きっと恋だった


4.

待ち合わせの場所に佇むロザリアは、明らかに周囲の人間とは違うオーラを放っている。
その美貌はもちろんのこと、すらりとしているのにメリハリのあるスタイルは、そうそうお目にかかれるレベルではない。
風に靡く青紫の巻き髪。
ごく普通の白いワンピースをオートクチュールのように着こなす気品。
通り過ぎる人々が、わざわざ振り返って二度見してしまうのも頷ける。
主に男たちがざわめいていることもロザリアは全く気が付いていないのか、平然とした態度で、その場に立っていた。

「ごめん、待たせちゃったね」
オリヴィエが声をかけると、注がれていた視線が一斉に落胆へと変わった。
今日のオリヴィエはデートを意識して、男性らしいファッションで、メイクも肌を整える程度に抑えている。
美貌のロザリアにふさわしい男の登場に、ある種の諦めが広がっているのだろう。
「行こうか」
ロザリアの背中に手を添え、さりげなくエスコートする。
貴族の社交界で育ったロザリアはエスコートをされることに慣れているせいか、2人の動きは洗練されて見えているらしい。
今度は感嘆のため息が聞こえてきて、オリヴィエは優越感に浸っていた。


目当てのジュエリーショップは主星のメインストリートの一角にあった。
2人が店の前に立つと、ドアマンが恭しく扉を開け、店員が近づいてくる。
一見ではあるけれど、明らかに上流階級の匂いのする上客だと認識されたらしい。
店員同士が目配せしあい、少し年上の女性が、オリヴィエに声をかけてきた。

「なにかお探しでしょうか?」
物腰も柔らかく、笑顔も自然な接客に慣れたベテランのようだ。
「雑誌に載ってたネックレスを見せて欲しいんだけど」
オリヴィエが尋ねると、すぐにショーケースからあのネックレスを出してくれた。
「写真よりもずっと綺麗ですわ」
プラチナのデコラティブな台に小ぶりなサファイヤが1つ。
写真以上の真っ青な色味で、良質な石なのがよくわかる。

ロザリアが目を輝かせてオリヴィエを見ると、店員が早速、彼女の首にネックレスをつけた。
彼女の青紫の髪と青い瞳に、サファイヤは良く似合っていて、店員からも嘘のない賞賛が浴びせらている。
「実は、こちらと同じデザインで、もう少し大きな石を使ったものがあるんですよ」
にこやかに店員が奥のケースから出してきたのは、石の大きさがほぼ二倍くらいのネックレス。
デコラティブな台座のせいもあって、同じデザインとはいえ、まるで違うモノのようだ。

素早く、ネックレスを付け替えた店員が
「素晴らしいですわ。本当によくお似合いですこと」
若干、ハイテンションで褒めたたえているのは、純粋に彼女に似合っていることもあるけれど、その値段だろう。
石の大きさは二倍だが、価格は10倍以上。
軽く車が買えるほどの値段になっている。

「…どちらがいいかしら?」
大きい方をつけたロザリアが、鏡越しにオリヴィエに尋ねてきた。
たしかに今の大きさの方が、よりゴージャスで華やかだろう。
でも、
「うーん、私はさっきの方がいいかな。こっちだとネックレスに目が行き過ぎて、あんたの瞳のサファイヤが生きない気がするよ。普段使いもしにくそうだし」
率直に告げると、ロザリアも小さく頷いた。
もしかしたら、彼女も同じことを思っていたのかもしれない。

そして、
「さきほどの小ぶりな方をいただけるかしら。こちらのカードでお願いいたしますわ」
バッグからカードを取り出して、店員にお願いしている。
あまりの素早さに、オリヴィエは自分がプレゼントする、と言い出すタイミングを逃してしまった。
本当に彼女に似合っていたから。
ささやかだけれど、久しぶりにお出かけの記念にしたかったのだ。


ジュエリーショップを出ると、すぐ、2人は近くのカフェに入った。
同じ紅茶を2人ともオーダーして、くすっと笑いあう。
ロザリアとはこういう小さな事が重なることが多くて、気が合うのだな、と感じてしまう。
早速、オリヴィエは頬杖をついて、紅茶を一口飲んだ。
だらしない姿勢なのに、オリヴィエがやれば、ちょっと粋になる。
自分の美しさを十分に知っているからこそできるポーズだ。

