1.きっかけはほんの些細なことで
「…泣いてんの?」「泣いてなんかいませんわ!」
「たかが一回定期審査に負けたくらいで泣いてどうすんの?」
「泣いてなんていません!」
気の強い彼女の泣き顔を他の誰にも見せたくなくて、胸に抱き寄せた。
2.貴方の一言だけでテンションは乱高下
「好きだよ。」「!」
「キレイな花はなんでも。 特に好きなのはカトレアだけどね。」
花のことだってわかっているけれど。
『好き』という言葉をあなたの口から聴くだけで、心臓が壊れてしまいそう。
3.一目でも会えれば、その日は一日幸せで
「おはよ☆」「おはようございます。」
毎日同じ時間、同じ場所で同じ言葉。 一度なら偶然でも、毎日なら必然。
去っていく青紫の背中に
「…なんでわかんないかねぇ。」
思わず愚痴りたくもなる。
4.ずっとこの想いを抱えていてもいいですか?
『新女王陛下に乾杯!』滅びかけた宇宙から新しい宇宙へ。 皆が喜ぶ声の中、玉座の彼女の青い瞳と目が合った。
「…女王になったからって、手加減なんかしないよ?」
早速、部屋に忍び込む手順を頭の中で考えて、シャンパンを飲み干した。
5.気持ちばかりが空回りして
「女王候補が恋なんて。」ロザリアはきっぱりと言い切るけれど、青い瞳の周囲は真っ赤で、目の下にはクマができている。
オリヴィエ様だって、自慢のネイルが剥げているわ。
だから。
「恋する気持ちは止められないもん!」
ホラ、わたしが先にルールなんてぶち壊してあげる。
6.あの子の事が気になって、なにも手につかない
9時。…まだ10時。やっと11時?!いっそ時計なんて無くなってしまえばいいのに。
「オリヴィエ。 よろしければ、お昼をご一緒しませんこと?」
やっともたらされた福音に、オリヴィエは満面の笑みで立ち上がる。
その直後、机の上のたくさんの未決書類に彼女の眉が寄った。
7.大好きな気持ちで胸がいっぱいで
「え、もう食べないの? あんたの好きなシャルロットポワールだよ?」目の前のケーキは、まだ2/3を残している。
お腹が空いていないわけではなくて、ただ、いっぱいいっぱいなだけ。
初めてのオリヴィエの屋敷。 初めての私室。
…そして、さっきの初めてのキスで。
8.やべぇ、すげぇ可愛いんですけど
「ヘンじゃないかしら?」「別にいーんじゃねーの。」
精一杯のオシャレ、とやらを、オレに見せられたって困るだけだ。
それにどうせ何着て行ったって、あのオカマヤローは『可愛い☆』なんて気色わりぃ事を平気で言うに決まってる。
オレだってホントはなぁ。…言わねえけど。
9.時折合う視線
「では。これで決定します。」玉座から宣言し、補佐官のアンジェリークに合図を送ると、眼下の守護聖達を見渡す。
惑星一つの存続に関わる重要な裁定。 きっと内心では反対している者もいるだろう。
でも。
優しいダークブルーがほほ笑んでいるだけで、わたくしは安堵できた。
10.あなたに伝えたい言の葉
「昨日、怖い夢を見てしまって。」「いつも一緒のぬいぐるみを洗濯してしまって。」
「目覚ましが壊れてしまって。」
どれもこれもピンと来ない。
「…あなたのメイクをしていない顔を見たいんですの。」
これなら彼も気が付いてくれるかしら。…帰らないでほしいという事に。
11.視線も合わせられないのに、目は離せなくて
「いつもチャラチャラして軽薄そうですし、お化粧なんかして女性みたいだし…。」でも、実は気配り上手だし、頭の回転も早いし、意外と手は男性らしく力強い。
悪い所をあげるたびに、その倍はいい所が思い浮かんでしまう。
「好みのタイプ…ではないんですのに。」
もう手遅れ。
12.彼女の気持ちは誰に向かっている?
咲き始めたばかりの薔薇のような姿に、綺麗な物が大好きな私のセンサーは嫌でも反応してしまう。最初はルックス。今は中身も。 まるごと可愛くてたまんない。 なのに。
「またアンジェったら!」
あの子といる時の彼女が一番可愛いって、すごくすごく困る。 まさか…ねぇ?
