51.電話は無理だけど、メールぐらいならいいよな?
「…だれ?」知らない番号からの無言電話にさすがにイラついた。
いやがらせかと思ったら、「…申し訳ありません」と怯えた声。
そういえば、ロザリアにだけ私用電話を教えたんだっけ。
どうせならメールじゃなくて声が聴きたいなんて、私も結構重症だね。
52.あとはボタンを一つ押すだけなのに
大ゲンカした次の朝。彼女はとっくに隣から消えていた。くだらない理由で、あんなに言い争って。
怒った手前、ちょっと気まずくて。
私はベッドサイドの携帯を弄び、
「ごめん。」
一言入力してすぐ、飛び起きて聖殿に走った。
やっぱりちゃんと謝ろう。彼女の笑顔が見たいから
53.使い慣れたツールが別物のようで
最後の仕上げはリップ。いつものように、彼女は青紫の睫毛を伏せ、つんと軽く唇を突き出している。
なにも塗らなくたってツヤツヤでぷっくりした唇はまるで私を誘うようで。
あ、ホントにヤバいかも。
リップブラシなんかいらない、とばかりに、私は唇を重ねた。
54.緊張しすぎて言葉が浮かんでこない
さっきからずっとオリヴィエは黙ったまま、わたくしを見つめている。すぐそばで聞こえる誰かの声に彼の唇が動いたけれど、何を言っているのか全く聞こえない。
「…誓いますか?」
誰かが問いかける。
「…イエス、でしょ?」
彼に促されて、ただ頷いた。 今日は人生最良の日。
55.どうしよう!すごく嬉しい!!
窓辺に飾った花を見ては、自然ににやけてくる顔をなんとか引き締める。甘い香りと風に揺れる白い大きな花びら。
花の女王とも称されるカトレアは、彼が以前一番好きだと言っていた花だ。
「なぜ、これをわたくしに?」
少しは期待してもいいのかしら? 胸の音がうるさくなった。
56.なんて返信したらいいかな?
『はあい、お元気?日の曜日、おヒマかな?いいお返事待ってるよ』PCを開いた途端飛び込んできた宛名のないメール。 差出人は見なくてもわかるけれど。
「きっと間違いですわね。」
こんな誘いは今まで一度だってない。
でも…。
『空いていますわ』
震える指で返信した。
57.少しずつ貴女の事を知って
好きな紅茶はダージリン。好きなお菓子はシャルロットポワール。好きな色はブルー。好きのデータはそろってきたから、今度は…。
「おやめください!」
…嫌われそうなことをしてるって自覚はあるのに、彼女をもっと知りたくて。
つい意地悪するのを許してくれるといいんだけど。
58.年の差カップルってのもあり……だよな?
こうなることはわかっていた。だから神様が先に私を下界へ下ろしたことを別に恨んじゃいない。
「ちょっと若すぎるって、みんなにはからかわれそうだけどね。」
私は最近作った老眼鏡を外して、勢いよく胸の中に飛び込んできた青紫の髪を抱きしめた。
59.もう少しでクリスマス
「ねえ、今度の土の曜日って空いてる?」昼下がりのお茶の時間、なにげなく尋ねられた。
わたくしは、わざとらしく手帳を広げ、しばらく黙り込んでみる。
「一年前から埋まっていますわ。」
予定なんて入れているはずがない。
クリスマスはあなたと過ごすと決めているから。
60.君は誰と一緒にすごすのだろう?
たくさんの星が流れていく。古い宇宙から新しい宇宙へと、全てが鮮やかに変わっていく。
今夜は彼女が彼女でいられる最後の夜。
あの時、私が手を振りほどかなければ、この宇宙はきっと滅んで無くなっていただろう。
だから。でも。
これが後悔と言うのだと、初めて気が付いた。
61.私と付き合ってくれませんか?
陛下に手招きされて、中庭の奥へと忍び足で進む。するとそこにはロザリアと研究院の男がいて、いわゆる告白の真っ最中。
興味津々の陛下と茂みに隠れて、聞き耳を立てる。
私が言えない一言を簡単に口にした男に、意味もなく腹がたった。
…友達のままでイイなんて、もう思えない。
62.ちょっとだけ触れた指先にドキドキして
「そうじゃなくて。」何度繰り返しても、うまくいかない三つ編み。
不器用ではないはずの彼女が悪戦苦闘している姿は珍しくて。
なにげなく彼女の手に指を添え、一緒に三つ編みを作っていくと、鏡の中の彼女の頬が真っ赤に染まっている。
…その顔は反則でしょ。我慢できなくなる。
63.こ……これってデート!?