「ね、さっきのネックレス、私にプレゼントさせてよ」
オリヴィエが言うと、ロザリアは
「え?どうしてすの?わたくし、そんなつもりでご一緒したわけではありませんわ」
少し不愉快そうに眉をひそめている。

「今日の記念にさ、久しぶりのデートだったし、それくらいさせてくれたっていいじゃない?」
ぱちん、と長いまつ毛がはためくようにウインクをすれば、ロザリアはうっすらと笑みを浮かべている。
この微笑みは、彼女があまりいい気分じゃないときの笑い方。
そこそこの長い付き合いでよくわかっているだけにドキッとする。

「オリヴィエに買っていただく理由がありませんわ。今日のデートの記念、だなんて、まるで恋人同士みたいなセリフ。そういうことは本気の相手だけになさったほうがよろしいですわよ」
バクバクとオリヴィエの心臓がいやな音を立てている。
デートの時に、男が女の子にちょっとしたプレゼントをするなんて、ごく当たり前のことだと思っていたのに、ロザリアから食らったのは完全な拒否。

『恋人でもない男性からは、なにももらいたくない』
そうは言っても、今までの女の子たちはみんな喜んでくれていたし、ロザリアだって、以前、服をプレゼントしたときはあんなに喜んでくれていたではないか。
たしかにジュエリーは少し金額が張るけれど、守護聖のお財布事情からしてみれば、大した額ではない。
ありがたくもらってくれるのも、優しさのような気がする。
けれど、ロザリアはそんなオリヴィエの不満をよそに、
「オリヴィエのセンスは信じていますから、アドバイスをしていただいて感謝していますのよ。店員あしらいもさすがにお上手ですし。わたくし一人だったら大きい方を買わされていたかもしれませんわ」
さりげなく持ち上げてくる。
センスを褒められれば素直に嬉しい。
小ぶりなサファイヤは彼女の白い肌の美しさをきちんと引き立たせているし、今日のワンピースにもとても似合っている。

「わたくしも補佐官として、きちんと仕事をしておりますのよ。自分の欲しいものは自分で買いますわ」
凛と背筋を伸ばして、今度は本当の笑みを浮かべる。
ロザリアの表情はとてもすがすがしく美しく。
オリヴィエはなぜか、紅茶がとても苦く感じたのだった。


ブティックのウインドウをひやかして、気に入ったものを購入していくと、2人でかなりの荷物になった。
カジュアルなイタリアンで軽く夕食を済ませ、テイクアウトのお店で、つまみになりそうなハムやチーズを買っていく。
長い夜のおともに、軽い赤ワインも欠かせない。
「荷物持ちをさせてしまってごめんなさい」
ロザリアの家について、ショッパーを床に下したオリヴィエに、ロザリアが頭を下げる。
「ショッピングって楽しいよね。…それにしても買いすぎたかな?」
オリヴィエが見立てたロザリアの服だけで、かるく5つはある。
自分用の小物やシャツもいれれば、これだけでひと財産になりそうだ。

「ふふ。オリヴィエのおススメはどれも欲しくなってしまうんですもの。困りますわ」
袋から出した新しいワンピースを体に当てたロザリアが、くるりと回転して見せると、ひらひらと柔らかなレースの裾が、天使の羽のように舞う。
綺麗なロザリアとのショッピングはオリヴィエにとっても、とても楽しいのだ。
ロザリアが買った服を片付けににクローゼットルームに向かうと、オリヴィエはワインとつまみをテーブルに広げた。
シャワーの音がうっすら聞こえてきたから、もう少し時間がかかるだろうと、ついでにグラスとお皿やカトラリーも並べておく。

