3月の雪

4.


こつん、と額に何かが当たって、ロザリアはハッと意識を取り戻した。
目の前にはロザリアを覗き込む、少し呆れたようなダークブルーの瞳。
オリヴィエのネイルで小突かれたのだとわかると、少し痛い額を抑えてロザリアは彼を軽くにらんだ。
「せっかくお茶してるっていうのに、上の空だったあんたの方がヒドイと思うんだけど。」
「あ…。」
きょろきょろとあたりを見回してみれば、そこはいつものカフェで。
テーブルの上には少し冷めかけた紅茶と手の付けられていない洋ナシのタルト。
そして、憮然としているオリヴィエがいた。

「ご、ごめんなさい…。」
途端に小さくなって謝罪を口にするロザリアに、オリヴィエは大げさにため息をつく。
「いいけどね。 なにか気になることがあるなら、言ってみなよ。」
ロザリアの顔がわずかにほころんだ。
オリヴィエはこうしていつもロザリアを助けてくれる。
ちょっとわかりにくい美的感覚と皮肉な雰囲気に隠されてしまうけれど、さりげない優しさと差し伸べてくれる手はいつも暖かい。
そんな彼だから、こんなにも惹かれてしまうのだ。
でも。

「なんでもありませんの。 少し夜更かしをしてしまって。」
今の悩みをオリヴィエに打ち明けることはできない。
ロザリア自身、確信の持てないことだし、下手に騒ぎ立てれば、オリヴィエを巻き込んでしまう。
これは事故の当事者である、自分の問題なのだ。
困ったように笑うことしかできず、ロザリアは慌てて話題を変えた。


紅茶を飲み終えた頃、補佐官付きの女官が呼びに来て、ロザリアは休憩時間の終了を前に、戻って行ってしまった。
どこかほっとしたようにも見えたのは、オリヴィエの気のせいだろうか。
たわいもない会話にもかかわらず、少し緊張した顔をしていたロザリア。
立ち去る彼女の背中を見送りながら、オリヴィエは額にかかる前髪を煩わしそうにかきあげた。
この間から、ロザリアの様子がおかしい。
やっと事故のショックから立ち直ったと思ったのに、またなにかを気にしているようだ。
今までなら少し水を向ければ、大抵ことは相談してくれていたのに、今回はオリヴィエに言えない事らしい。
それがオリヴィエにとっても、とても不安でたまらない。

ロザリアは貴族らしい堂々とした態度から誤解されやすいが、とても繊細な少女だ。
一人で抱え込んでしまうことも多く、そんな彼女を放っておけないと思ってしまったのが、気になり始めた理由の一つでもある。
なにか憂いがあるのなら、手助けしたい。
けれど、ただの同僚という今の立場では、これ以上踏み込めないのも事実だ。

休憩時間が終わると、途端にカフェからは人影が消える。
オリヴィエは冷めた紅茶を口に運び、執務に頭を切り替えた。
またこの次にでも、ロザリアに尋ねてみればいい。
機会はいつでもあるのだから。



ペン先が紙にひっかかり、先から染み出したインクがじわりと書類を黒く染める。
ロザリアはため息をついて、吸い取り紙を取ると、染み出たインクを取ろうと試みた。
染み込んだ部分は仕方がないとしても、文字が読めなくなるような事態は避けられたことに、ほっとする。
こんな失態は珍しい。
なんとなく原因はわかっているのだが、認めたくなくて、ロザリアは吸い取り紙をぎゅっと押し付けたまま、小さくため息をついた。

紙についた染みは、まるで自分の心に落ちた小さな疑惑のよう。
オスカーの屋敷を訪ねたあの日から、ロザリアはオスカーを目で追ってしまう自分に気づいていた。
重い塊が胸の奥に落ちているような、なにかすっきりしない感覚がどうしても拭えない。
それはオスカーを見るたびに大きくなるような気がするのだ。
ただそれが何なのかがわからない。
漠然とした勘程度ではオリヴィエにも相談できないし、ましてオスカーに直接尋ねることはできない。