13.私は貴方をこんなに意識しているのに
「さ、目を閉じて。」メイクの特別講習も、もう何度目か。 最後の仕上げに彼がリップをつけてくれるのも、いつもの事。
ふっと顎下に触れる彼の指に、高鳴る胸。 上がってくる体温。
「チークはいらないかな。」
顔が赤くなっている理由を、あなたは気づいてもくれない。
14.いつかは伝わると信じたい
「あ。」「まあ。」すれ違った廊下で、同時に声を上げた。
「あんたも?」「あなたもですの?」
「新商品はチェックしてるからね☆」「わたくしはたまたま店先で…。」
「偶然だね。」「本当に。」
実はお互いに相手に似合いそうだと思って纏った香りだとは…まだ気づかない。
15.他の人に笑顔を向けないで
ずきん。本来なら喜ばなければいけないはず。
人見知りで硬い鎧をまとっていた彼女が、ルヴァに笑いかけているんだから。
なのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
わざとらしくカップを落として、気を引いた自分が情けなくて…初めてホントの気持ちに気が付いた。
16.好きな人のためなら、自分なんて幾らでも変えてみせる!!
カワイイ女の子が好きだと聞いたから。髪もふわふわにして、メイクだってピンクにして。
アンジェリークから服を借りて、話し方だって変えた。
それなのに、あなたは「いつものあんたの方がイイな☆」ですって。
いつも通りじゃダメなんですの。…もっと好きになってほしいから。
17.あの人の好みはリサーチ済みです!
「おや、カトレアだね。」部屋に飾った花に気が付いてもらえた。
「あ、紅茶にしてくれたんだ。」
とっておきの茶葉にも気が付いてもらえた。
「守護聖様方のお好みは当然把握しておりますわ。」
「ふうん。さすがだね。」
把握していても全部揃えるのはあなたが来るときだけ。
18.やべぇ、よりにもよって、あいつも彼女が好きなのか
森の湖で彼女を見つけた。嬉しくて声をかけようと近づくと、聞こえてきたアイツの声。
「お嬢ちゃんと過ごす時間が…。」
意外なほど本気モードじゃないか。なにが守備範囲外だってーの。
ま、私も人のことは言えないけどさ。まさかこんなに本気になるなんて、ね。
19.これではいつまでもお友達のまま
毎日のようにランチやお茶の時間を過ごして。「そういえば、この間…。」
他の誰にも言わないようなことを私には話してくれて。
きっと彼女に一番近いとは思うけれど。
「オリヴィエともお泊り会をしたいですわ。 アンジェと三人で。」
何か間違えたかも、と最近思ったりする。
20.いつか俺を見てほしい
「わたくしは完璧な女王候補ですのよ!」両手を腰に当てて、高らかに笑う彼女はキレイで可愛い。
真っ直ぐに女王を目指すひたむきさも、そのために努力を惜しまないところも魅力的だ。
きっと彼女は女王になる。
「ま、その後でイイか。」
意外に気が長い自分に笑った。
21.その笑顔で一目惚れ
定期審査の後、ふらりと立ち寄った森の湖にロザリアがいた。負けても傲慢だった彼女だが、もしかしたら一人で泣くのかもしれない。
けれど、
「大丈夫。あなたは完璧な女王候補ですわ。」
水面に映る自分に言い聞かせるように微笑んだ彼女は、ただキレイだった。
22.振り向かせるための努力を
「ね、あんたの好きなタイプってどんなの?」冗談めかして聞くと。
「うふふ。 ロザリアは容姿端麗で気高い男性って言ってましたよ。」
小悪魔に微笑まれて撃沈。
「容姿端麗はクリアしてると思いますから、あとは気高さですね!」
無理かな~と、さらに追い打ちをかけられた。
23.心の底から「大好き」と叫んでみた
「あんたは女王になったんだよ?」「わかっていますわ。」
「だったらさ、こんなとこにいちゃダメでしょ?」
「なぜですか?」
「だから…。」
堂々巡りの会話にオリヴィエはため息をついた。
「好きなんですの。それは理由になりませんか?」
言い切る彼女に覚悟を決めた。
24.チョコに気持ちを託して
「手づくり?」「いいえ。 違いますわ。」
がっかりしたのは、アンジェからロザリアが手作りしていると聞いていたからだ。
それでもさりげなくリボンを外し、蓋を開ける。
「あれ?」
「手づくりじゃありませんから。」
顔を赤くした彼女の前で、不揃いなチョコを口に入れた。
25.あの手この手で気を引いて
「飲みすぎたみたい。」上目づかいで見上げて。
「もう歩けませんわ。」
倒れるふりをして、ぎゅっと胸を押し当てるように抱きついて。
マニュアル通りに誘っても、彼は「仕方のないお姫様だね。」と笑うだけ。
…それが実は彼の手だなんて、もちろんロザリアは気づかない。
26.惚れた方の負けとはよく言ったものだ
「今帰り? 送ってくよ。」補佐官の執務はとても忙しい。 だから残業続きなのは当たり前のこと。
「まあ、一人でも大丈夫ですわ。 子供扱いなさらないで。」
ロザリアはそう言ってむくれるけれど。
子供じゃないから心配してるってコトもわかってほしいね。
27.俺もいつかは彼女とあんな感じに……
出張の途中、土産を買いに町へ出た。ブラブラ歩いていた途中で見つけた、古びた写真館のウインドウ。
飾られた3枚の写真に目が留まる。
結婚式の二人。子供と一緒で四人。そしてまた二人。
きっと彼女と自分もこんな風に生きていくのだろう。
そう思えることが嬉しかった。
28.プレゼント受け取ってくれるかな?