忍び足で後を追い、物陰に身を潜めた。前を歩く人物は、彼と腕を組み、スキップしながら店をひやかしている。
「行きますわよ。」
私と並んで身を潜めていた彼女の号令で、再び後を追う。
…陛下のお忍び旅行の護衛。
そんな任務でも、彼女が一緒なら悪くないかもしれない。
64.もう少しだけ一緒にいてほしい
鏡に映るのは彼がセットしてくれた髪とメイクで完璧に整えられた姿。「キレイだよ」
選んだ道に後悔はないけれど。
玉座に上るまではあなたを好きな一人の女の子だから。
「ここが気になりますの。」
ありもしない髪の乱れを指摘して、最後のひと時を伸ばした
65.照れるばかりで何も伝えられず
「あの~、え~、その~ですねえ」中庭で唸るルヴァについ声をかけると、告白の練習だなんて、びっくりするような返事。
「あなたはなんとロザリアに言ったのですか? 教えてくれませんかね?」
真顔で問い返されて、ひたすら絶句した。
さすがにそれは二人の秘密にさせてほしい。
66.お邪魔虫の登場にうんざり
午後のティータイムは、恋人同士の貴重な時間なのに…。「ゼフェルったら、また僕の花壇を荒らしたんだよ!」
「耕しメカだっつーの!」
やいやい言い争う二人の仲裁のため、ロザリアは行ってしまった。
「アイツら…絶対泣かす!!」
一人で二つのケーキを無理やり詰め込んだ。
67.これから先もこうして一緒に過ごせたらいいのに
心地良い陽気にうっかり眠ってしまったらしい。慌てて起き上がろうとしたわたくしに
「そのままでいてよ」
オリヴィエの声が真上から降りてくる。
「膝枕って、してあげる方も幸せになるよね」
される方はもっと幸せですわ、と言いかけて、もう一度、そっと彼の膝に頭を乗せた。
68.もの言いたげな視線
いつもの朝礼の時間、皆が私を見て、ギョッと目をそらしている。ようやく、
「お前、その傷…」
私の頬に斜めに走るひっかき傷をオスカーが指差した。
「あ、コレ?子猫にやられたの」
途端に安堵の空気が広がったけれど。
その子猫、蒼い瞳なんだよね、と心の中で付け足した。
69.次はいつ会える?
雲雀の声に目を覚ますと、彼はすでに身支度を始めていた。女官が訪れる前に出なければいけないのだから、と頭ではわかっていても寂しい。
わたくしの額へ優しいキスを落とすと、彼は窓から忍び出る。
「陛下。お支度の時間です」
一人の女から女王へと、わたくしは心を切り替えた。
70.勇気を振り絞って
「約束でしょ」アンジェに背中を押されて、たどり着いた彼の執務室の前。
お互いに気になる人を誘い合う、なんて子供じみた約束を本気にするなんて。
「わたしはちゃんと誘ったわ」
逡巡するわたくしを無視して、アンジェがドアを叩く。
ああ、神様。どうか彼が笑ってくれますように。
71.デート前の準備は入念に
「今日も完璧だね」鏡の前でくるりと回り、デート前の最終チェック。
大事な彼女とのデートだから、もちろんいつもよりも念入りだ。
「あとは…」
仕上げのリップを塗ろうとして手を止めた。
「今日はいらないかな」
彼女の唇を味わうなら…余計なものはつけない方がいい。
72.あの人はこういうの好きかな?
「どちらがいいかしら?」久しぶりのデート前、2つを並べて迷う事、数十分。
胸元が大胆なピンクと超ミニのブルー。
どちらも執務服とは違う、セクシー路線のワンピ。
なのに
「オリヴィエはこれでしょ?」
アンジェが指さしたのは、女王候補時代のワンピだった
73.前日から落ち着かず
「羊は広い牧場にたくさんいる子たちが次々飛ぶのかしら?それとも一匹がぐるぐる回って何回も飛んでいるのかしら?」真面目に聞いたのに
「知らな~い」
アンジェときたらあくび交じりの返事。
「早く寝ないとお肌に悪いよ」
わかっているけれど眠れない。初デートの前夜。
74.身だしなみOK!!