モヤモヤを抱えているせいで、お茶の時間のオリヴィエとの会話もいつもと違ってしまった。
心配そうなオリヴィエの瞳が思い浮かんで、キュッと胸が詰まる。
もしも彼が恋人なら、この胸の不安を打ち明けることもできるだろう。
けれど、ただの同僚に過ぎない今の立場で、こんなことは言えない。
吸い取り紙を丸めてゴミ箱に放りこんで、ぼんやりしていると、ドアが鳴った。


「やあ、ロザリア。」
明るい栗色の髪と笑顔。
憂鬱な気分を吹き飛ばしてしまうランディの空気に、ロザリアも思わず笑顔になって出迎えた。
「あら、どうなさったの? お茶をいれましょうか?」
立ち上がりかけたロザリアをランディは手で制する。
「いいんだ。ちょっとした報告だから。
 この間、オスカー様の話をしただろう? あれからすぐにまた朝の稽古を始めてくれたんだ。
 きっと、君がなにかしてくれたんだよな。 ありがとう。」
「まあ。」

嬉しそうなランディの様子。
ロザリアも心の奥で安堵していた。
剣が振るえるほど快復しているならば、やはり自分の杞憂だったのだ。
うじうじ考えていたことがばからしく思える。
「ケガの後だから、俺にも少しは勝てるチャンスがあるんじゃないか、なんて思ったんだけど、全然だったよ。
 さすがオスカー様だよな。」
ランディはひとしきり剣の稽古の様子を話すと、
「じゃあ、本当にありがとう。 君にも心配かけてしまってごめん。」と部屋を出ていった。

本来は剣の稽古に無関係なロザリアのところにわざわざ報告に来てくれたのはランディの優しさだろう。
彼は彼でずいぶん悩んでいたに違いない。
ロザリアはオスカーにしごかれているランディの姿を思い浮かべて、くすっと笑みをこぼした。
女王候補のころ、オスカーの屋敷でたびたび目にした光景。
真剣に向かっていくランディを、オスカーは軽く剣先で交わしていたものだ。
ようやく当たり前の日常に戻れた気がして、ロザリアはペンを握り直した。

「…オリヴィエにも話しておいた方がいいかしら。」
さっきのお茶の時間、彼がロザリアの様子を気にしていたのはわかっている。
なにもなかったと伝えておくべきなのか。
けれど、どうでもいいことでうじうじと悩んでいたのだという事を知られるのが、なんとなく気になった。
この頃、ようやく一人前の補佐官として、オリヴィエも認めてくれているというのに、またこんなことを言えば、子供だと思われてしまうに違いない。
女王候補時代から、少しも変わらない二人の距離。
早く彼に追いつきたい。…一人の女性として見てもらいたい。
そのためには黙っておいた方がいいだろう。
ロザリアは頭を振り、執務に専念することにしたのだが、すぐにその集中は途切れる羽目になった。

「あら…。」
サインを書こうとして取り上げた書類は3枚綴りの一枚が欠けている。
ちらりと署名欄を見れば意外な名前が書かれていた。
「オスカーにしては珍しいですわね。」
オスカーは執務に関しては有能で、ミスなどは滅多にない。
決していい噂ばかりでないオスカーのプライベートに、ジュリアスが口を出さないのもこのおかげなのだ。
これがゼフェルあたりなら、また別にも出てくるかもしれないと、いったん保留にするのだが…。
ロザリアは書類を手に取ると、オスカーの執務室に向かった。



コンコン、と軽やかにノックをし、ドアを開ける。
「きゃ!」
可愛らしい女性の声と飛び込んできた光景にロザリアは目を見開き…すぐに逸らした。
執務机に靠れるようにして立っているオスカー。
そのそばに最近女王の間に配属になったばかりの年若い女官が頬を上気させ、瞳を潤ませて立っている。
尋常でない様子なのは、二人の距離感でわかる。
ようするに近すぎるのだ。 
抱き合っていたのではないかと思えるほどに。