いつも通りのデートの帰りに、冗談っぽく言ってみた。「あんたにプレゼントしたいものがあるんだけど。」
「まあ、なんですの?」
「わ・た・し。 って言ったら、どうする?」
ポカンとして、すぐ真っ赤になった彼女が
「…いただきますわ。」
ぎゅっと抱き付いてきた。
29.面と向かって言えないから
ベッドの下に隠した日記も3冊目。補佐官になってから、あっという間に溜まってしまった。
1冊目は慣れない執務への愚痴。2冊目は忙しい日常への愚痴。
そして3冊目は。
キライ嫌いと書いてあるのに、それは誰が見ても…好きとしか読めない。
彼の名前で埋まっている。
30.冗談めかした言葉に想いを乗せてみた
三人でのカフェランチ。「素敵なネイルですね!」
興味津々なアンジェリークに覗き込まれて、両手を広げて見せる。
「前はピンクとか明るい色が好きだったんだけどね。
最近、ブルー系にハマっちゃってさ。」
思わせぶりなウインクも青い彼女にあっさりスルーされた。
31.彼女を誘うきっかけを探して
「きゃ!」竜巻のような風に慌ててロザリアは身体を縮めたものの、きちんと巻かれていた髪がほどけてしまった。
「どうしましょう…。」
困っていると。
「おや、大変。直してあげるから私の部屋においでよ。」
これで午後は二人きり。オリヴィエは風に感謝した。
32.あの子の友人から情報収集
「こっちもどうぞ。」お皿の上にはカフェ中のケーキが山盛り。
アンジェリークはフォークを両手に、満面の笑みでぱくついている。
「で、あの子のことなんだけどさ。」
「ふあい。何れも聞いてくふぁふぁい!」
まずはあの子の好みのケーキから教えてもらうことにした。
33.貴方の傍にいるその人は誰?
夢の執務室のドレッサーの前に誰かが座っている。彼の手がその誰かの髪を梳かして、メイクを施して。
わたくしの場所だったはずの、そこに。
「さ、できた。」
彼が離れて、鏡越しに目が合ったのは、女王陛下。
「…執務時間中ですわよ?」
引きずり出して、連れ帰った。
34.少しでも貴方に近づくために
あ、と思った時には見事に転んでいた。「そんなに高いヒールを履いてくるから…。」
靴を脱ぎ、立ち上がって、オリヴィエを見上げる。
さっきまでよりも…遠い。
「ね、知ってる?キスがしやすいのって12cm差らしいよ。」
彼がヒールで来なかった理由を教えられた。
36.だって好きになっちゃったんだもん!!
手を取り合って階段を降りてくるアンジェリークに花をかける。前代未聞の女王の結婚。 きっと彼女だからできたのだ。
「次はロザリアの番だからね!」
飛びついてきたアンジェリークに
「まかせといて☆」
オリヴィエがウインクを返す。
幸せの涙はとても暖かかった。
37.些細な事で嫉妬して
「まあ…!」ロザリアのバイオリンにリュミエールのハープが重なる。
「私もこの曲は好きなんですよ。」
微笑み合いながら同じ曲を奏でる二人。微妙にいい雰囲気で面白くない。
「実は私も好きなんだよねぇ。」
隠してた特技のピアノを思わず披露しちゃって…バカだよねぇ…。
38.邪魔はしないから好きでいさせてください
図書館の一番奥の角。 西日の差すその場所が、彼女の指定席だ。静まり返った中で彼女のペンの音がサラサラと響く。
生真面目で勉強熱心で…誰よりも純粋でまっすぐで。
望み通り、女王になればいい。
玉座に昇ったとしても、私はあんたを諦めたりしないから。
39.分かってる、貴方は他の人が好きなのでしょう?