「おはよ」すれ違った彼女の視線が私を追うのがわかる。
今日の私のファッションは、派手めの柄シャツにストレートのチノパン。
あえて素足でレザーのローファー。
執務が休みの週末は2日も会えないから。
金の曜日は、一週間で一番、オシャレに気合を入れる日だ。
75.待ち合わせ時間には余裕をもって
約束の時間10分前。彼女が急ぎ足でやってくる。噴水前は待ち合わせの定番スポットで、次々に恋人達が巡り会い、そのたびに彼女は少しがっかりした顔をする。
「ごめん。遅れたかな?」
私を見つけて輝く彼女の顔が見たいから。
本当は先に来ているなんて絶対に言わない。
76.早く着きすぎて待ちぼうけ
一人で寂しい夜を過ごしているとばかり思っていたから「せっかく急いで来てったいうのにさ」
出張から一日早く帰った私を待っていたのは、明かりのついていない家。
私の留守の間に女子5人のお泊まり会なんて聞いてない。
もしかして出張も女王の策略? 一人酒で布団に潜り込んだ
77.周りはカップルだらけ
「こっちだよ」慌てて近くの茂みに隠れて、女王と彼をやり過ごした。
彼女と二人のお忍びの警護はスリルもあって楽しい執務。
けれど夜更けの公園は恋人達の甘い空気に満ちていて。
つい私達も、と調子に乗ってキスを仕掛けたら、彼女に睨まれた。
仕事熱心な恋人を持つと辛い…
78.私たちも周りから見ればカップルに見えるのかな?
手を繋いでウインドーショッピング。クレープを食べて、プリクラを撮って。「まるでデートみたい」
楽しそうに言うロザリアにがっくりしてしまう。
日の曜日に二人きりで会うなんて、デート以外のなんなのか。
まさか映画のカップル割引のためだけ、なんて思ってないと信じたい。
79.手を繋ぎたいと言ったら嫌がられるだろうか?
二人きりのお出かけ中、そっと彼女に手を伸ばすと、あからさまに避けられた。「手も繋がせてくれないって落ち込むよね」
ついアンジェに愚痴ったら
「あ、それはね」
私のためのプレゼントで指をあちこちケガしたらしい。
贈ってくれた刺繍入りのハンカチはもったいなくて使えない
80.可愛いって言ってもらいたいのに
髪をふんわりさせて、リップも淡いピンクにして。フリルでドレスを飾って。精一杯努力しても、鏡に映るのはキツい目をした少女。
落ち込むロザリアに
「好きな人に好かれたいって努力する女の子はみんな可愛いよ」と励ました。
それが私のためならもっと嬉しいんだけどね
81.楽しい時間は過ぎるのが早くて
時計を見れば10時半。まだお昼まで2時間もある。昨日の今頃は彼女と野ばら牧場をぶらぶらして、ソフトクリームを食べてたのに…。
「週休5日にならないかな」
思わずこぼれたつぶやきをジュリアスに聞かれて睨まれてしまった。
執務が嫌いなんじゃない。彼女が好きなだけなんだ
82.次の約束はこちらから
彼女が目を覚ます前に部屋を出るのがルール。そっと額にキスを落とし、「好きだよ」と囁いた。
女王である彼女が『ロザリア』に戻れる時間は僅か。
だから、彼女に呼ばれたときだけが二人の時間になるのは仕方がない。
でもいつかは。
「今すぐ会いたい、って言える日が来るよね」
83.届いたメールにホッと一息
辺境の惑星の事故の後処理に出ていった彼。いつもなら毎日の電話が当たり前なのに、今回に限っては連絡がない。
『綺麗な女性が多い星だったな』
そんなことをしたり顔で言うオスカーを睨みつけ、枕元に電話を置く日々。
『明日帰るね』
やっと現れた文字を思わず抱きしめた。
84.少しずつ時を重ねて
「新しい人生にあんたは必要じゃないんだ」先に下界に降りるしかなかった私は、そう言い捨てて、縋る彼女を振り払った。
間違いではなかったと思う。彼女には補佐官が似合っていたから。
でも、もう一度あの日に戻れたなら。
私は皴だらけの手で涙を拭うと、青い空を見上げた。
85.たまには喧嘩もあり?