「し、失礼します!」
慌てたように横を女官が通り抜けていき、ロザリアはため息をついた。
「よう、麗しの補佐官殿。 何か御用かな?」
しれっとしたオスカーの態度に、ロザリアは再びため息をつくと、彼の顔の真正面に書類を突き出した。
「ええ、お邪魔してしまってごめんなさい。 …この書類の続きを取りに来ただけですの。」
「続き?」
怪訝そうにロザリアの手にぶら下がっている書類を見たオスカーは、机の上のクリアファイルの束を取った。
「ああ、悪かった。 まだ一枚挟まっていたな。 わざわざ君にご足労をかけて申し訳なかった。」
普通ならあんな場面を見られたら、もっと慌てたりするのではないだろうか。
差し出されるまま、書類を受け取ったロザリアは、相変わらず余裕の表情で自分を見下ろすオスカーにくすっと笑みをこぼした。

「よかったですわ。」
「なんだ?」
「あなたが全然変わっていなくて。」
「…どういう意味かな? お姫様。」
オスカーは額にかかる緋色の髪をかき上げると、ロザリアを見て目を細めた。
「これでも、わたくし、心配していましたのよ。 あなたのケガはきちんと回復しているのかしら?
 気持ちが落ち込んだりしていないかしら? って。
 …どうやら無用のようでしたけれど。」
「ほう。」
オスカーがにやりと笑みを浮かべる。

「心配してくれていたのか? 
 もっと重病なふりをして、君に看病してもらうべきだったかな。 …残念なことをした。」
からかうような口調なのに。
ふとオスカーを見上げたロザリアは、アイスブルーの瞳が悲しげに揺れたような気がした。
けれど、それはすぐに消えて、いつもの人を食ったような色に変わる。
しかもかなりイヤな感じの笑みまで浮かんでいて、ロザリアは眉を寄せた。

「今からでも遅くないぜ。 どうする? また、食べさせてくれるなら大人しく口を開けるが?」
「遠慮しておきますわ。 さきほどの可愛い女官にでも頼んでみたらいかが?」
書類を口の中に押し込んでやろうか、という凶暴な考えを封印して、ロザリアはさっさと踵を返した。
廊下を歩く足音が知らずに険悪になってしまう。
オスカーときたら、本当に人を馬鹿にして、軽薄で、女癖が悪くて。
…本当に心配して損した。
補佐官室に戻ったロザリアは、オスカーから受け取った書類に大きなサインをして籠に放り込んだのだった。


ロザリアのヒールの音が遠くなると、オスカーは詰めていた息を大きく吐き出した。
その顔から笑みは消え、一面を暗い影が覆う。
女官の前であやうく犯しかけた失態を取り繕うためのモーションだったとはいえ、タイミングが悪すぎる。
これでまた、ロザリアの中で自分はろくでもない男だと認識されたことだろう。
「まあ、そのほうがいいかもしれないが。」
ふっとこぼれた笑みは苦いものだ。

オスカーは左手の拳をぐっと握ると、すぐに力を抜いた。
さっきよりはかなり力が入る。
これなら間違っても落とした書類を拾い上げるのに苦労する、なんてことにはならないはずだ。
あの時の女官のいぶかしげな瞳を思い出すと、背筋が冷える。
隠し通さなければ。
妙に重たく感じる手が恐ろしくて、オスカーは再びグッと拳を握った。



数日後の土の曜日。
オリヴィエとロザリアは久しぶりに下界へ降りて、ディナーを楽しんでいた。
以前から時々二人で出かけることはあったのだが、あの事故以来、どちらともなく控えていたのだ。
最後に出かけたのは、事故のすぐ後の夜だから、本当に久しぶりと言ってもいいだろう。

