きっと君を思い出す

女王試験142日目


日の曜日に、互いの想いを確かめ合って以来、ジュリアスはロザリアが女王試験を辞退することを考えるようになっていた。
本来、許されないタブーであることはわかっている。
かつて、同じ想いを抱えながら、別れざるを得なかった恋人同士がいたことも知っている。
ただ彼らと違うのは、ロザリア自身がジュリアスと人生を歩むと誓ってくれたことだ。
女王よりも、ジュリアスを選ぶ、と。

幸いなことに女王候補は二人いる。
アンジェリークが新女王に立ってくれるならば、何の問題もないはずなのだ。
そして、アンジェリークは女王になる意思があると、ロザリアを通じて聞いていた。
あとは、時期を見計らうだけ。
幸せの道はすぐそこまで通じているのだ。

今、ロザリアは一層育成に励むようになっている。
試験で与えられた大陸とはいえ、フェリシアを自身の分身のように思っている彼女にとって、女王候補の辞退で一番心配なのは大陸の行く末のようだった。
中の島にたどり着くことができなくても、住人たちがこの先困ることがないように、大陸を整えておきたい。
それまではあとしばらく、このまま試験を続けたい。
生真面目で優しいロザリアらしい申し出に、ジュリアスは頷いた。
これから長い人生を共に歩むのだから、焦ることはない。
ロザリアの気のすむまで試験を続ける、という約束をして、今まで通りの穏やかな日常が続いていた。


「ジュリアス様!」
執務室にやってきたアンジェリークはなにか言いたげに、顔がニヤニヤしている。
名目上の理由は『育成』でも、本音はロザリアとのあれこれをからかいに来たのだろう。
素直なのはアンジェリークの長所だが、女王となれば大きなマイナスだ。
ジュリアスはあえてしかめっ面で、執務机からアンジェリークを見つめた。

「ジュリアス様、わたしには怖い顔なんですね~。 ロザリアにはあーんなに優しいのに。」
唇を尖らせるアンジェリークに
「私はいつもこの顔だ。」
と返せば
「そんなことないです~。 この間、ロザリアの部屋で会った時は、ジュリアス様、こんな顔でしたよ。」
アンジェリークは両人差し指で目尻をだらんと下げた顔をしてみせる。

本当にそんな顔をしているのだろうか。
ジュリアスの内心の動揺を見透かしたように、アンジェリークがくすくすと笑いだした。
「ウソです。 ここまではひどくないです。 デレデレしてるとは思いますけど。」
デレデレとは。
少し傷ついたが、たしかにロザリアと想いあうようになってから、自分は変わったと思う。
眉間の皺も心なしか薄くなった気がするから不思議だ。
なんとなく顔がにやけてしまうと、それ以上にニヤニヤした顔のアンジェリークと目が合った。

「わたしが女王になったら、聖地は恋愛解禁にしよっと。
 そしたらジュリアス様も遠慮なく結婚してくださいね。
 あ~、ロザリアのウェディングドレス姿、綺麗だろうな~。」
「な、なにを。」
言いかけて、ジュリアスはハッと口をつぐんだ。
アンジェリークにからかわれているようでは、まだまだ未熟だ。
「少し育成するのだな。 わかった。 覚えておく。」
ジュリアスはそう言って、アンジェリークを追い出すと、再び執務に取り掛かり始めた。


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