「どうせわたくしは頭の固い女ジュリアスですわ!」枕を叩きつけて怒りを発散させてみても、イライラは収まらない。
けれど、彼の言うことに一理あることも心のどこかでわかっていた。
初めてのケンカが、まさか執務のことだなんて。
同僚が恋人だとこんな苦労もあるのだと知った。
86.すれ違いの日々
「ね、ロザリアは誰がいいの?」アンジェリークのキラキラした目にロザリアはたじろぐ。
「オリヴィエ様と仲良しよね?…好き、なの?」
まさかの直球。思わず
「なんとも思っていませんわよ」
嘯いてから、オリヴィエの姿に気づいて。
聞かれてしまったことに心がざわめいた。
87.離れていく気持ち
「好きな人はいないよ」オリヴィエの言葉はロザリアの胸を打った。
好かれていると思っていたわけではないけれど、日の曜日やお茶の時間、かなり親密に過ごしてきたつもりだった。
「わたくしは女王になるためにここに来たのですわ」
自分自身に言い聞かせて、そっと涙をのんだ。
88.それでもやっぱり君と一緒にいたい
フェリシアの中の島まで、あと建物3つ。たまらずに、ロザリアはオリヴィエの元に走った。
「女王よりも…」
言いかけたロザリアの唇をオリヴィエのそれがふさぐ。
「女王よりもじゃないよ、女王になっても、でしょ」
欲しいものは全部手にしたらいい、とオリヴィエは笑った。
89.喧嘩の後は仲直りを
「わたしはね、ほっぺにチュッとするわ」アンジェリークに聞いたのが馬鹿だった。
ささいなことでしてしまったケンカ。
仲直りの方法を聞いたはずが惚気られて。
でも。
「わ、どうしたの?」
意外にもアンジェリークの方法は効果抜群で、オリヴィエは笑顔でキスを返してくれた。
90.しっくりくる位置関係
朝礼の時、彼女は女王陛下の隣。会議の時、彼女はジュリアスの隣。補佐官の定位置は、夢の守護聖の私とはかなり離れている。
それは仕方がないけれど。
毎夜、彼女は私の下で艶やかな声で啼く。
その時が、一番幸せな時間。幸せな二人の定位置。
91.近い将来での約束
「待っていますわ」わたくしが聖地を去る日、永遠の別れが辛くて、そう言ったけれど無理だとも悟っていた。
「約束なんてするものじゃありませんわね」
一人きりのテーブルで一人分の紅茶を淹れる。
今は、彼を待つ日々も幸せだったと、思える日が来ると信じるしかなかった。
92.これから先を貴方と共に
「補佐官をやめてついてきてくれる?」苦悩に満ちたオリヴィエの声に、わたくしは頷いた。
女王試験を降りた時も、彼が最後まで悩んでいたことを知っている。
なぜ悩む必要があるのか。
「わたくしの全てはあなたと共にありますのに」
ぎゅっと抱きしめられて、幸せがあふれた。
93.最期の時まで一緒にいてください
サクリアを失えば、聖地にはいられない。時間の流れが異なる下界と離れ離れになれば、二人は共に生きられない。
私たちが選んだ道は共に逝くこと。
「ほかに道はなかったの…」
女王と夢の守護聖の悲しい愛の結末は、長い宇宙の歴史の中でひそかに葬り去られた。
94.それが私たちの幸せの形
「ただいま!」慌てて家に駆けこんできたロザリアに、
「ごはんならできてるよ。それともお風呂?」
守護聖をやめたオリヴィエは、補佐官として忙しいロザリアの主夫をしてくれている。
申し訳なさで小さくなるロザリアに
「あんたといられて幸せだよ」とオリヴィエは笑った。
95.これからの私たち
久しぶりの下界は見違えるほどに変化していて、二人は驚いた。「キャッシュレス?」「リモートワーク?」
初めて聞く言葉に戸惑うばかり。
「勉強しなきゃね」
オリヴィエの呟きにロザリアも頷く。
これから二人で生きていくために必要なスキルなら、学ぶことも楽しいと思えた。
96.夢にまで見た純白の姿
純白のドレスに身を包んだロザリアは、満面の笑顔で微笑んでいる。手にしたブーケはマルセルのお手製。ベールはアンジェリークが編んだレース。
キラキラ輝く世界一の花嫁姿はとてもまぶしい。
「幸せになれよ」
オレはフラワーシャワーと一緒に自分の恋心も空へ放り投げた。
97.一対の指輪に願いをこめて
「おそろいだよ」オリヴィエが自らデザインしたという指輪は、ロザリアの指にぴったりだ。
「しばらくはこれで我慢して。あの時は、もっとちゃんとしたのを贈るからさ」
「あの時?」
「病める時も健やかなるときも、ってね」
オリヴィエの口づけに、ロザリアは耳まで赤くなった。
98.この想い、神様ではなく貴方に誓う
「おめーのことが好きだ」今更告げたって、どうなるわけでもない。
けれど、もう二度と会えないかもしれないなら伝えたかった。
「オレは下界でまた別の女を好きになって、お前らと同じくらい幸せになってやるからな」
瞳を潤ませた彼女の頭をぽんと叩き、オレは聖地を出た。
99.その誓いは永遠に
「やっと安心できましたわ」アンジェリークの結婚式。前代未聞の女王と守護聖の結婚に、ロザリアはそれこそ宇宙中を奔走したのだ。
「次は私達の番ってことでいい?全世界の神様にあんたへの愛を誓いたいよ」
アンジェがくれたブーケの効果はすごい、とロザリアは心の中で感謝した。
100.愛してるよ!!
女王になることが夢だった。今もその気持ちは変わらない。
でも、夢よりももっともっと大切なものができてしまった。
「愛してるよ」
彼の一言がわたくしの世界を変えた。
永遠の愛があるかなんて知らないけれど、今、この瞬間、たしかにわたくし達はお互いを「愛している」