「あら、ありがとうございます」
綺麗にセッティングされたテーブルを見て、楽なコットンのワンピースに着替えたロザリアが顔を輝かせた。
些細な気配りだが、案外、これがスムーズにできる男は少ないのだ。
「オリヴィエはいい夫になれますわね」
ちん、とワイングラスを合わせ、2人で乾杯をした。
適当に買ってきたワインはフレッシュな酸味がすっきりしていて、とても飲みやすいし、チーズやハムもやはり主星の一等地に店を構えているだけのことはある品物だった。

一口、二口とアルコールが入ると、お互いに思考が軽くなる。
駆け引きのように目くばせし合い、思わせぶりな誘いをかけあって。
視線が絡まって数回、オリヴィエは手を伸ばし、ロザリアを抱き寄せると、唇を重ねた。
長い夜の始まりの合図。
ちゅ、ちゅ、と唇を合わせて、ついばむようなキスを繰り返していくと、ロザリアの瞳がとろんと蕩けてくる。
オリヴィエは下腹部の熱に促されるまま、ロザリアの胸元を解いて、鎖骨を強く吸い上げた。
そのまま、ワンピースのすそから手を入れ、ゆっくりと腿を撫で上げていく。
滑らかな肌は極上の手触りだ。
漏れ聞こえてくる甘い声も、この後の淫靡な時間への期待を否が応でも高めてくれた。

「ふふ、オリヴィエったら…こんなに細身で綺麗な身体ですのに、本当にお好きですのね」
オリヴィエの手がぴたりと止まる。
「好き?」
「ええ。昨日もあの女官と2回もしたそうじゃありませんの。それで、今日はわたくしとでしょう? いったいどれくらいすれば、満足なさるのかしら? 一人の女性ではとても応じきれないでしょうね」
オリヴィエの鎖骨を人差し指でなぞるロザリアの瞳は、ひんやりと冷たい。
「なんで…?」
昨日のことまで知っているのか。
ぞっと背筋に冷たい汗がこぼれてくる。

「昨日、彼女がうちまで来ましたの。こと細かく教えてくださいましたわ。一回目が正常位で二回目はバックですってね。あなたのテクニックがすごくて、ずっとイキっぱなしだったとか」
「あの子が…?」
「わざわざ言いに来るだなんて、よっぽどあなたとのセックスが気持ちよかったのでしょうね。…たしか、結婚の予定で下界に降りるはずでしたけれど、あの様子では婚約者で満足できるかしら。心配になってしまいますわ」
ロザリアは心から心配している様子だ。

「あ、オリヴィエ様は咥えられるのが好きですよ、とも教えてくださったんですけれど…わたくしはあまり気が進みませんから、他の女性の時にお願いしてくださいませね」
にっこりと笑うロザリアに、悪意はないのかもしれない。
けれど、オリヴィエの熱はすっと冷めてしまった。

昨日、あの情事の後、女官はわざわざここにきて、何がしたかったのか。
抱いてほしいと請われて、あれほど気持ちよくしてあげたのに、なぜ、そんなことをしたのか。
わからない。

「…あら、なんだか萎えてしまったみたいですわね」
ロザリアの手がオリヴィエの股間に伸びる。
「今日はお疲れみたいですし、お帰りになった方がよろしいんじゃないかしら? わたくしも休みますわ」
ぐい、とオリヴィエの身体をソファに押し返して、ロザリアは立ち上がった。
長い青紫の髪を背中に払い、楽し気に目を細めている。
「ショッピング、とても楽しかったですわ。オリヴィエのセンスはやっぱり素敵ですもの。またお買い物に付き合ってくださいませね」
当たり前のコットンのワンピースで、優雅な淑女の礼。
まっすぐ前を向いて、ロザリアは寝室の方へと歩いて行った。



最悪の気分の日の曜日に、尋ねてきたのはオスカーだった。
夕方の柔らかな風が、窓辺のカーテンを静かに揺らし、長身のオスカーの長い影が、部屋の壁まで伸びている。
オリヴィエはあからさまに不愉快そうな顔で、彼の前にワインとスコッチのボトルを置いて、早々に手酌を始めた。
「氷とか水が欲しかったら、自分でとってきてよね」
「ああ」
苦笑したオスカーがキッチンから氷をいれたグラスを持ってくると、オリヴィエはそこへスコッチを注いだ。
琥珀色に染まった氷がグラスに当たって、からんと澄んだ音を奏でる。