「私はアンジェリークがイイと思うな☆」いつも通りの言葉に思わず出るため息。
それならいっそ無視でもして、思いっきり冷たくしてくれたらいいのに。
「一緒にお茶しない?」「日の曜日、デートしない?」
わたくしに構うのはなぜ?
…好きじゃないなら優しくしないで。
40.いつまでも見てばかりなのは嫌だから
「ど、どうして?」うろたえる彼女を胸に抱き寄せる。
「今更、ズルいですわ。」
「女王になったんだから諦めなきゃいけないって思ってたんだ。
でも、あんたが何者でも、愛してるって気が付いたから。…もう離さない。」
言葉よりも一度のキスで、全てが重なり合った。
41.街中で探すは君の面影
「あ、これ、いいね。」「あっちもいいかも。」「こっちのほうがいいじゃない。」ウィンドウをひやかして、どんどん手の中の荷物が増えていく。
「この青。 絶対似合うよね。」
自分の買い物に来たはずが、いつの間にか彼女のモノばかり。
心の中の割合ときっと同じだ。
42.画面の中のカップルを自分たちに置き換えて
「わ、ペアルックだって。」呆れた顔のオリヴィエに胸が痛む。
偶然町で見つけたペアリング。
繊細な細工がキレイで、彼にも似合いそうで。…おねだりしようと思っていたのに。
「でも、あんたとお揃いなら悪くないかも。」
ね、と言ったオリヴィエの手にあの指輪があった。
43.二人きりになるために頑張ります!
ルヴァと女王候補達とでWデート。「せっかくだし、ペアでボートでも乗らない?」
私はさっとティッシュで作ったこよりにリップで印をつけて、くじを作った。
「あ、印! わたしはルヴァ様とですね!」
感謝の目で見てきたルヴァに微笑んだけど…ホントは私のためだったりする
44.君の隣に立ちたい
「ホラ、おいで。」あなたが差し出した手に、わたくしはそっと自分の手を重ねた。
指と指と絡めて、離れないように、しっかりと。
「ん。 これでいいね。」
手を繋いで、並んで街を歩く。
たったそれだけで世界が変わって見えるなんて、あなた以外、誰も教えてくれなかった。
45.まさかの四角関係!?
「今度、一緒に食事でも。」偶然聞こえてきた声。
断ってくれるはずと思いながらも「ごめんなさい。」の言葉に安堵する。
彼は彼女が好きで、彼女の友達は彼が好きで。
世の中上手く行かないことだらけなのに。
「オリヴィエ。」
私を好きだと言ってくれる彼女を強く抱きしめた
46.気持ちを伝える勇気をください
1、2、3…9。シャーペンを名前の数だけ押した後、伸びた芯でハートを書き、彼のことを念じながら、中を塗りつぶす。
両思いになれるオマジナイ。
消しゴムもリップも試したけれど、今のところ効果はなくて。
くだらないことを、と笑っていた同級生たちに心の中で謝った。
47.この好きという気持ちは誰にも負けないのに
「うまくいけば、いい返事をしてくれると思うわ。」「ありがとうございます!」
ウキウキと出ていくコレットを見送って、ため息。
本当はわたくしだって彼を誘いたい。
女王候補の頃のように話したい。でも。
「お願い。…彼を取らないで。」
もう見えない彼女の背中に呟いた。
48.私の気持ちは迷惑ですか?
「あ。」出かかった言葉を大慌てで飲み込む。
昨日までと違う彼のリップの色。
けれど、それはロザリアがプレゼントしたものとは違っていて。
「気に入っていただけなかったのね…。」
こぼれそうになる涙をぐっとこらえた。
…恋ってもっと素敵な物だと思っていたのに。
49.どうして貴女は別の人のものなのですか
「まだ終わらないの?」机に突っ伏した女王を青い瞳が冷やかに見下ろす。
「当分無理ですわ。さ、次はこちらにサインを。」
無理やりペンを握らされて、女王は唇を尖らせているが。
朝から晩まで彼女は女王に付きっきり。
…私の恋人でいるよりも補佐官の方がはるかに長い。
50.これで振り向いてくれたらいいのにな
今日の定期審査もわたくしの勝ち。完璧な女王候補ですもの。 そんなことは当たり前。
育成だって礼儀作法だって、誰にも負けるつもりはない。
けれど。
「ま、元気だしなよ。 あんたもよく頑張ってるって。」
アンジェを優しく励ます彼に…ずきりと胸が痛んだ。