素晴らしい料理とお酒に、途切れない会話。
あっという間に時間が過ぎ、二人は連れ立って店を出た。
「とてもいいお店でしたわ。 ありがとう、オリヴィエ。」
にっこりとほほ笑んだロザリアに、オリヴィエも軽く笑みを返した。
ふさぎがちだったロザリアを少しでも楽しませたいと、彼女の好きなメニューを選んだ。
こっそり特注したデザートのシャルロットポワールに目を輝かせたロザリアに、オリヴィエも大いに満足したのだ。
少し強引に連れ出してしまい、はじめこそ戸惑っていたが、あの笑顔ならもう怒ってはいないだろう。

並んで歩く街路樹は色とりどりのイルミネーションが煌めき、たくさんの男女が笑いながら行き過ぎていく。
オリヴィエとロザリアもその人波にまぎれるように、ゆっくりと歩いていった。
はたから見れば、まるで恋人同士。
けれど、当人同士は全くそう思っていない。
ロザリアは自分たちが場違いな気すらしていた。

手を伸ばせば繋がれる距離。
さりげなくオリヴィエが隣に並ぼうとすると、なぜかロザリアは歩くペースを落とし、少し後ろに下がってしまう。
何度か手が触れそうになっても、そのたびに慌てて距離を開けられてしまうのだ。
やはりまだ自分たちには早いのかもしれない、と、オリヴィエはそれ以上近づくことをあきらめた。

もしももう少し、明るい場所ならばロザリアの頬が耳まで赤く染まり、その表情が困惑に満ちていることが分かっただろう。
ロザリアにとって、父親以外の男性と並んで歩くことさえ、女王候補になるまでほとんどなかったのだ。
オリヴィエの手が近づくたびに、ドキドキして足がもつれてしまう。
一度、手を伸ばしかけて、別の人にぶつかってしまい、それからは周囲の人ばかりが気になってきた。

触れたい。
でも、触れられない。
恋人同士でもないのに、手を繋ぎたいなんて、オリヴィエに知られたら、はしたないと軽蔑されてしまうかもしれない。
さまざまな想いが頭の中をぐるぐると回り、ロザリアはまるで地面に足が付かない状態だった。
けれど、オリヴィエは、ロザリアにその気がないのだと思い込んでいた。
長過ぎる微妙な関係がオリヴィエをわずかに臆病にしていたのかもしれない。
今の関係を壊してしまいそうで、強引になることができなくなっていたのだ。


「キレイですわ。」
大通りの中ほどまで歩き、広場にたどり着いたロザリアは感嘆の声をあげた。
中央にある大きな木は、一段と見事なイルミネーションが施されて、その下には二人と同じように立ち止まるカップルが数多くいる。
木の幹まで走り寄ったロザリアは
「カメラを持ってくればよかったですわ。」 と、残念そうにつぶやいた。
本音を言えば、写真を取り合うカップルたちが羨ましい。

イルミネーションのきらめきで、オリヴィエがキラキラと輝いて見える。
下界で目立たないように、と、いつもよりも落ち着いた服装であることが、彼自身の魅力を一層引き出しているのだ。
整った顔立ちやスタイルの良さは、ほの暗い明かりでもはっきりとわかる。
事実、カップルで来ているにもかかわらず、彼をチラチラと見る女の子の視線が止むことはない。
見惚れる、とはまさにこのこと。
ロザリアがわざと顔をそむけていると、オリヴィエも木の下に近づいてきた。

オリヴィエのことで頭がいっぱいのロザリアは気づいていなかったが、木の下にいるロザリアもやはり人々の視線にさらされていたのだ。
女の子連れでいるにもかかわらず、ついロザリアを見る男たち。
あからさまに二度見する者もいる。
大抵はオリヴィエの鋭い視線に気が付いて慌てて目を逸らすが、面白くないのは間違いない。
ロザリア自身はその視線に気づいていないから、まるで無防備に笑顔を見せている。
キラキラとしたイルミネーション以上に、輝く青い瞳。
単にきれいなモノなら見慣れているのに、心臓が踊り出して困るほどだ。
それをロザリアには見せないくらいの経験は積んでいるけれど。
いずれにしても、二人ともが本当に人目を集めてしまう容姿だし、ましてや二人並んでいれば、言わずもがな、だ。
オリヴィエはロザリアを周囲の視線から隠すように、彼女を木の影へと押しやった。