「なんの用?」
「特にあるわけじゃないさ。たまにはお前と飲むのも悪くないと思ってな」
一杯目を煽るように飲んだオスカーは、喉の焼け付きを惜しむように目を細めた。
「美味い」
「でしょ?私が選んでんだから当たり前」
オリヴィエが混ぜ返すと、オスカーもふっと笑みをこぼす。
けれど、二杯目を注いだオスカーの目が鋭く光った。

「…酒の趣味はいいかもしれないが、女の趣味はあんまり、だな」
「それ、どういう意味?」
オリヴィエは寝そべっていたソファから体を起こして、オスカーを睨んだ。
涼しい顔でグラスの氷をわざと鳴らしたオスカーは、その鋭い視線をしっかりと受け取けとめている。
「金の曜日だが、俺もあの時にいたんだ」
オリヴィエの眉がぴくっと動く。

「誤解しないでくれ。俺とロザリアはそういう関係じゃない。あの日は、俺がロザリアに渡さなきゃならない書類を家に忘れてきたせいで、彼女に自宅で待っていてもらったんだ」
一緒に聖殿を出たが、途中でオスカーは私邸に書類を取りに戻り、その後、ロザリアの家に届けたということらしい。
「どうしても彼女の確認が必要でな。仕方がなかったんだ」
その程度のことならよくある話だ。
オリヴィエだって、必要な資料を家に取りに戻ったりする。
「で、その確認の作業を2人でした後、彼女とお茶をしていたところに、あの女官がやってきたんだ……ひどいもんだったぜ」


呼び鈴がなって、ロザリアが玄関で対応するのを、オスカーはそのまま待っていた。
執務後にわざわざ補佐官宅まで押しかけるような輩はこの聖地にはいないだろうし、せいぜい宅配くらいだろうと思っていたのだ。
ところが、どうやら訪問者は女性のようで、ヒステリックな叫び声がオスカーのいる部屋まで聞こえてくる。
やがて、バタバタと大きな足音がして、部屋に人が飛び込んできた。
「ほらやっぱりオスカー様がいらっしゃるじゃないですか」
「……執務のためですわ」
興奮した女とは対照的にロザリアは無表情だ。

「いいんです、隠さなくても。オリヴィエ様なら私がちゃんとお慰めしておきましたから。ロザリア様はよーくご存知だと思いますけれど、オリヴィエ様って本当にセックスが上手ですよね。今日も私、何回イッたことか……。あ、ちなみに初めが前からで2回目が後ろからですよ。もう、すごい突き上げで腰がガクガクしてます~」
女は情事の内容をこと細かく喋り続けている。
どんな風にオリヴィエが女の身体を愛撫したか。
どうやって挿入して動いたか。
ロザリアが黙って聞いているから、オスカーも何も言えなかったが、さすがに聞くに耐えない内容だ。

「私が咥えてあげたら、オリヴィエ様はすごく喜んで、ロザリア様はしてくれないって不満そうでしたよ。気取ってばかりいたら、飽きられちゃうんじゃないですか?」
「……いい加減にしてくれ」
女の口調に嘲りの色を感じて、とうとうオスカーは口を挟んだ。
オスカーをちらりと見た女は急に黙り込む。
存在に気づいていなかったとは思えないが、女も興奮しすぎているのだろう。
今度はオスカーの前に立ちふさがり、まくし立ててきた。

「オスカー様はこの方がオリヴィエ様とも関係してることご存知なんですか?毎週毎週、月の曜日から、いやらしくヤリまくってましたよ。こんな簡単に寝る女性とはちゃんとした交際しない方がオスカー様のためです。まあ、手ごろな遊びならいいかもしれませんけどね」
言いたいことを言ったのか、女はふん、と鼻を鳴らすと、来た時よりも足音を立てて、屋敷を出て行った。

「…たしか、もうすぐ退官するはずの女性だったな」
「さすがよくご存じですこと」
くすっと声は笑っているが、ロザリアの目は無表情なままだ。
まだ、女王候補だったころ、彼女はよくこういう顔をしていたものだった。
完璧な女王候補としての仮面。
今、ロザリアはどんな感情を隠すために、完璧な補佐官の仮面を着けているのだろう。

