きっと君を思い出す


気が付くと、飛空都市の私邸の書斎に戻っていた。
カチコチとなる時計の針を見やれば、さっきから1時間余りが過ぎている。
「眠って…しまったのか。」
額にそっと手をやれば、じんわりと汗がにじんでいる。
今まで目を背けていたことをはっきりと突き付けられたのだ。
『女王』は誰が選ぶのか。
それは真に女王の力を欲している者でしかありえない。

「わかっただろう?」
聴こえてきた声にジュリアスは返事をしなかった。
答えてしまえば、認めることになる。

「女王は彼女でなければならない。」

ぼんやりと、部屋の片隅に浮かびあがる光。
その中心にいるのは、くたびれた様子の老人だ。
生気のない佇まいで、今にも膝から崩れ落ちそうな身体を杖にしがみつくようにして支えている。
おそらくかつては立派だったのであろう衣服も、年月を経てすり切れたのか、色褪せ、裾のほつれが目立っていた。
けれど、その身を包む光は薄れていても、ジュリアスのよく知る暖かさを持っていて。
彼が何者であるかを、雄弁に語っていた。

「彼女こそが次代の女王。
 その力でなければ、この宇宙を支えることはできない。」
「どうして、それを…私に言う」
ジュリアスが絞りだせば、老人は
「知れたことを。」
杖でカツっと床を一叩きした。

すると、杖の先の床がぐにゃりと変質し、ジュリアスがかつて見た映像が映し出される。
「これが星の未来。」
荒れ果てた砂の地。
砂の中にポツリと残されている鉄の塊が、わずかに今の文明の名残をとどめるだけの、死の世界。
そこから、次々と切り替わる映像は、全て、ジュリアスも見たことのある星の末路だった。

「この宇宙の未来を、お前だけが選べるのだ。
 光の守護聖、ジュリアスよ。」

薄明かりが消え、再びしんとした夜の静けさがよみがえる。
無音の世界はいやでも、見せ続けられたあの夢の世界を思い出させ、ジュリアスの心を追い立てた。
この宇宙が崩壊しかけていることは、守護聖ならばみな気が付いている。
だからこその女王試験。
知っていたのに、彼女を愛してしまった。
この宇宙にとって、絶対唯一無二の存在である女王となるべき、彼女を。

「ロザリア…。」

正解は一つ。
そしてジュリアスはその正解を知っている。
だとすれば、出来ることは決まっているのに、手放したくない思いが強すぎて、どうしても最後の決断ができない。
まんじりともしないまま、時間だけが過ぎていく。
カーテンの隙間から、眩しい朝日がのぞき、ジュリアスは立ち上がった。

小鳥のさえずり。
暖かな光。
優しい風。
胸が痛いほど、美しい世界。
光の守護聖として、このすべての生命を失うことはできない。

試験開始156日目。
それは、ジュリアスにとって、永遠に忘れることのできない日になった。


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