「ネックレス、着けてくれたんだね。 やっぱり似合ってるよ。」
少し開いたワンピースの胸元を上品に飾るネックレスは、先日プレゼントしたものだ。
青い石は光を弾き、ロザリアをイルミネーションの一部のように輝かせている。
笑みを浮かべたオリヴィエにロザリアも微笑み返すと、指でネックレスの石を摘まみ上げ、オリヴィエに見せた。
「本当に素敵な色なんですもの。
 オリヴィエのセンスは素晴らしいですわ。」
「ふふ。あんたが何でも似合うんだよ。 私はその手伝いをするだけ。」

その時、ふとあたりの喧騒が消え、世界に二人きりのような錯覚が落ちた。
じっとオリヴィエを見つめるロザリアの瞳。
思わず、言葉が出た。
「きっと純白のドレスも似合うだろうね。
 その隣にいるのが私だったら嬉しいんだけど。」

「え?」
呆然、という言葉以外、思いつかないほど、びっくりしたロザリアの顔に、オリヴィエはハッと我に返った。
まだ早い、と、さっき感じたばかりなのに、雰囲気につい口を滑らせたことに後悔する。
「なーんてね。」
冗談にしてしまおう、とウインクをした瞬間、辺りが真昼のように明るくなり、賑やかな音楽が流れ出した。

静かだった人々から歓声が上がり、あちこちでまた写真を取り合う姿が目に入る。
この演出を待って、さっきまでの一瞬が静まり返っていたのだ。
人の数もドンドン増え、騒がしくなってくる。
人々の熱気に押し出されるように、オリヴィエとロザリアは広場を後にした。


オリヴィエの後をロザリアが一生懸命についてくる。
けれど、人波に慣れていないロザリアは、なんとなく足元が危うそうだ。
「はぐれないようにね。」
混雑のせいだと頭の中で言い訳して、ようやくオリヴィエはロザリアの手を取った。
指と指が重なる程度のふれあい。
ロザリアの細い指は軽く握るだけで壊れてしまいそうに思えて、しっかりと握ることができない。
それでも、暖かさは伝わってくる。
まるで少年のようだと自嘲しながらも、なかなかオリヴィエは手を離せずにいた。

「もう大丈夫だよ。」
星の小道の直前で、ようやくオリヴィエは手を離した。
なにも言わず、手を引かれるまま歩いていたロザリア。
けれど、そんなロザリアの様子はあまり好意的ではないように、オリヴィエには見えてしまっていたのだ。
嫌がられてはいないことが唯一の救い。
近くてもまだ遠いことを実感して、ため息の代わりに、彼女を振り返ることなく先に星の小道に足を踏み入れる。
そのせいで、顔を赤くして足を震わせているロザリアの姿が目に入ることはなかった。


「じゃあね、おやすみ。」
門の前での別れの挨拶もいつもと同じ。
ロザリアは小さくなるオリヴィエの背中が消えていくまで見送った。
きっとオリヴィエにとって、手を繋ぐなんてなんでもないこと。
星の小道の前で、さっと手を離したオリヴィエの顔は、なんのためらいもなくて。
ドキドキしていたのは自分だけなのだと思い知らされた気がした。
はぐれないように。
子供みたいに。
ただオリヴィエが純粋な優しさからそうしただけなのだと、自分に言い聞かせる。

ロザリアもオリヴィエも。
手の触れ合った箇所を確かめるように大切に胸に抱いていたことを、お互いに知らずにいたのだった。


Page Top