「君がオリヴィエとそういう仲だとは知らなかった」
これはオスカーの本心だ。
男女関係に関しては鋭い方だと自負していたが、まさか身近のこの二人が深い関係だったとは全く気が付かなかった。
もともと仲がよかったせいもあるが、オリヴィエが同僚に手を出すような男だと思っていなかったせいもある。
面倒が嫌いなオリヴィエが、もっとも避けるような相手だから。

「付き合っているわけではありませんわ」
「俺に隠す必要はないだろう?補佐官と守護聖のカップルは、今までだってあったんだぜ」
オスカーの脳裏に、かつての桃色の髪の補佐官と金の髪の守護聖の姿が浮かぶ。
大っぴらにしていたわけではないが、2人はひそかな公認ではあったのだ。
オスカーも仲睦まじい2人の姿に少し憧れた程だ。

「本当に付き合ってはいないんですの。ただ…たまにお互い遊びで楽しむだけですわ」
「冗談だろう?」
ロザリアのような女性が、遊びで簡単に身体を許すとはオスカーには信じられなかった。

だからつい、試すつもりで、
「遊びというなら、俺ともしてみないか?アイツと比べても負けない自信はあるぜ」
くいっとロザリアの顎を持ち上げ、アイスブルーの瞳で見つめてみる。
全宇宙の女性をとろかせる自信のある、艶めいた瞳。
誘われている、と誰もが頬を赤らめるような。
けれど逆に、ロザリアは小さく肩を落とし、物憂げにまつ毛を伏せた。

「本当に……殿方というのは、少しの愛の欠片も必要となさいませんのね」
そのあまりに悲し気な声に、オスカーの手から力が抜ける。
彼女の嘆きはオスカーだけではない、男というもの全般に向けられているように思えた。
きっと彼女は誰かに愛を捧げたのだ。
オスカーの知るロザリアという少女は、女王試験も補佐官の執務も、一途に取り組む少女だから。
人を愛することにも、全身全霊で真っ直ぐに向かっていったはずだ。
けれど、男は、彼女がささげた愛を必要としなかったのだろう。

「すまなかった。…冗談だと思って忘れくれると助かる」
「ええ。最近のわたくしはとても忘れっぽいみたいですから、今日のことはすぐに全部忘れてしまうと思いますわ」
それはさっきの女のことも含めて、ということに違いない。
暗に、オスカーにも他言しないで欲しいと頼んでいるのだ。
彼女の強さがとても哀しくて、オスカーは何気なくお茶の続きをすることしかできなかった。


「今までだって、結構やってきたのに、今回はちょっと失敗だったかな。おとなしそうな子に見えたんだけど」
オリヴィエは肩をすくめて、グラスにワインを継ぎ足した。
まさか、ロザリアのところに乗り込むとは完全に予想外だった。
そのおかげで、ロザリアとの週に一度の情事はフイになってしまったし、実はかなり怒っていたのかもしれないと思う。
あのロザリアの冷たい目。
来週、ベッドに連れ込むまで、かなり機嫌をとらないといけなくなりそうだ。
ごくりとワインを飲み込むと、オリヴィエはオスカーがじっと自分を見ていることに気が付いた。
見慣れたアイスブルーのはずなのに、今日は何かがいつもと違う。

「俺もお前も、かなり最低な男なのかもしれないな」
「は?今更?」

ため息交じりのオスカーの本音を、オリヴィエは笑ってごまかした。
最低だなんてことは、かなり前から知っている。
けれど、今の生き方をどう変えればいいのか、オリヴィエにはよくわからなかった。
その時、楽しく。
毎日を美しい夢のように。
それが夢の守護聖という存在では無いのか。

飲むだけにも飽きた2人は連れ立って、下界に降りた。
容姿に釣られて寄ってくる女をそれぞれに抱いて楽しむ。
後腐れなく快楽を得るためだけの行為。
今まで通りの当たり前の夜の過ごし方のはずなのに、何故か虚しい気がしていた。


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