し合っててもいいんだね…。」
ぽつりと零れた言葉は、鎖を解くカギのように、オリヴィエの全身にいきわたっていく。
あれほど苦しんだ重い鎖が消えたのだ。
じっとその喜びを噛みしめているオリヴィエを、ルヴァが穏やかに見つめていた。



隣のロザリアの部屋では、すっかり勢いを取り戻したアンジェリークが、ロザリアを質問攻めにしていた。
「わたしだって全部話したんだから。」というアンジェリークに、ロザリアはため息をつく。
別に聞いてもいないのに、勝手に全部話したのはアンジェリークの方だ。
それなのに、なぜ。
「言えませんわ。 話したら、あんたがオリヴィエ様を好きになっちゃうかもしれないもの。」
つんと顎を上げれば、「ない、ない、絶対ない!」と、首をぶんぶん振るアンジェリーク。
「まあ、失礼ね!」
青い瞳を吊り上げたロザリアに、アンジェリークが今度はふんと顎を上げる。
意識しなくても似てきているのだろう。お互いに。

「だって、ルヴァ様はね、キスの時に絶対に『好きですよ』っていってくれるんだから!」
「そんなこと! オリヴィエ様なんて、『愛してる』って、言ってくださるわ!」
「あの時だって、かわいいって10回は言ってくれるんだから!」
「あら、わたくしは、綺麗だって言われましたわ。」

ぎゃいぎゃいと廊下まで響いてくる話し声に、ドアの前に立っていたオリヴィエとルヴァは赤面するしかない。
「あんたって、しゃべりながらするタイプだったんだね。意外。」
「いや~、やっぱりオリヴィエはお上手なんですねぇ。」
痛かった、痛くなかったの声が聞こえ始め、二人は同時にため息をついた。
この次の時は絶対に口止めしておかなければ、ベッドでの秘密の会話まで筒抜けになってしまう。
お互いのテクニックなど、知りたくもない。
「はあ、どうしましょうか…。」
「ま、これも運命だと思ってさ、諦めようか。」
恋人が親友同士という、特別で微妙な関係の二人は、力なく、ドアを背にして座り込んだ。
せっかく楽しそうな女子会を邪魔しないように。

すると、急に中が静かになったことに気がついた。
「ね、アンジェ。」
真剣みを帯びたロザリアの声に、オリヴィエは耳をそばだてた。
「わたくしが昨日言ったこと。 嘘じゃありませんわ。
 あんたの方が女王にふさわしいと、わたくしは思っていますの。」
「なんで? ロザリアの方が建物多いじゃない?」
「そんなこと…。 あんたはいつだって、みんなを幸せにしてるわ。
 わたくしも、あんたがいたから、こうして笑ってられるの。 この力は女王の力よ。」
「わたしはロザリアの方が女王っぽいと思うけどな。」
ふくれっつらのアンジェリークの顔が思い浮かぶ。
ちらりと隣を見れば、ルヴァも同じだったようで、楽しそうに笑みを浮かべていた。

「だいたい、わたくしのような完璧な人間が女王になったって面白くもなんともないじゃない?」
「えー!」
「頭が回り過ぎて、人から信用されないし。 そうね、自分でも実は参謀タイプなんじゃないかと思うわ。 腹黒いのね、きっと。」
そんなセリフを平然とのたまうロザリアに苦笑した。
たしかに彼女は万人に愛されるタイプではないだろう。
もちろん自分にとってはその方がありがたいのだが。
「うっかり者の女王にしっかり者の補佐官か…。ビジュアル的にもいいかもね。」
思わずオリヴィエが呟くと、ルヴァも「そうかもしれませんね~。」と頷いている。

「女王になっても恋はできるわ。 そんなつまらない慣例、わたくし達が潰してしまえばいいのよ。」
「うん! そうだね。 ロザリアならできるよ。」
「ホラ、やっぱりわたくしが補佐官になって、暗躍した方がいいのよ。
 あんたはぽやーっと玉座でニコニコしてたらいいの。」
「むー。わたしだって、なんかしたいのにー。」
「いるだけでいいのよ。 女王陛下はみんなに愛されるべき存在なんだから。」

きっとどちらが女王になっても前例のない宇宙になるだろう。
オリヴィエは楽しみな未来を想像して、くすっと笑みをこぼした。

その3日後。
新女王が立ち、新しい時代が始まった。


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